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キシン戦記  作者: 劉基
1/1

1 始まり 二人の男の会合

1  始まり

意識を失ってから大分時間が経った。私はふと窓の外に広がる小麦畑を眺めた。

すると小麦畑が沈む間近の夕陽に照らされ金に染まる。夜が近い今の紫がかった空を背景にするとやはり、胸に込み上げてくるものがある。それは一種の哀愁であろうか。それとも、孤独から来る寂しさなのか私にはいまいち解からない。

少なくともこの時の私には過去の幸せだった時のことに想いを馳せる様くらいしかできない自暴自棄になっていたのは確かである。

私の名はキシン・レイシスと言う。今は母国メリフェアを追われ亡命者になり下がっている哀れな男である。

「お若いの、大丈夫か。」

今目の前にいるこの老人は逃亡中に熱病にうなされ道端に倒れていた私を自分の家に匿ってくれた恩人であるこの村の村長である。

「村長、生き倒れになった私を救ってくれてありがとう。」

私は自分を救ってくれたこの村の村長に感謝の言葉を伝えた。

「なあに、若いもんがそんなこといちいち気にすんじゃねーよ。ま、感謝の言葉はありがたく貰っておくがの。」

村長が見た目にから考えられない程豪快に笑った。国を追われてから初めてだ。ここまで誰かの笑い声が心に染みたのは。

「村長よ、今は何日か分かるか。」

私は意識を失ってからどれくらいの時間、日日が去ったのか良く分からない。私には眠っている間の時間が途轍もなく長く感じられたし途轍もなく短くも感じた。私にわかっていることと言えば精々意識が朦朧として倒れた昼から現在の日没間近の間に少なくとも半日以上は経過しただろうというくらいだ。

村長がにやりと笑いそして口を開いた。

「儂に詳しい日付なんて分かるはずがない。だがの、儂がバッタリ倒れているお前さんを拾ってからかれこれ二日は経つ。」

村長が何の躊躇もなく私を値踏みするようなめで見てきた。だが、王都にいるときと違ってそこに人を不快にさせる狡猾さなどの狡さ感じられない。だから私にはこの老人が何を考えているのかいまいち分からなかった。そこが国を追われ逃亡者である不安定な立場である私をより一層不安にさせる。

「私そんなに長い間眠っていたか。」

老人の顔から目をそらし小さくつぶやいた。

「実感が湧かんかい。ま、仕方ないないだろうよ。普通の人間が二日と半分寝るなんてこと考えられないからのお。」

村長が白い髭を弄りながらまるで面白いものを見ている様な感じで言った。

「解かった。村長よ、ここは何と言う村だ?メリフェアのどのあたりにある?」

私は今後の行動の指針となる大切なことを聞いた。逃亡者の身で何時までもその国に居るわけにはいかない。早いところ脱出しなければならない。

「はっは、お主勘違いしてるぞ。ここはキレリアだ。と言ってもメリフェアとの国境線ギリギリの辺境の土地だがな。」

私はメリフェアの王都を出て地方都市ラグを通過してから自分が一体どこにいるのかいまいち良くわからなかった。まさか、国境線をギリギリとは言え越えていた等とは露にも思っていなかった。

「村長よ、この村は国境線ギリギリの辺境の村と言うが王都メリフェアに対してどの方角にある?」

大まかな場所は分かった。今度は自分の正確な居場所を知る必要がある。

「お主、儂のような辺境の小さな村の村長程度が異国の首都の位置を正確に知り自分の村の位置を把握することなど普通に考えたらあり得ないことだぞ。なぜ、儂にそこまで聞こうとする。例え儂が其れを知っていたとしても大したものは収穫できないと思うのだがな。」

老人の眼光が先程の値踏みしようとするものから子供が悪戯する時のようなその先に起こることを期待してどうしても表情を隠せない時のヤンチャなものになった。

「ハッハ、冗談を言わないでもらいたい。村長、あんたは間違いなくここが地理的にどういう部分か把握しているだろうし、先程からの私に対して向ける目は一介の辺境の村長が持てっている様な目ではない。あんた、一体何者だ?」

私も我慢が効かなくなった。自分の本心を簡単に相手に見せてしまうことは如何なものかと思われるが、どうにも目の前の老齢の村長の考えていることが良く分からない。

「まず、人の名前を知りたいなら自分から名乗るのが道義というものであろう。ましてやお主の様なそれまで官界にいた者がそんな初歩的なことを覚えておらぬはずがない。」

因みに私はこの老人から名前を聞きだした訳ではない。ただ、「何者だ」と言っただけである。しかし、先程の村長の理論に当てはめるのならばやはり、私の方から素情を明らかにしなければならない。私は今まで頭の回転は速い方だと思っていたが言い返す余地もなく簡単に丸めこまれてしまった。

やはり、目の前の老人は只者ではない。

「すまない。」

まずは謝ることにした、自らの非を認めることは人間の成長には大切なことである。

「ほお、お主珍しいのお、貴族の癖に自分の非を認めることができるとは。」

老人が一瞬驚いた様な顔をするが、すぐにその表情は戻り、先程よりも一層値踏みをするような視線は強くなった。

「人間は自分の非を認め正していくことによって成長するのだ。だから、私は自分が常に正しいなどとは欠片も思ってない。」

私は自分の考えをそのまま伝えた。

すると、老人が笑いだした。先程の豪快な笑いというよりは高笑いと言った方が表現的には正しいであろう。

「面白い男だのお。決めた、お主この村に暫く留っていけ。そうすれば何か見つかるやもしれぬぞ。因みにこの村はキレリア東部ユーロス州城塞郡が歩いて10日ほどのところにある。辺境と言っても超ど田舎というわけじゃないぞ。」

驚いた。目の前の老人は私の今の泥のように黒く沈んだ感情を全てお見通しの様だ。どうせ、キレリアに亡命したとしても後がない。ならば、これ程の老人の居る村に留っているほうが今の自分の暗雲とした未来の打開策が見つかるやもしれない。そして、何よりもこの老人が気になる。一体どれほどの能力を持った男なんだろうか。

「救ってもらったのに、村に留ることまでも許可してくれるとは真に有難い。恩に着るぞ。村長。是から、よろしくな。」

私は老人に己の意思を伝えた。

すると老人は童子の様に微笑み、そして、そこからは先程までの豪快さや値踏みをするような挑発的な視線や感情は感じられなかった。

「よろしくな、わっぱ。」


真っ赤に燃えていた夕陽は地平線の彼方へと消え、残っているのは満天の星空であった。


国を追われた男と村の村長で訳ありの老人の会合により歴史は大きく変わっていくことになる。しかし、そんなことを知る人間は当事者を含め誰も知らない。

運命は天のみぞ知る


しばらくの間キシン戦記に地図を乗せることができないで申し訳ありません。

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