自己紹介
「もう昼休みになるぞ、黒木。さっさと座れ。」
程なくしてチャイムが鳴った。どっちにしたって私が祓えるレベルの霊じゃない。でもあの死神はきっと助けてくれないだろう。
「紗里、顔色わりーな。どしたん?」
翔に話しても信じてくれないと思うし、除霊師なんて名乗る連中の大半は思い込みが激しいだけだ。本物には会ったことがない。
「五時間目の数学の単元テストが不安でさ…。」
「紗里でも不安なのかよ。参ったな。オレ全然勉強してないよ。ヤバくね?」
「すみません。食べ終わったらでいいので、学校を案内してくれませんか。」
転校性が声を掛けてきた。断りにくい。嫌だな。
「別にいいよ。オレ、黒木翔。こっちが水野紗里。宜しくな。」
翔があっさりと自己紹介してしまった。私は渋々挨拶する。
「どうも。」
適当に校舎を案内しながら翔と転校生はずっと話している。私は二人の後ろを付いて行き、偶に相槌を打っていた。
「部活は何処にするか決めた?オレは剣道部だから、良かったら見学しに来いよ。」
「黒木さんって剣道部っぽいですよね。私はまだどの部に入るか決めてなくて…。水野さんはどちらの部活に入っているんですか。」
「私は帰宅部だから。」
あまり他人と関わるわけにはいかないから、小学校の時からずっと部活に入っていない。羨ましいと思うことはあるけど、部活のためにリスクを冒す訳にはいかない。
「そうですか…。今度剣道部の見学に行きますね。」
さっき翔のことを剣道部っぽいと言っていた。確かに翔は女の子にしては高身長で剣道部らしい。その基準でいけば転校生は剣道部っぽくない。美術部か合唱部辺りにいそうだ。
放課後になり、多くの生徒が部活に向かう中、私は一人通学路を歩き、家に帰った。
「ただいま。」
「お帰り、紗里。学校はどうだった?」
叔母さんが言った。
「別に…普通。」
私はそのまま二階にある自分の部屋に向かった。中には死神が待っていた。
「お帰り、大丈夫だった?」
「ねえ、翔ちゃんが霊に憑りつかれているの。あのままじゃ危ない。祓ってくれない?」
案の定死神は首を横に振る。
「言ったでしょ。死神は人間の寿命を延ばせない。諦めて。それより、転入生の方こそ大丈夫だった?」
「お願い。翔ちゃんは私の親友なの。何とか出来ない?」
「一回様子だけ見に行くよ。どのくらい深刻なのか見ないと何とも言えない。それで、転入生の前で霊に反応しなかっただろうね。」
私は頷く。
「良かった。彼女は下級天使だよ。紗里のことを探しに来たのかな。暫くしたら別の地に転校するだろうから、それまでの辛抱だよ。」
僕は翼を広げた。天使がいる時に出歩きたくはないけど、紗里の頼みだから仕方ない。仮面を着けると少し羽ばたきながら言った。
「翔ちゃんの様子を見てくる。家から出ないでね。」