ハルさんとシッシーの盆迎え
ハルさんとシッシーの盆迎え
ぽっ、ぽっと灯りがともったようなほおずきに、わりばしをさして作られたキュウリの馬と、ナスの牛。
お供えは、畑でとれた夏野菜と、砂糖菓子と、山ほどの果物。
今日からお盆です。
「ご先祖様たちは、キュウリの馬で、いっときも早くこちらにお帰りになりたいのさ。そしてあちらへは、ナスの牛でゆっくりお戻りになりたい。ほおずきは、行く先を照らす提灯がわりなんだよ」
ハルさんの説明に、ほうほうとうなずくイノシシのシッシー。ハルさんといっしょにお盆を迎えようと今日も山からやって来ました。
「だけど、ハルさん、これはどうみても、キュウリじゃなくって、ニガウリの馬じゃねえか?」
するとハルさんは、にっこり笑って答えました。
「今年はね、馬がお休みとっちゃったから、ニガウリのイノシシにしてみたのさ」
「へっ?」
「きっと馬より速いと思うんだけどね」
茶目っ気たっぷりなハルさんでしたが、シッシーは、ははんと思いました。
病気の父ちゃん河童のために、新鮮なきゅうりをもらいにやってくる息子河童の三太郎。どうやらハルさんは、三太郎にキュウリを気前よく分けてあげすぎたのでしょう。
―まあ、三太郎の父ちゃんが元気になって、三太郎が笑顔になれて、ハルさんがそれでよければ、オレ様、かまやしないけど……それにしても、お迎えがニガウリじゃ、ご先祖さまは、さぞかしお尻が痛いだろうな。
シッシーはひょいと首をすくめました。
暮れなずむ夏の空の下、ハルさんは門の近くで迎え火をつけました。
トン、トン、トントコトン。
どこか遠くの方から太鼓に合わせ、盆踊りの口説き文句が、スピーカーを通して聞こえてきます。
「ああ、手と足が勝手に動いちゃうねえ」
ハルさんは、いてもたってもいられず、その場で踊りはじめました。
「おっ、じゃあ、オレ様もやってみるか」
シッシーも負けじと、片足をのばし、片手をあげて口説きのリズムに合わせます。
「それって体操かい?シッシー」
「冗談いっちゃいけねえ。シッシー流盆踊りさ」
とつぜん、シッシーの鼻がぴくっと動きました。
「来たな。ヨーカイ」
「よっ! かいじゅう」
暗やみからひょいと顔をだしたのは、河童の三太郎。
「キュウリのおかげで、父ちゃんがとっても元気になったから、今夜はハルさんに、お盆の贈り物を持ってきたよ」
三太郎は、胸に抱いたこぼれそうなくらいの小さなほおずきを、手早く門のあたりに並べて言いました。
「このほおずきはね、ご先祖さまを迎える提灯になるんだ」
あたりはだんだん暗くなりました。
迎え火に照らされた、いくつもの小さなほおずきが、ほおっと光を放っています。
ハルさんに続いて、三太郎とシッシーも盆踊りの真っ最中。
「お、なかなかサマになってやがるな、ヨーカイ」
「かいじゅうのは、まるで体操おどりだな」
「ん?」
そのうちシッシーは、ふと耳をすませました。
なにやら、大勢のにぎやかな声が聞こえてきます。
―さすが、ニガウリのイノシシは速かったな。
―けど、ちょっぴり、お尻が痛かったわよ。
―ハルの考えることは、いつも面白いねえ。
―あらまあ、提灯がたくさん。ありがたいこと。
門に並べたほおずきは、みるみる提灯行列のようにずらりと並んで、家の方へと向かっていきました。
「ご先祖さまのお帰りだね」
三太郎が言いました。
この世で、ハルさんと関わりあった家族や、ハルさんが生まれる以前に亡くなった家族。
だれもが常日頃から、ハルさんを見守ってくれているご先祖さまたちなのでしょう。
ハルさんは、小さな提灯の列をながめながら、しみじみとつぶやきました。
「父さん、母さん、じいちゃん、ばあちゃん、そしてあんた……。みんな、みんなおかえりなさい」
ハルさんの気持ちにこたえるように、ときどき、提灯が上下にゆれます。まるで、
「ただいま、ハル、今帰ったよ」
ハルさんに話しかけているかのようです。
「さあ、みなさん、お帰りとあれば、これから、お盆のごちそうお供えしますからね。シッシーも、三太郎もいっしょに食べようね」
ハルさんはいそいそと台所へと向かいました。