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第九話 牧場の熱い夜

 銃口から熱い鉛が吐き出された。

 肩を押す力を受け流して、俺は直ぐに銃を持ちかえる。

 ストックを肩から外して地面に垂直に立て、それから銃口から火薬と弾丸を詰め込む。


「・・・」


 俺は意図して放った弾丸の行く末を見ないようにしていた。

 ただ黙って弾を込めて、それから惚けた様子のロバートに声を掛ける。


「お前も撃て」


 そう言って再び暗闇の中に銃口を向ける。

 松明の灯りは先程よりも低い位置に移動していて、煙草の火もここからでは見えない。

 慌てた様な、荒くれた連中の声が良く通って聞こえてきて、それから直ぐに俺の側の戸板が弾ける。


「う、撃ってきた!」


「・・・っ」


 最初の俺の銃声と、それから牛泥棒の放った弾丸が爆ぜた音とで牛舎の中が俄に騒がしくなった。

 俺は再び目を凝らして、松明の揺らめく灯りの中の僅かな人影に狙いを付けて引き金を引く。

 慣れ親しんでしまった衝撃の後、闇夜に消える弾丸を直ぐに振り払って弾込めを始める。


「チクショウッ!!」


 漸くロバートが銃を構えて引き金を引いた。

 俺の銃よりも幾分大きな銃声に続いて、鉛の礫が吐き出される。


「本当に来やがった!何だって俺の時に来やがったんだ!」


 自棄気味に文句を言いながらも、ロバートは銃口から弾を込める。


「・・・」


 3発目を込め終えた俺が外に向けて銃を構えた頃、背後から近づいてくる足音が聞こえた。


「ロバート!トーゴ!」


 声を掛けてきたのはジムだ。

 大柄な若者が俺の直ぐ側に駆け寄ってくると、牛舎の扉を開けた隙間から銃を闇夜に向けて突き出した。


「トーゴ!良くやってくれたなぁ!」


 ジムが来るのに僅かに遅れて大きな鼓腹の男が銃を担いでやって来た。

 その隣にはブルックよりも更に幼い少年が不釣り合いな銃を抱えている。


「リドリーさん。相手は12人は居ます」


「おお!彼奴らに目に物を見せてやらぁ!!」


 力強いリドリーさんの返事の後、俺の側に少年が寄って来た。


「トーゴ!」


「ルーカスか」


 リドリーさんの息子のルーカスはまだ13歳の筈だった。

 そんなルーカスがこの場に来ている事に疑問を持っていると、直ぐにリドリーさんが言った。


「お前が来てると聞いたら言うこと気かねぇんだ!弾込めでもさせてくれ!」


 そう言うリドリーさんは牛泥棒に向けて銃を撃つ。


「お前何かにゃ負けねぇからな!!」


 気性の強いのは父親譲りか、全く俺にも牛泥棒にも怖じけずに銃を構えた。


「灯りの辺りを撃て」


 仕方が無く、短くアドバイスをして俺も銃を構え直す。

 その時、村の中心の方から鐘が鳴った。


「直ぐに味方が来る。それまで堪えよう」


 誰に言うでも無く言葉にして、俺は三度引き金を引いた。

 俺、ロバート、ジム、リドリーさん、ルーカス、この五人で外の牛泥棒に対抗する。

 牛泥棒の方がどうなっているのかは良く分からないが、しかし、様子からすると近づいて来る事は出来ていない。


「・・・」


 4発目を込めながら俺は少し考える。

 見える範囲での牛泥棒の数がどうにも少なすぎる。

 先程から撃ち返してくるのを考えても、どうも様子がおかしい。


「リドリーさん」


「んだぁ!?」


「俺は隣の倉庫の方に移ります」


「分かったぁ!!」


 そう言って俺は場所を移動する。

 牛舎の右隣には大きな倉庫が併設されていて、そちらの物陰から牛泥棒を狙う事にした。

 今この場には五人が固まっていて、全員がこの場に留まって撃つのは少し効率が悪い。

 その事を短い遣り取りで疎通したのだ。


「俺も行く!!」


 俺の後に直ぐルーカスが着いてきた。

 俺が断るよりも早く俺を追い抜いたルーカスは、直ぐに牛舎を出て行った。

 引き止める事も出来ず、俺は急いでルーカスを追って倉庫へと向かう。


「全く」


 ぼやいた言葉は、誰にも聞かれる事も無く闇の中に解けて消え、それから直ぐに倉庫の右側から銃声が響く。

 そちらに回り込んでみると、倉庫の隣に留めてあった荷馬車の陰でルーカスが弾を込めている。


「遅ぇぞ!」


 俺を見付けたルーカスが勝ち誇った様に言った。


「・・・」


 俺は何か言い返すのも馬鹿らしくて、黙ってルーカスの直ぐ隣に行って、それからライフルを構えて引き金を引く。

 撃てば直ぐに引っ込んで弾を込めて、その間にルーカスが銃を構えて牛泥棒を撃つ。

 そんな風にして牛舎の三人と連携して相手を近づかせない様にしていたのだが、その事に微かに疑問を感じる自分が居る。


「・・・」


 丁度10発目を撃とうとした時だった。

 俺の耳が微かな物音を感じ取る。

 靴に点けた拍車の鳴る音と、革の服が葉っぱと擦れる音だ。


「っ!」


 丁度右側、牛舎の南側の緩やかな下りの斜面の方を向いた。

 星明かりすら無い暗闇の、自分の夜目だけが頼りの中、俺はその闇の奥に僅かな光を見付けた。

 ほんの小さな瞬く様な火の灯り。


「ルーカス!!」


 その微かな火の灯りが何かと悟る前に、俺は咄嗟にルーカスを引っ張って地面に転がる。

 直後、数発の銃声が直ぐ近くで重々しく響いた。


「っ!何だ!?」


「回り込まれた!!ルーカスは牛舎に逃げろ!!」


 叫んで、俺は転がったまま銃を構えた。

 狙いは付けられなかった。

 何も目標が無く、只管に暗い中で微かな地形の輪郭が見えるだけで、それ以外には動く物すら見えない。

 そんな情況で俺は、さっきの銃声と直前に見えた煙草の灯りを頼りに引き金を引く。


「ッグア!!」


 乾いた破裂音の直ぐ後に、聞き慣れない男の短い悲鳴が暗闇の向かうから聞こえた。

 そして、それに続いて唸る様な呻き声が木霊する。


「中った!」


 ルーカスが驚いた様に声を上げる。


「早く逃げろ!」


 俺がルーカスに向かって言うと、ルーカスは全く言う事を聞かずに自分も銃を手に取る。


「お前には負けない!!」


 そう言ってルーカスは俺がしたように暗闇に向けて銃を放つ。

 今度は相手の方から悲鳴は聞こえてこなかった。


「クソッ!!」


 外した事を悔しがって悪態を吐くルーカスは、弾を込めるために立ち上がった。


「止めろ!しゃがめルーカス!!」


 俺は直ぐにそう言ってルーカスの手を引いた。

 だが、それとほぼ同時に相手の方から銃声が響いてしまった。


「っ!!!ああああっ!!!」


 間に合わなかった。

 ルーカスが銃を放り出して、両手で顔の右側を押さえてのた打って叫ぶ。


「ルーカス!!」


 これ以上は戦えない。

 俺は暴れるルーカスの身体を押さえ付けるのがやっとで、土を踏む音と拍車の音を聞きながらも何も出来ない。


「っ!テメェか!!テメェが!!」


 直ぐ近くに寄ってきた牛泥棒が怒りの声を上げる。

 俺に相手の輪郭が見えている様に、相手にも俺の輪郭が見えているようだ。

 そして、其奴が銃を構えたのが雰囲気で察せられる。


「っ!」


 ここまでかと自分の運命を悟る。

 攻めてルーカスだけでもと、俺は押さえ付けているルーカスを庇うために身体を被せる。

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