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Puraido&Honor~元高校生の独立戦争~  作者: gg
異世界暮らしの始まり
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第二話 カーター夫妻

 瞼の向こうに光を感じる。

 何か温かい物に包まれている気がする。

 俺は肺一杯に空気を吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。


「っ・・・!」


 意を決して瞼を開けると、ぼやけ霞んで良く見えない。


「起きましたか?」


 誰かに声を掛けられた。

 声の感じからしてそれなりの年嵩の女性の様だ。


「・・・貴女・・・は?」


 上手く声が出せない。

 酷く喉が渇いて、喉の奥が張り付いて塞がってしまっているかの様だ。


「はい、お水です」


 未だにぼやけたままの視界の中、その女性が俺に水を飲ませようとする。

 恐らくはコップか何かを渡そうとしているのだろう。


「どう・・も・・・っ!」


 礼を言って受け取ろうと、上体を起こそうとした瞬間、全身に鋭い痛みが落雷の様に走る。


「大丈夫ですか?」


 女性は直ぐに俺の身を按じてくれて、それから俺が身体を起こすのを手伝ってくれた。


「すみません・・・」


「さ、お水です。ゆっくり呑んで」


 女性は俺の右手を取って水の入ったコップを握らせてくれる。

 俺は、女性の言う通りにコップの水をゆっくりと呑み込む。


「・・・ありがとう御座います」


 身体中に水分が行き渡る。

 渇ききった砂漠に大雨が降り注いだかの如く、全身に浸透していって、喉の渇きと痛みが多少は増しになる。


「・・・ここは?」


 少しだけ視界が利くようになってきた。

 周りを見回しながら呟くと、女性が応える。


「ここは私と夫の家です。貴方が大雨の中で動けなくなっているのを夫が見付けたんですよ?」


 少し思い出してきた。

 と言う事は、あの時近付いてきたのは、死神では無く恩人と言う事らしい。


「・・・ありがとう御座いました」


 俺は、未だに擦れた視界のままで女性の方を向いて礼を言った。

 そうすると女性はクスリと小さく声を漏らして返す。


「御礼なら夫に行ってあげて下さい。貴方を見付けた時、夫は慌てて帰ってきたんですよ?」


 女性が言い終わるのとほぼ同時に、扉が開かれて誰かが入ってくるのを感じた。


「おお、起きたか。いや、良かった!」


 やや嗄れた。

 しかし、力強い男性の声が近づいて来て、ゴツゴツとした大きな手が俺の額に当てられる。


「熱は無いな・・・元気そうだ」


 恐らくはこの人物が女性の旦那さんで、かつ俺を助けてくれた命の恩人なんだろう。


「あの・・・」


「あ?」


「ありがとう御座いました。何と御礼を言って良いか・・・」


 そう言いながら男性の居るであろう方を向いて頭を下げる。


「止せ止せ!そう言うのはむず痒くて好かないんだ」


 男性は快活に笑いながら、俺の頭を上げさせる。

 それから肩を叩いて言った。


「何が有ったのかは分からないがな、コレも何かの縁だ。ゆっくりと身体を休めると良い」


「・・・ありがとう御座います」


 現状、今居るのが何処なのかも、自分の状態がどうなっているのかも分からない以上、俺に出来る事は何も無い。

 大変に心苦しくは思うが、しかし、ここはご厚意に甘えさせて貰おう。

 何れは、この恩に報いなければならない。


「まあ、お前さんもまだ疲れているだろう。今は確りと寝て、体力を回復させろ」


「はい」


「そう言えば・・・お前さん腹は減ってないか?」


 そう尋ねられた瞬間、俺は自分が酷く空腹であると言う事に気が付いた。

 そして、その事に気が付くと、余計に腹が減って、腹の虫が鳴き出す。


「・・・すみません」


 居たたまれなくなって謝ると、二人が声を上げて笑った。


「ははは!良い!良い!腹が減ってるのは元気な証拠だ!」


「今、何か食べられる物を持ってきますね」


 女性が部屋を出て行くのを感じる。

 男性は、俺の背中を叩いて笑い続ける。


「そういや・・・まだ自己紹介もしてなかったな」


 言われて初めて、自分がまだ名乗ってすらいない事に気付かされた。


「!・・・すみません。名乗りもしないで」


 俺は直ぐに佇まいを直して謝罪し、それから自己紹介を始めた。


「俺・・・私は朝比奈東吾と言います」


「おう・・・俺はウィリアムだ。よろしくな・・・ああ~・・・アサヒナ?・・・」


「東吾と呼んで下さい」


「おう、じゃあトーゴ」


 どうやら相手は日本人では無かった様だ。

 随分と日本語が達者な気もするが、それにしては、苗字と名前の呼び方が少しおかしい気がする。


「お待たせしました」


 何か不思議なと思っていると、ウィリアムさんの奥さんが入ってきた。


「まだ病み上がりですから、軽い物を持ってきましたよ」


 そう言った奥さんは、俺の手を取ってカップとスプーンを握らせてくれた。

 匂いを嗅ぐと、野菜の良く溶け出したスープの香り鼻腔を擽る。


「ありがとう御座います」


 礼を言って、俺はカップに口を着けてスープを啜る。

 期待通りに、スープはコンソメ風の味で、些か塩味が足りなく、胡椒も入っていない様だが、それでも充分に美味しい物だ。


「おう、ナンシー。コイツはトーゴって言うみたいだ」


「まあ、トーゴ・・・変わった名前ですね」


 俺がスープを啜る間に、ウィリアムさんが情報を共有する。


「すみません申し遅れてしまいまして」


「良いんですよ。私はナンシー。よろしくねトーゴ」


 ナンシーさんの人柄が良く知れる。

 今俺が啜っているスープの様な優しく暖かな夫婦は、俺がカップの中身を飲み干して、それから再び寝付くまで側に居てくれた。

 二人には本当にお世話になった。

 この恩は本当にいつか必ず返さなくては成らない。

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