第一話 プロローグ
息抜きに書いていたのが溜まったので投稿しました。
暫くは定期更新になりますが、ストックが切れ次第に、不定期になります。
「・・・っ」
頭が痛い。
まるで、頭の中で鐘楼を鳴らされ続けている様な、鈍い痛みが重く長く響く。
「ああ・・・?」
何時に成ったらこの苦しみから解放されるのか、そう思った瞬間、嘘の様にすっと頭の痛みが引いた。
それと同時に、自分が何処かの地面に俯せになっている事に今に成って気が付く。
全身に雨粒が打ち付けて、口許には泥水が貯まっている。
口の中にジャリジャリとした感触が広がった。
「・・・」
上体を起こして周囲を眺めると、そこは、何処かの広い草原の様な場所の中だと朧気に分かった。
酷い土砂降りの所為で遠くの方は良くは見えなかったが、それでも自分が何処かの草原に通る道の真ん中だと察せられる。
土が剥き出しの地面には車輪が通った後の轍と水溜まりがあるばかりで、そこに見慣れたアスファルトは見当たらない。
「ここは・・・」
口に出して見ても、全く見当も付かない。
俺は学校帰りに何時もの通学路を歩いていた筈だった。
空は夕焼け空で、雲一つ無い晴れだったのを覚えている。
だと言うのに、今居る所は見覚えの無い何処かの草原の様な場所で、バケツをひっくり返した様な雨が俺の身体を叩いて居る。
「訳が分からない」
思った事が口を吐いて出た。
最初に考えたのは拉致だった。
何処ぞの組織だの北の某国だのに拉致されたのでは無いかと考えた。
その可能性は否定できないが、しかし、それでは、今の情況に辻褄が合わない様な気がする。
拉致してきたのなら、こんな場所に放置されている事に説明が付かないからだ。
「・・・取り敢えず」
好い加減に、地ベタに座り続けるのもどうかと思って立ち上がる。
それから道の端によって左右を交互に見る。
何となく左側に行くのは躊躇われた。
本当に、ただ何となく左の方に行くのは駄目だと、俺の直感が警鐘を鳴らしたのだ。
「・・・」
俺は直感に従って右側に向かって歩き出した。
傘も何も無い今、ただ、打たれるままに雨の中を歩き続ける。
道の恥を歩いて進む最中、俺は現状に思案した。
コレが拉致では無いのならば、他の可能性として、次に思い浮かんだのはキャトルミューティレイションである。
正確にはヒューマンミューティレイションと言うのだろうが、そんな事はどうでも良い。
宇宙人だとかの不思議な連中に連れ去られて、実験か何かでここに放置されたと考える。
だが、その考えは余りにも荒唐無稽で、無意識に首を振る。
「後は何だ?」
俺が多重人格で自分の知らない内にここに来たか、もしくは、ここに居るのが単なる夢で、本当の俺は道路のど真ん中で倒れているとか、霊的な何かに乗り移られたか、それとも催眠術に掛かってしまったのか。
兎に角、思い浮かぶのは馬鹿馬鹿しい物ばかりで、建設的な考えは全く思い浮かばない。
「異世界転生・・・?」
ふと思い至った最も馬鹿みたいな考えに、思わず脚を止めてしまった。
この場合は転生では無く転移とするのが正しいのだろうが、そんな些細な事はどうでも良い位に馬鹿らしい。
流石にコレは無い。
最近のラノベとアニメに毒されすぎだ。
そんなシチュエーションは某小説サイト以外では有り得ない事だ。
「・・・」
結局、何も分からないまま俺は、無駄な考えを続けながら歩き続けた。
「・・・寒い」
身体が冷えてきた。
一体どれ程雨に打たれていたのかは分からないが、全身濡れ鼠の状態でいた所為で、体温が奪われて身体が震える。
「っ!」
膝から力が抜けて尻餅を着いた。
思った以上に体力を失っていた様で、立ち上がろうとするが脚に力が入らない。
「・・・クソッ!」
悪態を吐く。
激しさを増す雨音に掻き消されて、最早自分の耳にすら真面には聞こえない。
「・・・!」
眼が擦れてきた。
視界がぼやけて周りが見えず、耳も遠くなって雨音すら聞こえない。
俺は死ぬのだろうか。
身体を濡らす雨水が段々温かく感じられてくる。
「あ・・・ああ・・・」
声を出そうとした。
だが、口も上手く動か無くなって声を出す事も出来ず、悪足掻きに助けを求めるのも出来そうに無い。
「・・・っ」
俺の頬を、雨粒とは違う熱い雫が伝って落ちた。
力の入らない身体は胡座を掻いた姿勢のままの状態が力無く項垂れて、顔を上げる気力も無い。
「っ・・・!」
遂には視界から光が消え始めた。
何も聞こえない。
何も見えない。
身体の感覚も無い。
今の自分の姿勢すらも分からなくなってしまっていて、直ぐそこに死が近づいている。
極限の状態の俺の耳に、微かな足音の様な物が聞こえてきた。
死神の足音か。
閉じた瞼をほんの僅かに開いてみると、黒い人型の影が近寄ってきている様な気がする。
死神が来た。
俺は全てを諦めて全身の力を抜いた。
意識が急速に遠退いていく。
「・・・か!・・・」
何かが聞こえる気がする。
そこで俺の意識は完全に途絶えた。