3話 滅竜騎士団
短いです。
それと、始めたばかりで申し訳ないのですが、バイトが忙しくなってきたので、投稿間隔が少し長くなるかもです……すいません。
荒く舗装された道を、二台の馬車が駆けていく。
その周りを何人もの騎兵が取り囲み、その一人一人が鋭い眼光を前方に向けていた。
その鎧には、竜の生首を模した紋章が刻まれている。その色彩は、彼等の竜に対する憎悪を移したように黒と朱に染まっている。
「団長、まもなく到着です」
「ああ。外のやつらに耐寒魔法の準備をさせておけ」
「はっ」
騎兵からの報告を聞き、レイナに伝える騎士。
騎士が馬車の端に座るのを見て、レイナは腕を組み、目を閉じる。
しかし、自分の前に跪く者の気配を感じ、苛立たしげにそれを睨み付けた。
「レイナ様」
「なんだ」
「お言葉ですが……竜は逃げてしまっていると報告が出ていてなお、進軍された理由をお聞かせ願いたいと」
「……足跡から大体のサイズを把握でき、もし鱗が見つかれば種が分かり対策が立てられるだろう。お前もここの所属ならば、そのくらい察しろ」
「はっ、申し訳ありません」
少し視線をずらし、隅に居る別の騎士にまるで獣のような目を向け、レイナは言う。
「この騎士団の名を言ってみろ」
「はっ、滅竜騎士団でございます」
「そうだ。私達のすべては、憎き竜を殺し、この世から滅することのみ。そのための最善を常に考えるがいい」
「はっ!」
「分かったら黙って自分の仕事をこなせ」
隊員は頭を深く下げ、外の騎兵への指示を再開した。
レイナは再び目を閉じ、外界から自分を隔絶する。集中を高めるため、体を休めるため……なにより、自分の中のマグマのごとき憎しみを押さえるために。
それから、馬車が霊峰の麓に停まるまでの数十分、レイナは目を閉じたまま微動だにしなかった。
「各隊、1人ずつ私についてこい。支援兵の耐寒魔法を受けてからな」
数分後、レイナの元には五人の騎士が集まった。
耐寒魔法はかけられる者の魔力量に比例して効果が高まる。並の者では霊峰に入ることも叶わない為、少数精鋭で挑もうというのが、騎士団の考えであった。
とはいえ、いくら騎士団の精鋭といえど、たかが人間が絶対零度を歩くことはできない。行けるのはせいぜい半分ほどであろう。
初めは順調であった隊だったが、雪に足をとられ、更に極寒の寒さにより疲弊していく。しかし、
「各自、前の者から2メートル以上離れるな!」
「おお!」
寒さに凍え、氷の粒に視界を遮られながらも、彼らは歩を緩めない。
皆が皆その瞳の中に憎悪の炎を宿らせ、まるで1つの生命体のように思えるほど、彼らの思想は統一されていた。
「目標はどこだ」
「あと50メートルほど登った先、拓けた場所です! 観測隊がそこで竜の魔力を感じたとのこと!」
「そうか」
レイナは再び口を閉じ、見えぬその場所を睨み付ける。
すると、確かに感じる。曖昧だが、確かな竜の魔力を。
それはカメラのピントが合うように、一歩一歩はっきりしたものになっていき──
「ここか」
山が削られてできたような平地に到着した。
手分けして辺りを捜索するものの、竜の姿は見られない。
「おそらく、付近に竜鱗があるはずだ。徹底的に探せ」
「「「はっ!」」」
極寒の中、視界も塞がれた状況で、広大な土地から鱗を探す。夜の砂漠から一粒の砂を探すような無茶な指示だったが、騎士は迅速克つ徹底的に、雪を掘り返し始めた。
上司の命令に従っている様子ではない。一人一人の揺るがぬ信念の下統率されたその動きにより、異常な速さで捜索が進む。
そして、数十分後。
「おい! あったぞ!」
一人の騎士が、雪混じりの竜鱗を掲げ叫ぶ。
レイナは全員に耐寒魔法をかけ直し、集合するように指示をする。
「団長、こちらです」
「ああ、よくやった」
そう言って手渡されたのは、まるで闇夜を溶かしたような色の竜鱗だった。
強烈な魔力を放ち、圧倒的な存在感を示している。
「火竜種……ではないようです」
「地竜種の魔力でもありません」
「まさか……未確認種?」
黒く、重厚な黒鱗が、鈍い輝きを放つ。
その輝きを瞳に映した途端、レイナの体から怒気にも似た魔力が発された。
「ぐわっ!」
「がっ!」
それは雪を弾き、氷を砕き、騎士達を吹き飛ばした。
佇むレイナの脳裏に過るのは、幼い頃の記憶。1日たりとも忘れたことの無いその記憶の中に、その鱗は存在していた。
「竜王ヴァレス……」
獣の呻きにも似た呟きが、白銀の世界にこだました。