命の重み
「どういうことですか?貴方が転校してからたった二日で三人もの生徒が亡くなっています。しかもそのうちの二人は貴方のクラスの生徒だとか。前代未聞です。」
聞いたことのない男性の声だ。
「申し訳御座いません。きっと死神の仕業です。どうか今一度チャンスを…。」
「良いでしょう。その死神にはしっかりと警告なさい。ですが、これ以上一人でもその地域から不審死する者が現れたら、貴方には相応の処罰を下しますよ。肝に銘じておくように。」
「承知致しました。」
「忌々しい死神め!」
翼は地団太を踏む。私にもようやく事態が呑み込めた。その後、教室に戻ってみると、翔の背中にいた霊が消えていた。助かった。ホッとすると同時に、死神に対する不信感も募る。
「お帰り。上手くいったでしょ。」
「確かに翔ちゃんは助かったけど、代わりに三人も死んだ。他の方法はなかったの?」
僕はこれでも譲歩した方だ。紗里は知らないことだが、あの三人は中学校の時、虐めの主犯格だった。彼らのせいで一人の生徒が自殺した時には余程殺してやろうかと思ったが、まだ若いから見逃したのだ。
「ごめん。あまりに時間がなかったから。それより、この件で天使にも死神の存在が分かったはずだ。より注意しないといけないよ。いいね。」
「だから、翼がオレの背中に手を当てた瞬間に、スッと軽くなったんだってば。これはすげえよ。エスパー、霊能力者?よく分かんねえけど。」
「またまた、私はそういうの信じないから。」
私は笑い飛ばす。確かにエスパーや霊能力者も凄いけど、翼はそんなものじゃない。本物の天使だ。
「偶然ですよ。」
翼も言った。翔だけが熱っぽく語る。
「いや、これは本物だって。そうだ、オレらでオカ研を作らないか?」
「オカ研って…オカルト研究会のこと?嫌だよ。私はそういうの興味ないの。部活に入りたくないし。他の人を当たって。」
「三人しかいないから同好会扱いになる。参加は自由だよ。いいだろ?翼も、その力はもっと伸ばして世の中のために役立てなきゃ。」
部活に入ったことがない紗里にとってこの提案は魅力的だったが、放課後も天使と会うなんて言ったら死神が猛反対するはずだ。
「私は…。」
「おお、部活を作るのか、良いことだ。水野も名前だけ貸したらどうだ。内申点が上がるぞ。翼も途中入部より気が楽だろう。」
先生が余計なことを言う。内申点がどうあれ、成人するまでしか関係ない。しかし、結局私は流されるままに入部届を書いてしまった。
「同好会ね。いいと思うよ。」
死神の反応は意外なものだった。
「いいの?」
「うん。天使がどんな動きをしているのか早めに分かるかもしれないし、部活をすることが出来る最後の機会だからね。危ないと思ったらすぐにやめればいい。」
翔は思ったよりも乗り気で、早速怪しげな本やら十字架やら持って来てそれらしいことをしている。一方私と翼は冷めている。本物を知っていると児戯に付き合っていられない。
「止めようよ。馬鹿らしい。」
私は欠伸を噛み殺す。下手に本物があるより平和でいいか。
「待ってよ。これは本物だから。何と、いつの間にか鞄に入っていた魔導書。それっぽくね?悪魔を呼べるかもよ。」
黄ばんだ羊皮紙に血文字でラテン語かルーン文字が書いてある。少なくともそういう風に見せている。
「はいはい、これで最後ね。」
「待って下さい…。」
翼の顔が蒼い。これは本物なのか?
「急にどうしたの。どうせ偽物でしょ。」
「え、ええ…。でも止めましょうよ。」
その態度がかえって翔の好奇心に火を点けたことは言うまでもない。彼女は適当に頁を捲ると、声に出して読み始めた。よく読めるな。あんな文字私でも知らないのに。