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友達神は食料です  作者: 星野夜
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第7話『破れぬ禁戒(File Number15to17)』

 いやー寒くなってきましたねー。もー寒すぎちゃってコタツを装備品に認めようかって脳内都市部長と相談するぐらいになってきましたね。

 学校ではクラスメイトがみんな、ホッカイロなんて装備しちゃってうらやましい限りです。仕方ないので僕も対抗しようと、チャッカマンを持ってきましたw でも、やっぱり火が小さくて寒いです。

 そうしたら、友人がまさかのハリー・ポッターの主人公の杖を持ってきたものだから、僕の中二心をくすぶり、そこで対峙することになったわけです。ので、こちらは爆発魔法『ボンバーダ』でいかせてもらいました。危うく学校を燃やすとこでした(いえいえ、かなり盛りました)。

 でもさ、チャッカマンで火を点けるたびに幻想なのか、食べ物とかゲームとかが見えるんですよ。だから、チャッカマンはホッカイロよりも万能なんだなーって思ったこの頃です。

 風が強く吹き乱れて、灰色の雲が空を覆い始め、太陽光が遮断されて薄暗くなり始める。砂浜でクレイオスとアリオンが『海の神』と言われるポセイドンと対峙している。淡い青の髪の毛をしていて青い服と黒いズボンを身につけた、見た目十六歳ほどの男神だ。

 彼は両手を空へと掲げて叫ぶ。

「海と地震の海王、我が名はポセイドン! 響け、海震の調べ! ――――ヴァスィア・プルトナス――――」

 直後、ポセイドンの背後の海が引き潮になり始める。大地震が起きたときのように波が引いていく。あまりにも異常な引き気味に、クレイオスとアリオンは身震いする。海は沖十数キロまで引いていく。陸地から見たら、海がなくなったように見える。

「一体、何をするつもりだ?」

「……想像したくないけど、想像できるわよ。海と地震の神が仕出かすことだもの。絶対にアレよ……」

 両腕を掲げていたポセイドンは、その両手を振り下ろす。それに反応し、海がなくなり地平線となった彼方に水平線が現れた。その水平線は上へと太くなっていく。そして雲と水平線が重なり合った。それははるか遠くの海での出来事だったが、陸地からでも確認できるほどのサイズ。

「……馬鹿げてる……」

「巨大な……波……」

 水平線は徐々に高さを増していく。正確に言えば、近づいている。その津波の高さはおよそ五百メートル! 大陸一つを飲み込める大津波だ。推定数千万人の人間が溺死し、大陸の八割が海に水没することだろう。

「時間ならまだあるけれど、あの津波を止めるのは不可能だよ。発動してしまえば、あとは推進力が後押しする。残り時間でじっくり考えると良いよ」

 ポセイドンは嘲笑するように問いかける。二柱は憎たらしそうにポセイドンを見つめ、どうにかこうにか止める手段を練ることに。しかし、彼らの力ではどう考えても止めるのは不可能。

「じゃあ、もう最終兵器を使うしかないよ」

「ん? 何か良い案でもあるのか?」

 アリオンは頷き、即座に飴に変形してクレイオスの手にのった。

「食合神になって希望を導き出す♪」

「んな無茶なことしたら――」

「私が消えるかもしれない。だけど、止めるにはやむを得ないでしょ!」

 クレイオスはそこまで言われると言い返せず、渋々食合することに。飴になったアリオンを口に入れ、噛み砕く。直後、クレイオスが爆発して辺りに煙を巻き上げた。

「――っとー……あまりしっくりこないんだけどなー。これで良いのだろうかな?」

 煙が晴れると、そこには一人の青年が立っていた。茶色の短髪をしていて、右目が黒、左目が茶色の瞳をしている。毛皮の外套を羽織っていて、腰には刀が一本差してあった。

「ふむふむ、食合神になったんだ。クレイオスとアリオンの食合……異色な組み合わせだ。失敗かな?」

 食合状態クレイオスが、刀を引き抜いてポセイドンへと構える。

「我が名は神速月牙の神、クレイオス! いざ、参る!」

 その直後〇.一秒にも満たない時間で事は終息する。翼を生やした食合クレイオスは飛び上がり、数十キロ先の巨大津波と対面。そして、構えた刀を横に一閃する。その太刀筋が長大化し、空間に特大級の亜空間の狭間を出現させた! 津波はその狭間へと全て吸い込まれ、一瞬にしてその場から消え去った。無事に完了したクレイオスは一瞬で再び砂浜に戻り、着地する。ここまでで〇.一秒も経っておらず、ポセイドンには一瞬のブレのように見えた。

 着地した地点から暴風が吹き乱れ、巨大な砂塵を作り出す。それは食合クレイオスが飛びだった時の勢いでできたものだ。ポセイドンはそんな風に身を竦める。

「……風を操る能力か?! まさか成功しているのか、食合状態に?」

 そう、ポセイドンにはそう見えているのだ。

「いや、違うね。僕はポセイドンの津波を消し去ったんだよ」

 クレイオスがアリオンの口調に左右されながらも説明し、ポセイドンは津波の確認をする。確かに津波が消え去っていた。だが、ポセイドンは不気味に笑い始めるのだった。


 街の西側、一つの一軒家の隣の空き地。突如、そこの土が盛り上がって、一人の少女が飛び出てきた。茶色い民族服を纏っている少女で、名前はレアー。片腕が変形して袋型になっていて、中に人間が一人いるようだった。

「到着! もう出てきて良いよ」

「もう、着いたの? 早いね」

 腕が変形した袋の中から、一人の美青年が出てきた。灰色の髪の毛をした特徴的な男子で、アフロディアという名前だ。

「それで、どこにアイオロスはいるんだ?」

「そこの一軒家の中みたいだよ」

 レアーは一つの一軒家を指差す。それはごく普通で何も特徴がない、ただの一軒家だった。神様に拐われたのに、監禁場所が人間界の一軒家の中というのは少し不思議だが、神界に行かれてしまうよりはマシだった。アフロディアとレアーは玄関口でとりあえずノックしてみることに。

「……神のいる家を軽い気持ちでノックするのって、ちょっと引けるよ」

「神様の私には分からないことだよー」

 しばらく待っていると扉が開き、中から一人の女性が出てきた。女子大生ぐらいの年頃で、茶色い長髪に眼鏡をしていて、ベージュのコートを着ている。片手には分厚い黒い本を持っていた。

「はい、何でしょう?」

「えっと、友達を探しに来たんですけど、中へと入って良いですか?」

 アフロディアはそう尋ね、女性は一度頷いてから彼らに言う。

「良いですが、私たちに危害を加えないと、約束してくれませんか? あなたたちが不審者でない、それを信じて」

「良いよ、別に攻撃する気なんてないし」「別に不審者なんかじゃないもん」

「分かりました、規定結束ですね」

 そう女性が呟くと、持っていた本が光りだした。アフロディアとレアーがその光景に身構える。

「心配ないですよ。もう結束してしまいましたので、あなたたちは『死ぬ』だけですので」

 レアーはその言葉に反応し、即座に腕を盾のように変形させて、アフロディアを掴みながら後方へと飛び退いた。女性はゆっくりと近づいてくるだけ。

「私は掟と法律の神、テミス。私の規定は決めてしまえば、どんなものであろうと破ることのできない鋼の掟。先ほど『危害を加えない規定』を結束させましたので、あなたたちはもう、私に抗うことはできない」

「そんなの、やってみないと分からないでしょ!」

 レアーは腕を刀に変形させて、伸ばしながらテミスへと斬りかかる。しかし、切り裂く寸前で刀が別方向へとひねり曲がり、そして刀の軌道がテミスからズレて地面に突き刺さった。レアー自身の意思ではなく、勝手に曲がったようだ。

「言ったでしょう、約束は守るものよ」

 テミスは楽しげにクスクスと笑う。レアーは悔しそうに腕を戻して立ち尽くす。アフロディアは神同士の戦いに関与せず、呆然と見守ることしかできなかった。人間の彼には当然何もできないのだが、少しでも役に立とうと、彼はまず周囲を見渡した。街路には人の気配がなく、誰も通ってはいない。あえて、このような人けの少ない場所で泊まってるのだろう。だから、神族として外に出て言っても見つかる心配性はなし。

(掟と法律の神……破れぬ規定ね。リスクもなしに、そんな規定が作れるなら苦労はしないよなー。でも、ある点に気づいちゃったんだよね。……テミスの規定結束時、所持している本が輝いた。それってつまり、あの本のおかげで結束できてるわけだから……あの本なしでは使えず、さらには内部には規定内容が書かれてると見たね)

 規定によって攻撃不能状態になってしまったレアーは、攻撃手段を切り替え、侵入する策に出た。身体を薄い盾で覆い、無理やりに突っ込んでいく。しかし、テミスが前へと塞がってガードする。アフロディアは二柱のやり取りの隙を見て、まず道路へと逃れた。家を迂回し、後方からの侵入を試みる。テミスの死角の通路から裏路地へと回る。その間、わずか十数秒の間に、レアーはテミスに押さえつけられてしまっていた。地面に顔を押さえつけられたレアーが目線だけを上に向け、テミスを確認する。

「……テミスだっけ?」

「そうですね」

「規定では危害を加えないことだったよね」

「そうですね」

 レアーは地面を隆起させ、瞬間的に周囲を大地の壁で取り囲んだ! 高さ三メートルの壁がそびえ立ち、二柱を囲む。逃げ場は天井部だけだ。

「危害を加えられないなら……阻害は良いってことだよね」

 ニヤリと怪しげな笑みを浮かべてレアーはテミスを見つめた。テミスは小さくため息を吐く。

「……不覚……」


 二柱がそんなやり取りをしてる中、アフロディアは裏口から中へと侵入する。生活感のない家内の廊下に土足で立ち、誰もいないことを確認しながらゆっくりと慎重に進んでいく。そしてリビングを通り過ぎる際、一人の人物がソファーに腰を掛けているのを確認した。そのまま通り過ぎて階段を目指す。

(テミスという神族のいる家だとすれば、あのリビングの人間はおそらく神族……。関わったら最期だ。どうにか避けていこう)

「テミスという神族のいる家だとすれば、あのリビングの人間はおそらく神族……。関わったら最期だ。どうにか避けていこう――とか思ってそうな顔してるな、お前」

「――っ?!」

 背後からした男の声に驚き、アフロディアは腰を抜かして倒れる。後ろに立っていたのは一人の、いや、一柱の神族だろう人物。紫色の服と黒い長ズボンを履き、なぜか灰色のネックウォーマーをつけている。髪の毛は赤と黒が混ざって禍々しい雰囲気になっている。

「まぁ良くも人間種が一人で乗り込んできたもんだよ。バカにもほどがあるってな」

「き、君は一体……?」

「ふんっ、どーせ死ぬんだから教えてやらんでもない。俺は冥界の王、ハデス。お前は?」

「……アフロディア」

 動揺しながらも小さく呟いた。ハデスは鼻で笑う。

「……外がやけに騒がしいと思ったら、どうやらテミスが派手にやってるよーだなー。お相手はまさかのレアーってわけか。随分と大物がやってきたは良いが、規定結束後のテミスは無敵そのものだからな。いくらあがいても勝てようがない。諦めるんだな、あいつも、お前もな」

 ハデスは右腕を上へと掲げる。アフロディアは何かされるのかとビクビクしていた。

「邪魔者というものは存在価値がないゴミ以下の物品だ、分かるか? だから抹消しないといけない、分かるだろう?」

 ハデスは不気味な笑顔でアフロディアへと尋ね、掲げていた右腕から黒い煙が出てきたかと思うと、一本の黒き剣が右腕に現れた! ハデスは暗黒感満載の剣を握ると、それをアフロディアの首元に突きつけた。アフロディアは小さく悲鳴を上げ、真っ青な顔で硬直する。

「さよなら、アフロディア君」

 ハデスがその剣を首に突き刺すために力を入れた瞬間、その剣は何者かによって掴まれて止められた。

「やーれやれ、これだから可愛い子ちゃんは困ったものだよ、全く……」

 ハデスの剣を素手で掴んで受け止めている一人の男性。自然をイメージした緑の配色のコートを着ていて、下は灰色のブカブカな長ズボンを履いている。金髪のショートヘアーで口にパイプタバコを加えている、少しチャラい男だった。

「お前……一体いつからこの家内に入った?」

 ハデスが男へと尋ね、男は掴んだ剣をへし曲げてから答えた。

「そーだな、ちょうど今さっきだ。お嬢ちゃんには優しく接すべきだろう、それでも男か、ん? 神は人間を下回る『生き物』なのか?」

 神族はお互いに気配を感じ取れるので、近づけば気配などで位置が把握できたりする。人間でも同様だったが、今回、この男の気配には気付けなかったハデス。それゆえに驚きを隠せないでいるのだろう。だが幸い、この謎の男のおかげで助かったアフロディア。ゆっくりと壁を使って立ち上がる。謎の男はアフロディアに気づいて振り向いた。

「やぁ、お嬢ちゃん。この戦いが終わったら、俺と一緒に一杯付き合えよな? 俺にはそれぐらいの権利があるだろう?」

「は、はぁ……」

 アフロディアを『お嬢ちゃん』と呼ぶこの男は、アフロディアを男だとは思ってないようだった。確かに、アフロディアは中性的な顔付きをしているので女装してしまえば見分けがつかないほど。この男は完全に女性だと勘違いしているようだったが、ここでそれを言ってしまったら助けてくれなさそうなムードだったので、アフロディアはおとなしく黙っておくことにした。

「えっと……ハデスとか何とかって言ったか? こいつは俺の獲物だ。神族だか知らないが、お引き取り願う」

 ハデスはそんな彼の言葉など無視して、曲げられた剣を無理やり戻して斬りかかる。彼は腕を使って剣の腹の安全ゾーンだけを触れていなし、そのまま後退してアフロディアの横に立つ。

「はい、終了。一緒に紅茶でも飲みに行かない?」

「えっ、えっと……ハデスは?」

 呆れたという表情で剣を持って立ち尽くすハデスを横目に、アフロディアは尋ねる。

「戦いはもう終わったといったのさ」

「おい、お前……神族を甘く見――」

 直後、ハデスの身体が大爆発を起こした! あまりの破壊力に吹き飛びそうになるのを彼が身体でガードしてくれて助かった。家内は爆発により爆煙で包み込まれる。彼はアフロディアを抱えて玄関から外へ。

「後ろから忍び寄って背中に手榴弾をちょいと仕込ませていただきました。……大丈夫か、お嬢ちゃん?」

「あ、あはは……」


「お前、男か! 嘘だろう?! こんな可愛らしい男がいてたまるものか! ガンコナー一生の恥だ! 本当はさ、女なんだろう? な、なぁ?」

 アフロディアは苦い顔で首を横に。ガンコナーと言う名前の彼は世界の終わりかという表情で失望していた。

「あの、助けてくれたことは感謝します」

「……あぁ、もう良い! せっかく良い子だったから遊びじゃなくてマジになってたのによぉー。あぁー、落胆だぜー」

 ガンコナーはフラフラと気力のない状態でどこかへと去っていった。

 アフロディアは状況把握できない中、それよりも気になることに目を向ける。目前にある土の塔だ。三メートルほどの高さの四角柱。さきほどまではなかったもので、レアーとテミスの戦いの中でできたものだろうとアフロディアは推察する。それは地面と結合していて、剥がしたというよりは隆起したように思える。大地の女神レアー以外にはなせない技だろう。

「……レアーもテミスも、さっぱり気配がない。どっちが勝ったんだろうか?」

 人間の頭脳として、アフロディアから考えた結末は、レアーが敗北することだった。テミスの規定結束によって、レアーの全攻撃は弾かれてしまう。よって、どう考えても一方的なテミスのペースに持っていかれるだろう。そうなるとレアーは逃げ出す。アフロディアはそう考えた。

「困ったよ。僕一人でアイオロスを救えというのかい?」

 アフロディアは困り果て、渋々救出に行くことにした。ここで逃げたら仲間を見捨てたことになってしまうから。

 まだ煙がかった家内へと慎重に足を踏み入れる。屈んだ姿勢で煙下に目線を置き、ゆっくりと進んでいく。ハデスの姿は見えない。ガンコナーの手榴弾が効いたみたいだった。人工物でも神に匹敵するんだねと、アフロディアは感心する。

 先ほどまで、リビングのソファーに座っていた人物はすでにいなくなっていた。爆煙の届かない範囲に逃げたのだろうか。アフロディアは好都合だと、誰もいないであろうリビングへと潜入する。廊下での爆煙はリビングにも広がっていて、濃霧のように視界を遮っている。しかし、爆破点の廊下に比べて爆煙が薄く、肉眼で室内を確認できないほどではなかった。一通りリビングを捜索してみるが、アイオロスがいる気配はなかった。一階全エリアを捜索し切って結局一階にはいないと分かったところで二階の捜索へと移る。爆煙の立ち込める廊下を低姿勢で移動していき階段へ。ハンカチで口を押さえながら階段を急ぎ足で上がっていった。煙は上へと昇っていくため、二階の方が煙が濃くなっている。アフロディアは一階で換気しておけば良かったと後悔する。どれほどの量の手榴弾を使ったらこうなるんだろうかと思った。

「既に殺されてたら洒落じゃないよ……。まだ生きてるんだよね、アイオロス?」

 さすがに一軒家だけでここまで見つからないとなれば心配にもなる。アフロディアはどちらかで言えばポジティブ思考であり、すぐさま立ち直って捜索を始める――そのまえに、この爆煙を換気したかった。でなければ、自分が先にダウンしかねない。アフロディアは二階の廊下の窓を全て全開にし、煙を換気する。爆煙が開かれた窓から外へと漏れ出し、火災でも発生したような外見になる。近所の誰かがその煙に気づき、大急ぎで消防署へと報告してしまっていた。野次馬が少しずつこの一軒家の前へと集まり出す。

「……だいぶ、煙が薄くなってきた……。これなら肉眼でも進める」

 ハンカチはしたまま、アフロディアは屈んで二階廊したを進む。そんな時、目前の扉が勝手に開き、中から一人の人物が煙に動じず出てきた。屈んでいたアフロディアが停止し、その人物がそれを上から見下す。煙で視界が冴えないが、何となくピンク色の長髪をしているのが確認できた。

「……あ、えっと……」

「……君はもしかして……っ?!」

 急に、その人物が妙な動きを取り始め、アフロディアは驚いて手で視界を遮った。その人物は腕をアフロディアの上の方へと向け、何かに吹っ飛ばされたかのように後方へと転がって壁にぶつかった。直後、屋根を粉砕して、その人物がさきほどまで立ってた位置に何かが落下して音を立てた! アフロディアは近くは危険だと直感して階段まで後退する。そこには高さ三メートルほどの化物ば立ってアフロディアを睨みつけていた。アフロディアは青い顔で動けなくなる。屋根に空いた穴から光が差し、化物が不思議な神々しさを醸し出す。

「アフロディア! ここで何してるんだよ?!」

 化物の背中になぜかアイオロスがいて、階段のアフロディアへと駆け寄ってきた。アフロディアは何が何だか分からずにパニック状態だった。

「とにかく、ここはひとまず逃げるよ! そこに敵の神族がいるけど、キマイラがどうにかしてくれる!」

「まか、せて、くださ、い……アイ、オ……ロス、様……」

「様付はなしの方向でね、キマイラ!」

 アイオロスはそう吐き捨てて、アフロディアと共に一階へ。キマイラは奥で倒れている一人の神族へと向き直る。

「……何です?」

「アイ、オロ、ス……様、の邪、魔をし、た……殺す!」

 キマイラが倒れているのにも容赦なく突っ込んでいく。その時には二人は外へと出ていた。二階から派手に破壊音が響き、戦いが始まっていることを知る。

「あ、えっとー……無事で良かったよ、アイオロス」

「無茶するなって。相手は神族、人間が同行できる問題じゃないのに一人で来るとはね」

「さっきまでレアーがいたけど――あれ」

 アフロディアは土の四角柱を指差し、アイオロスが驚かずに納得したように数回頷いた。その巨塔の影にいるから分からないが、路地では野次馬たちが様子見に集まっている。

「レアーはテミスという神族と戦闘中だったんだけど、この四角柱だけ残してどこかへ……」

「レアーのことだから負けはしないよ、きっとね」

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