計算違い
急に空気が冷えた。天井から何かが降りてくる。黒い衣装と翼、真っ赤な瞳。尖った尻尾を揺らしている。私は訓練されているので、その悪魔に焦点を合わさないで平静を装っている。
「何だ、何も起きないじゃんか。帰るか。今度は二人も何か持って来いよ。」
「天使がいるではないか。俺様を呼んだのはそこの餓鬼のようだが、誰かに操られていたようだ。真の召喚者は何処だ?」
空気を震わせるような声だ。やはり他の人物がいるのか。私は気になったが、不自然でないように教室を出た。翼は用事があると言って残る。
「天使は帰れ。」悪魔は天使に剣を向ける。
「此処は私の管轄なの。騒ぎを起こされたら困るから。」
「下級天使ごときがよくもほざく。お前がいると召喚者が現れないようだ。俺様は此処で戦ってもいいのだぞ。」
天使はその言葉に怯み、悔しそうに立ち去る。
「そろそろ現れたらどうだ。」
僕は窓から中に入る。此処まで高位の悪魔に会うのは初めてだから緊張する。僕は深々と頭を下げる。
「失礼致しました。貴方様をお呼び立てしたのは僕です。ご無礼をお許し下さい。」
「死神…いや、ハーフか。」
「左様に御座います。是非お頼みしたいことがあり、このような場所にお招きしました。」
首元に剣の気配を感じる。気に障ったか?僕は黙って悪魔の反応を待っていた。
「先程の天使より余程大物のようだ。つまらない話だったらお前の首をもらい受けるぞ。ハーフの死神を喰えばかなりの力を得られるという。」
「寛大なご処置に感謝致します。実は僕の他にもハーフがいるのです。それもまだ成人を迎えていない状態です。しかし、先程ご覧になったように、此処には天使がおります。つきましては、その子を護るためにお力添え願えませんでしょうか。」
「ふむ。俺様のメリットは?」
「僕は永遠に貴方様の手足となってお仕え致します。それなりにお役に立てるかと。」
「面倒だ。俺様は別に今のままでも困らん。それにハーフとは言え、所詮はただの死神であろう。期待外れだな。」
僕は剣が振り下ろされる前に逃げた。実体化していたら床が抜けそうな衝撃だ。変だな。接触する前に情報くらいは調べた。二つ返事で引き受けると思ったのに。殺意に満ちた攻撃だ。僕はすぐに鎌を取り出す。刃に血を塗りこんで強化した。
空中には無数の剣が浮いている。僕は慌てて避けるが、少し掠った。僕はチェーンを悪魔に投げる。チェーンは何にも当たらず落ちた。囮だ。すぐに後ろを振り返る。串刺しになるところだった。僕は剣を素手で握ると、そのまま蹴りを入れる。
駄目だ。勝ち筋が見えない。僕は足を止めた。仕方ない。諦めよう。
「なんだ。もう仕舞いか。」
つまらなそうに悪魔が言う。
「はい。失礼ですが、貴方様を侮っておりました。」
僕は鎌を真っすぐに掲げ、狙いを定める。これだけの手練れを喪うのは惜しいが、僕が死ぬわけにはいかない。
「鎮魂歌。」