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友達神は食料です  作者: 星野夜
4/7

第4話『灼熱の劫火に晒されて(File Number7to8)』

K本的にコミュ症ボッチで非リアな星野夜です。ここまで強調するぐらいの体たらくです。


 さて、今回は第4話目となりますね。もちろん、ここでは何もネタバレ要素はありませんので、ご安心を。


 あらすじとしては、


 アイオロスが食合神というものを知って、そしてレアーと融合したこと。

 異形体キマイラとの遭遇。

 アストライオスがライトだった。


 などとこんな感じですかね。


 では、今宵はどのような話が繰り広げられるのか、その真相を知るのはあなた次第です!!!!!


(ガチでハズいわ、この人wwww乙wwww)

 暗雲が空を張っている夜明け。太陽光が遮断されているために普段より暗い。まだほとんどの人間が眠りに就いているので、外は新鮮な静けさに包み込まれていた。

 アイオロスは一人、寝室で目を覚ました。何かの気配を察知して、アイオロスは寝室の入口を布団の隙間からのぞく。すると、閉めたはずの扉が開いていた。そして次の瞬間、

「起きてる?」

と、布団のわずかな隙間から誰かの顔。アイオロスは驚いてベッドから飛び降り、すぐさま戦闘態勢になった。心拍数が急上昇し、汗がドバっと出てきた。

 真っ暗な部屋の中、入口付近に背の低い人間のシルエットが一つ見えていた。

「誰?何してるんだ?」

 アイオロスは警戒を解かず、強ばった声で問う。

 一人のシルエットはそれに答える。

「怖がらせちゃったかな…。エオスだよ。」

「なんだ…エオスか…。ビビったよ、マジで。」

 アイオロスはホッと一息。寝室の電灯のスイッチを入れ、デスク前の椅子に腰を掛けた。蛍光灯の灯りが部屋を照らし、シルエットがエオスだと理解できるようになった。赤い髪の毛、真紅の瞳、黒と朱の混ざったワンピースを着ていて、相変わらず真っ赤な見た目をしていた。

 一方のアイオロスは寝起き。髪の毛ボサボサ、寝癖が酷い。頭上荒波状態だ。服装は寝巻き、当然だ。

「で、何しに来たの?」

「アイオロスが探してる神様を一人、連れてきたんだ~。」

「お、マジ?!」

「ちょっと待ってて!」

 エオスは寝室からピョンピョン跳ねて出ていき、一階へ。どうやら一階に待たせているようだ。そして案の定、早朝から騒音を響かせてエオスが階段から落下した。アイオロスは半分呆れて上から覗く。下には壁にぶつかって変な態勢のエオス。笑顔でごまかしている。

「いつになったらコケなくなるんだか…。」

「えへへへ…大丈夫、いててて…。」

 エオスは飛び起き、すぐさま一階へ。アイオロスは寝室のベッドで体をだらけさせて待っていた。やや長いなと思いながらも待っていると、しばらくするうちに、下から二人分の会話声が聞こえてきた。

「ねぇねぇ、アイオロスから話があるって♪」

と、エオスの声。

 その次に別の人?の声がした。

「アイオロス?あぁ、あの自由人ね。めんどいから断ってくんない?」

 低い女性の声。しかし、口調は若々しい。

「え?でも、それじゃあ何のために来たんだか…。」

「私は人間の行動に興味があるのよ。神の行動なんて観察して何になるの?」

 そんな会話が聞こえていた。あちらの方は完全に拒否ムード。仕方ないのでアイオロスは自分で下の階へと降りていくことに。すると、一階リビングにエオスと、全く知らない一人の女性が立っていた。その女性は見るからに二十代前半といったところ。漆黒の長髪が腰辺りまで伸びていて、キラキラと光る蒼い眼がアイオロスを見つめていた。無愛想な顔をしている。服は紫のTシャツとダメージジーンズ。

「どーかした?」

 そこに立っている黒髪の女性はアイオロスを見るなり驚いた。皆、僕の第一印象は驚きから始まるんだなとアイオロスは心の中で思った。

「アンタがアイオロス?私の知ってるアイオロスじゃないわね。」

「あ、どうも。アイオロスです…えっと人間の。」

「人間?…あ、そう…。」

 直後、アイオロスとその女性の間に巨大な穴ができた!深いその穴の奥は灼熱の劫火が燃え滾っている!その見た目はまるで炉のようだった。

 黒髪の女性はアイオロスの背後へと回り、アイオロスを突き落とそうと背中を全力で押す。アイオロスはとっさに反応して堪えた。その女性は諦めずに押し続ける。しかし、案外力はないようで、アイオロスはビクともしない。

「くそくそくそ!とっとと死ね!」

「待て待て待て待て待っててば!急にどうしたんだよ?!」

 アイオロスは状況理解できずに悩む。

「わわわわわわっ!ちょっと待ってよ、ヘスティア!」

 エオスがヘスティアと呼ぶ女性を必死で引き止める。一時、修羅場と化したアイオロスの家。


 リビングルーム。ヘスティアはソファーに座っていた。

「ふ~ん…なるほどなるほど。」

 エオスが今のアイオロスについてを説明すると、ヘスティアは納得してくれた。だが、まだアイオロスを見るときの目は蔑んだ目だった。

「で…君がヘスティア…。」

「そ、私がヘスティア。地上じゃ、『炉の女神』って呼ばれてる。」

 ヘスティア、炉の女神。先程、リビングに突如開いた巨大な炉のようなホールはヘスティアの力によって出されたものだった。今は跡形もなく消えている。

 アイオロスは早速、あの話第を出してみる。

「あのさ…神界に帰ってくれないかな?」

「やっぱりここで殺す!」

 ソファーかた立ち上がって殺しにかかろうと飛びかかるヘスティアをエオスは必死に押さえつけた。アイオロスはあまりの迫力に一メートル程離れてしまった。

「まぁまぁ、落ち着いてよ!アイオロスにはアイオロスなりの理由があるんだって!」

 エオスがそう言って、ヘスティアは再びソファーに座った。

「で?理由って何?」

 ヘスティアはアイオロスを睨みつけながら、そう言った。物凄く話しづらい状況の中、アイオロスは口を開く。

「実は…僕にはまだ神としての記憶がなくて…今、人間として生きてるけど、正直自分が神だったなんて思えない。…そんな僕が公園でパンドラの箱を見つけたんだ。」

 『パンドラの箱』というワードが出た瞬間、ヘスティアの表情が激変した。先程まで頬杖ついて聞いていたヘスティア。今は前のめりになり、真っ直ぐにアイオロスを見ていた。逆に恥ずかしくて話しづらくなった。それでも話を続けるアイオロス。

「…そのパンドラの箱を開けてしまったんだ…。そしたら、良く分からないけど神々が地上からこっちの世界に落とされて…。僕はレアーという神に出会った。」

「知ってるわよ。レアー、確か大地の女神だったかしら?数億年前に会ったわ。」

「数億年前?!」

「何か?神々が人間同様に年齢でもあると?」

「それはそーか。」

 この時初めて、アイオロスは神々が不老不死だということに気がついた。そうでなければ、レアーやクレイオス、もとりんヘスティアも、皆、老人になってないことがおかしいことなのだから。

「僕はレアーから状況を説明されて、自分がアイオロスっていう神だということに気づかされた。でも記憶は戻ってこないけど。」

「正確に言うと英雄っていうとこだけれどね。」

 ヘスティアはそう追言した。

「僕は地上に落としてしまった神々を神界に戻す義務を果たさなければならない。そして何より、風の四陣を捕まえなきゃならないんだ!」

 アイオロスは熱くなって立ち上がり、ヘスティアにその熱意を伝えた。ヘスティアはいきなり立ち上がって迫ってきたアイオロスに驚き、硬直した。

「あ、そっそうなの、ね?…分かったわ、アイオロスの気持ちは。はいはい、落ち着いて。」

 アイオロスは自分の座っている椅子に座りなおす。

「じゃあ結局のところ、この私が戻らなかったら何が起こるわけ?」

「うっ…そっそれは―――」

「特に異常は来さないでしょう?ならば問題ないじゃないの。」

 ヘスティアは痛いところを突いてきた。確かにアイオロスは神界へと戻す義務を果たさないといけないが、『神々を戻す義務』と『神々が自由行動してはいけない』ことの相対性が噛み合っていない以上は、アイオロスの意思だけで神々を戻すことはできないのだ。

「ちょっと待ってて。」

 アイオロスはヘスティアにそう告げると、背を向けて、片耳に手を当てた。

『クレイオス?今、起きてる?』

『あぁ、起きてるぞ。』

 アイオロスはクレイオスにテレパシーを送っている。

『実は今、僕の目の前にヘスティアがいるんだけど…。』

『んな!それはマズイ!今すぐ逃げろ!アイオロス!』

『え、何で?』

 その瞬間だった。アイオロスは強い力に引っ張られて背後へ。地面に背を打つと思った瞬間、天井がどんどん遠ざかっていく景色を見た。アイオロスは今、落下している!それも深い深い穴へ!ヘスティアの作り出した穴、巨大炉だ!上から悪魔の笑みを浮かべるヘスティアと、何かを叫んでいるエオスが見えた。しかし、エオスの声は炉の劫火音にかき消されてしまった。そしてアイオロスは灼熱の劫火によって焼き殺されたのだった。


「抹殺完了。バイバイ、アイオロス。」

「ヘスティア?!何でこんなことを!」

 エオスがヘスティアにそう尋ねる。ヘスティアは、

「恨みを晴らしただけですよ。」

と、冷静にそう返し、ソファーから立ち上がって外へと出て行った。その際、一度指を鳴らし、作り出した炉の蓋を閉じた。リビングには何も跡は残っていない。エオスが一人、呆気にとられて無言で立ち尽くしていただけだった。


「クソッ!通信が遮断された!何かされたか、アイオロス?」

 クレイオスはアイオロスを助けに行くために外へと飛び出ていった。


 辺り一面草だらけの草原地帯。そよ風が爽やかに吹き抜け、心地よかった。雑草たちの騒めく音も同様に。

 アイオロスはそんな場所で目を覚ました。それ以前の記憶はヘスティアに炉に落とされた記憶。つまりここは、

「あの世かな?」

 確かにそう言える。アイオロスは死んだ。ここは天国か何かだろう。

「とても信じられないけど…今まで起きたことと比較したら普通なのかも。」

 アイオロスはこの状況を合理化、これは普通だと信じきった。

「大丈夫そうで良かった。」

「天の声かな…。」

 アイオロスは青い空を見上げて呟く。

「何言ってるの、アイオロス?」

 その声は女子の声。天の声とは思えない。だって、下から聞こえたから。視線を下げると、そこには茶色の民族服を纏った茶色の髪を持つ女の子が一人。

「あれ?レアー?何でいるの?」

「何でも何も…私がいなきゃ、今ここにアイオロスはいないんだからね!」

 レアーは頬を膨らませて怒り、アイオロスに指を差す。

「え?何が?」

 当然のリアクションだ。


 実はアイオロスがヘスティアの炉に落とされたときのことだった。炉の壁からレアーが穴を掘ってでてきて、アイオロスを土のベールで囲んだのだ!レアーは大地の女神。地面を自在に進むのなんて容易いことだった。土のベールに包まれたアイオロスは灼熱の劫火に晒されず、無事に生還することができた。炉が閉じたのち、レアーの力によってアイオロスは地上へと出される。そこがたまたま草原地帯だっただけだ。

「へえ~、さすが大地の女神!やっぱり神様は一味違うな~!」

 感心するアイオロスを見て、レアーは満足げに『そうだろ、そうだろう』と頷いて喜んでいた。

 さて、レアーはアイオロスを連れ、草原地帯からたったの数十分で元の場所へと戻ってきた。家のリビングルームの地面を突き抜け、レアーとアイオロスは地上に立つ。エオスが真下からでてきた二人に驚いて獣のような反射性を見せて壁に激突した。

「あ、ごめん、エオス。」

 エオスはダイビングヘッドを壁に決め込み、激突後は下に設置されたソファーに不時着した。頭部に漫画のような巨大なタンコブができている(ように見えたのだ)。

 レアーとアイオロスはリビングに立った。床の大穴はいつの間にか塞がっていた。

 エオスは頭を抱えながら立ち上がって二人を確認した。

「あれ、何で生きてるの?!」

「あははは…レアーに助けてもらってね。」

「どうも、レアーです!」

「あ、どうも。エオスです。」

 お互いに自己紹介を終えた、そんなときだった。玄関を突き破って火球がレアーに直撃した!急展開過ぎて良く分からないだろうから説明を入れます。

 神々というのは、お互いに発している電波的なものを感知することができます(そういう設定なんです)。つまり、互いに誰がどこにいるのか理解できてるのです。もちろん、例外はありますが、今回は例外ではないので触れません。ヘスティアはアイオロスを抹殺?した後、出て行きましたが、アイオロスの電波が再び現れたのに気がついたんでしょうね。適当に扉をぶち破って火球の強行攻撃に出たのです。その火球はアイオロスではなく、レアーにヒットしたのですが。ヘスティアは炉の灼熱劫火を利用した圧縮砲で攻撃したみたいですね。

 一面を爆炎と黒煙で包み込んだ。アイオロス及びエオスはその風圧でそれぞれ壁に激突して倒れた。意識が朦朧としていますが、辛うじて自我を保っているアイオロス。一方のエオスは爆煙によって姿が確認できません。レアーはというと―――

「久々の出会いなのに…『黒煙火球炉』って…全くヘスティアらしいよ。」

 そんな言葉を呟き、劫火の中から笑顔ででてきました!何やら着ている民族服が変形していました。体中を包み込むようなベールになっています。どうやら、この民族服が火球から守ったようです。

 破損した扉の隙間からヘスティアが土足で入ってきました。様子見にきたのです。そしてレアーと出会いました。

「あ、レアー。お久しぶり、って何で?」

「こっちこそ、急にあんな物質撃ってきて…寝起きだったら死んでたからね!」

「ごめんごめん。ところでさ、アイオロスは死んだ?」

「まだ根に持ってるの、あのこと?」

「忘れるわけ無いでしょう。」

 ヘスティアは明後日の方向を見ながら気分悪げにそう呟いた。それを見て、レアーは仕方ないとため息を吐いて苦い顔。そんなところに、驚愕したアイオロスとエオスの二人がレアーを追って玄関にやって来て、アイオロスとヘスティアは対面してしまった。アイオロスは恐怖で身を震わす。

「ヘスティア!」

「何よ、嘘つき。」

「さっきは何でって―――嘘つき?」

 アイオロスは何も知らないかのような顔をしている。現に何も知らないのだが。そんなアイオロスに余計に腹がったったヘスティアは再び溶鉱炉を出現させる。玄関の壁に開いた溶鉱炉から熱風が室内に吹き荒れ、レアー、アイオロス、エオスの三人?…いや、一人と二柱が体を屈める。家内はすでに灼熱地獄と化している。リビングは使い物にならないほど丸焦げ。リビングの劫火は勢いを忘れずに二階を燃やしにかかっている。このままではアイオロスの家は劫火によって燃やし尽くされ、崩れて下敷きとなるだろう。そんなことには構わずに、ヘスティアは溶鉱炉の温度を上げていく。熱気が視覚で理解できるほど、空間が熱で歪み始めていた。

「嘘つきって何のことだよ?!以前の記憶がないんだから、今の僕が過去の僕のことをどうにかしろと言われても出来るわけないじゃん!」

 アイオロスがとっさにそう叫ぶ。正論である。しかし、溶鉱炉の轟音がアイオロスの声を遮っていた。ヘスティアにはほとんど聞こえていない。ヘスティアは頭にきていて恐らく、溶鉱炉なしでも聞こえないだろう。

 ヘスティアの溶鉱炉が白く輝き始めた。そろそろ危ない頃だろう。

「うそつきうそつきうそつきうそつきぃ!」

 完全に我を忘れてしまっている。ヘスティアはクールなキャラのはずなのだが、今のヘスティアはそれとは全くもって似つかない様子をしている。地獄の番人のような形相、要するに凄い鬼気迫る表情をしてる。

「待ってよ、ヘスティア!アイオロスは―――」

「うるさいうるさいうるさいっ!」

 ヘスティアは一向に聞く気配なし。ヘスティアの憤激が増す事に溶鉱炉の勢いが増していった。挙げ句の果てには溶鉱炉から考えられない頭が割れそうな響音が鳴り出した。

 ヘスティアは右腕を前に突き出し、発射態勢を取った。レアー、アイオロス、エオスはその動きを見て、狼狽える。いよいよ、どうにもならないものが発射されるのだ。一人と二柱は覚悟を決める。死ぬ覚悟ではない、反撃する覚悟だ。とはいえ、攻撃型ではないアイオロス、エオスは策を考える。レアーは防御態勢。着ている民族服が反射で揺らぎ始めた。いつでも起動できるように準備しているのだ。

「消えろっ!アイオロス!」

 ヘスティアの右手首から輪状の何かが出現下かと思うと、数秒後には巨大な魔法陣らしきものに変化した。その直後、溶鉱炉から爆発音が響き、煌々と輝く火球が発射された!あまりもの衝撃に外部数百メートルの家々の窓ガラスが反響してビリビリと音を鳴らした。火球というよりは隕石のようだった。その火球は宙に浮く魔法陣らしきものを纏い、そのままアイオロスたちへと突っ込んでいった!

 レアーは激突数コンマ前に民族服を起動、壁状のように展開した。どうやら相対防御の民族服を使って火球の勢いを粉砕しようとの考えのようだが、恒星のような火球の接触直後の瞬間温度は約1000度を越す。レアーは以前にヘスティアに会ったことがある。この技のことは理解していた。防ぎきれないことは分かってはいるが、無防備な背後の一人と一柱を守るにはこれしかないと思っていた。

(ヘスティアの最終奥義…『白撃魔力炉』。防げないかも…。)

 レアーは背後を振り向く。そこには怯え震えるアイオロスとエオス、ではなく、戦闘態勢のアイオロス、そしてキリッとした目つきのエオスが立っていた。レアーはクスッ微笑する。

 その時、レアーに強烈な衝撃が走った!壁状の民族服のガードに『白撃魔力炉』の火球が激突したのだ!民族服を伝ってレアーへと約1000度の熱が伝わる。これは神であるレアーだからこそ耐え切れるのであって、常人ではとても耐えられない。即座に体が燃えて破裂するだろう。そして、レアーの民族服も神具の一つなのでそう簡単には燃えない。が、少しずつ溶け出していた。流石にガードしきれない。

「アイオロス、何か良い策ある?!」

 レアーは『白撃魔力炉』の轟音に負けじと、声を張り上げて言った。

 アイオロスはニヤリと笑みを浮かべ、

「ごめん、全く思いつかないやw」

 そう言った。レアー愕然。

 ガードに使っている民族服が溶けて穴が空きだした。そろそろ貫かれて全員家ごと殺されてしまうだろう。

 この時、外が騒がしくなっていた。そう、アイオロスの家は今、火事大惨事なのだ。外から見たら黒煙が上がっていて普通の火事にしか見えない。まさか誰も中で対決中だとは思わないだろう。消防車がかけつけるのも時間の問題だ。野次馬たちが携帯片手にその様子を傍観していた。

 そしてついに、民族服が破けた!レアーへと目掛けて巨大な『白撃魔力炉』火球が迫る!もちろん、体感にして激突まで約0.1。最低限、生き残るのに10メートルの移動が必要。最低限度の距離、この距離でも重症は間逃れない。しかし、その距離を0.1秒で移動することは、時速360キロを出さなければならない。新幹線並みの速度、しかも突発的にその速度を出さなければ死ぬ。そんな神回避は不可能。レアーは神だが、神業はなし得そうにない。死ぬことが確定したのだ。ヘスティアは勝利を確信し、怪しい笑顔を浮かべる。

 しかし、激突0.05秒前の瞬間。激突するはずの『白撃魔力炉』火球が塵一つ残さずして消えた。一同唖然。誰もが予想だにしなかったシーンだった。一体、『白撃魔力炉』火球はどこへ消えたのか。


「何したんだ、アイオロス?!」

 ヘスティアが同様を隠せず、声を荒げてそう尋ねる。当然、予想すらしなかったアイオロスが知るわけもない。

「俺だ、俺。」

 男の声がして、一同は玄関の壊された扉へと顔を向ける。壊された扉の向こう、隙間から一人の人間が立っているのが見えた。いや、人間じゃないだろう、恐らく。

 その人物は隙間から中へ。そして一同は誰なのか理解する。黒の短髪、黒い瞳。トレードマークの蒼と橙色の混じったマフラーをしている人物だった。右手には細くて鋭そうな太刀を握っていた。

「遅れてすまんな。」

「「クレイオス!!!」」

 アイオロス、レアーは同時にそう叫んだ。

 そうクレイオスだ。

 ヘスティアは攻撃を妨害したクレイオスを睨みつける。

「ヘスティアか…。随分と荒くれてるな。お前のような冷静タイプがどうしたんだ?」

「ゆるさないゆるさないゆるさない!」

 ヘスティアは左手を横に振り払う。その合図と同時に、壁に無数の小さな炉(サイズはだいたい銃口ぐらい)が出現、そしてマシンガンの速射の如き速度で小型の火球を連射した!全弾クレイオスめがけて飛んでいく。

 クレイオスは右手に持つ太刀を目にも止まらぬ速さで振り回した。時間にしておよそ0.005秒。飛んでいった火球が全て、クレイオス眼前で消滅、したように見える。太刀の光の線が残像として少し残った。それぐらい早い。

「悪いが、ヘスティア。お前じゃ勝てない。うぬぼれなんかじゃない、事実だ。」

 ヘスティアは再び、右手を構えようとするが、その直後にクレイオスが太刀の柄でヘスティアの腹部を突いた!細身の柄の衝撃が内部へと伝わり、ヘスティアは崩れ落ちる。ちなみに、今の動きは誰も目で追いつけていません。

「この通りだ。ヘスティア…お前の『炉の力』はややデメリットが多い、ついでに隙もな。それゆえに俺は勝てた、神界に帰れ。」

 クレイオスはヘスティアに何か魔法のようなものをかける。直後、ヘスティアはその場から消え去った。アイオロスとレアーが出会った当初にやっていた強制的に神界へと戻す技だ。

「さてと…どうしたものか…。」

 クレイオスは辺りを見回す。ヘスティアの劫火は燃え尽きずに今も家を蝕んでいる。リビングはもう全滅状態にあった。

「とりあえず、出るか。」

 クレイオスに続いて、レアー、アイオロス、エオスは外へ。外には野次馬たちが傍観中。出てきた四人(正確には一人と三柱)を見て驚愕したりカメラ回したり。ひとまず、人のいないところへと行くことにしたクレイオス。じゃなければ、神についての話はできないからだ。


「お前とヘスティアは水と油のような関係だ、分かるか?」

「いや、全く分かんないです!」

 クレイオスは廃れた公園の一角に皆を集め、そこでヘスティアについてを説明することにした。この公園はほとんど人間が近寄らない。そして、それがエスカレートしたのか、この公園に近づくと悪魔に憑かれるなどという馬鹿げた噂が流れるまでに。この廃れた公園を通称『黒魔公園』。

「お前がまだ『アイオロス』だった頃の話だ。」


 当時、まだアイオロスが『アイオロス』として生きていた頃。

「アイオロス、ちょっとこっちきて!」

 ヘスティアの声が眠っていたアイオロスの耳へと届いた。ちなみに、『アイオロス』は神ではなく人間、ヘスティアは神。格の高さは確実にヘスティアの方なのだが、アイオロスとヘスティアは不思議と仲が良かった。

 アイオロスはフカフカのリクライニングベッド(当時はなかったので、それに近いもの)から飛び降り、ヘスティアの元へ。

 ヘスティアは何やら怪しげにアイオロスを見つめていた。どうやら背中に何か隠し持っているようだ。

「何?病んでるから死んだ魚のような目してんの?」

「バカ、違うよ。これ見て!」

 ヘスティアは隠していた物をアイオロスに見せる。それは―――

「ガイア様の予定表?」

「そ!ガイア様はどうやら今日、地上に降りるらしいんだよ!チャンスじゃない?!」

「そんなもの、取ってきたら…どうなることか…。」

「知ってるけど気になっちゃったらどうにもならないの!ね、一緒に行かない?」

「まぁ…良いけど…。」

「良~しっ、準備しなきゃ!あ、これは絶対に二人だけの秘密だからね!」

「はいはい、分かったって。」

 ヘスティアは準備を始めるために飛び出した。アイオロスはそんな元気なヘスティアを見て、『命知らずとはこのことだな』と思った。でも、渋々アイオロスも準備を始める。

 『ガイア』とは地母神のことである。大地の象徴とも言われ、大地の女神『レアー』とは違い、世界の始まりから存在していた神、原初神だ。もちろん、格はヘスティアやアイオロスの上。

 ヘスティアはそんなガイアの予定表を奪い取り、地上に降りるという情報を見つけ、そしてアイオロスを誘ったのだ。ガイアが地上に降りてくることは滅多にない。恐らく地上に降りてきた姿を見た神(下級)は存在しないだろう。しかし、ガイアの情報を得ていたヘスティアはガイアの姿を目の当たりにできる。

 ヘスティアは準備を完了し、アイオロスも同じくして準備を終えた。

「じゃ、早速あの方法で行くからね!」

「はいはーい、だりぃ~。」

 ヘスティアは地面へと両手を構える。直後、二人の立っていた地に巨大な炉が出現した!しかし、二人の体は落ちることなく浮き続けていた。アイオロスが同時に、足下から上昇気流を発生させていたのだ。次いで炉から巨大な火球が発射された!それに合わせ、アイオロスが風を纏わせる。二人はその火球に押されて上空へと飛んでいく。しかし、火球に纏わせた風が熱を伝わらせなくしているため、火傷する心配は全くない。アイオロスは火球下部から別の方角の風を発生させる。その風が火球の方向転換をし、別方向へ。こうして数分で数百キロ離れた目的地へと着いた。二人は火球から飛び降り、風の力でゆっくりと地上に立った。

「はい、到着。」

「ありがと、アイオロス。」

「どうも。」

 二人はとある崖の上に立っていた。底が見えないくらい高い崖がずっと地平線の先まで伸びている。現代でいうところの世界三大瀑布の一つ『ヴィクトリアの滝』のような感じだ。天候は冴え渡ってはいない。黒い曇天の空、肌で感じ取れるぐらいの湿度と低温。そろそろ雨が降るだろう。先ほどから遠くの空で雷が筋を作っているのが見えていた。

「アイオロス…風が強くなってきたけど…。」

「あ、勝手に吹いてる奴だから、僕が手出ししちゃいけないから止められないよ。」

 そうこうしていると、急に空が割れた。雲の隙間から光が差し込んで一筋の天使のハシゴを作り出した。そこからガイア?らしき人物が降りてきた。

「ほら、やっぱりガイア様だ!もしかしたら、地上創造が見れるかも!」

 ヘスティアは興奮する。興味なさげに空を見上げるアイオロス。遠くの空から降りてきたガイアとアイオロスは一瞬ではあるが、目が合った。そう見えただけかもしれないが。

「あ、目が合った。」

「え?!バレたってこと?!」

「分からないけど、そう?」

 空に浮いていたガイアが進路を変え、こちらへとやって来る姿が遠くの空に見える。バレたようだ。

『そこで何をしているアイオロス、ヘスティア…。』

 テレパシーで二人の脳内にガイアの声が届いた!低く太い貫禄のある女性の声だ。

「あっ、えっと、だから…。」

 ヘスティアは言葉が続かない。

「ヘスティアに誘われてここまで来ました。どうやらガイア様がこの地に降りるとの情報を得たらしいから。」

 アイオロスはそう告げ口してしまった。本人は何も悪気はなく、ただ口から溢れてしまった言葉だった。

「何でそれ言っちゃうの、アイオロス?!」

「ダメだった?」

『天罰を喰らえ、ヘスティア!』

「え?!ちょっちょちょちょっちょっと、まっ―――」

 直後、二人の立っていた地面が隆起し始めた!アイオロスは咄嗟に反応して風の力で抜け出す。ガイアの狙いはヘスティアらしく、飛び出てきたアイオロスには見向きもしなかった。そのうち、隆起していた地面に立っていたヘスティアは急にその場に現れた底の見えない地割れの間に落ち、そして閉ざされた!というより、地面と地面に潰されたようだった。

『お前は見逃してやろう、アイオロス。早く立ち去れ、ヘスティアのようになりたくなくばな。』

「あ、はい!分かりましたですっ!」

 アイオロスはヘスティアを残し、風の力でできるだけ早く飛んでいった。


「―――とまぁ、こんなことがあったらしいな。ヘスティアは地面に押し潰されて死んだかのように思われていたが…地面に炉を作ってその空間で何とか生き延びたようだ。地上へ再び足を踏み入れたのは100年後だという。」

「それって…僕のせい?」

 アイオロスは首をかしげている。

「ま、確かに悪いのはアイオロスというよりはヘスティアのほうだったが…約束を破ったことに怒っているのだろう、ヘスティアは?」

「あ、うん…。」

「つまりあの時、告げ口したお前は確実に約束を破っていた。お前も悪いとこあったぞ。」

「んなこと言われても~、記憶ないし、以前の話じゃん!今の僕には関係ないもん!」

 その通りだ。

「じゃあ…謝ってみたら?」

 その場にいる誰の声でもないか細く透き通った高い声がして、一同は警戒態勢を取った。しかし、『黒魔公園』のどこにも人影は見当たらない。

 クレイオスが声を張り上げて言う。

「誰だ?お前、人じゃないな。そもそも人ならば気づくからな。」

 以前にも説明したように、神同士は波長を感じ取ることから、いつどこに神がいるかが判明できる。人間ならば、神が気付かないわけはない。それでもない者。そんな生き物が今、『黒魔公園』にいるのだ。

「僕は君たちのような者でもなければ、人間でもない者だよ。」

 その声はクレイオスの背後から聞こえた。即座に飛び退いて振り向く。そこには公園のブランコに座ってこいでいる一人の女の子がいた。黒いウェーブのかかった長髪をしていて、瞳も同様に黒い。同じく黒のふわりとした服と、黒の丈の短いズボンを履いている。見た感じ小学五年生あたりか。その子は皆に気づかれず、全員の背後に回っていたのだ。

「何者だ?人間か?」

「不思議な質問するんだね。こんな質問投げかけられたのは初めての経験だよ。君たちこそ、何者?人間かどうか聞くなんてただ者じゃないよね?もしかして君たちが人間じゃないのかもって思ったり…。」

 その子はブランコから勢いをつけて飛び降り、クレイオスの目の前に立った。クレイオスの身長は172センチ、この子の身長は151センチ。女の子の目線は上を見上げるような形になっている。

「正直に答えよう。俺は神だ。名前はクレイオス。」

「私はレアー。同じく神で大地の女神って呼ばれてる。」

「僕はアイオロス。神じゃないけど…何か特別な人間らしいんだ。」

「私はエオス、暁の女神です。」

 全員はそう自己紹介する。仮にもし、彼女が人間ならば、自分が神だということを明かすことは禁忌だったが、恐らく人間じゃないだろう。クレイオスはそう考えた上の行動だった。

 自己紹介を聞いた女の子は驚くこともなく、ただ興味津々に聞き入っていただけだった。普通の人間ならば信憑性のないこんな話、嘲笑すること請け合いなのだが、この人物は違かった。恐らく信じてはいるといった表情をしている。

「嘲たり、驚いたりしないのか?」

 クレイオスは一応、そう訊いてみた。

「別に、珍しいことじゃないしね。」

「それはつまり、何度も出会ってるってことだよね?」

 アイオロスはクレイオスに続いてそう訊く。その子は当然のように軽く一度だけ頷いた。

「じゃあ僕も自己紹介するね。僕はラミアって言うの。全然人間には有名じゃないんだけど、神様はみんな、僕を知っていてくれてた。ちょっぴり嬉しいんだよね。」

 『ラミア』はギリシャ神話では黒羊として描かれている悪魔の一種。相手に取り付き、不幸を与え、そして呪い殺すことで有名なのだが、人間の誰しも知ってるわけではない。神界では当然知られている存在ではあるが。

 クレイオスはラミアと名乗る女の子を指差す。

「ラミアか!俺も知っている!だが、なぜこんなところにいる?お前は確か、こんな出現の仕方はしないはずだが…。」

「実は…この前、急にここに飛ばされてきたんだけど。もしかして神様の仕業かなってね。」

 アイオロスには一つ気がかりなことがあった。それは昨夜に偶然出くわしたキマイラのことだった。アストライオスは、

『パンドラの箱からは神が放出されたとなっているが、キマイラは神ではなく、異型体だ。おかしいのではないのかな。』

『概念が崩れかかっている訳であって、それはつまり、非常にマズい事を示している。概念が崩れれば、どうなるのか。それは今までの研究で明らかとなっている。大抵は暴走が始まったり、オーバーヒートすることが普通。希に、特殊変異とかもあるけどね。』

『…僕の推測からするには…世界が終わるといっても過言ではないですかね。』

 異型体…パンドラの箱を開けたとき、放出されたのは神々だけのはずだった。しかし、この地上に存在するはずのないもの、異型体が出現してしまっていた。ラミアはクレイオスも気づかなかった存在、消去法で絞るならば確実に異型体だった。『黒羊の悪魔』の時点で神ではないことは明確だ。そして、その異型体をほっとけば、世界は終焉を迎えることとなる。

 アイオロスはラミアに一つ質問を投げかけた。

「ラミア…もしかしてキマイラとか知ってる?」

「…誰?」

「知らないかー。同じ異型体なら知ってるかなと思ったんだけど。」

「アイオロス、異型体とは何の話だ?キマイラと出会ったのか?」

「あ、そういえば言ってなかったっけ。昨日、キマイラと出くわしたんだ。ついでにアストライオスも。」

「それを先に言え、それを!」


「―――ふーん、なるほどな。じゃあ、ラミアをほっておくことはできないわけか…。」

「ほっておくとか、ほっておかないとか…まぁ、どっちでも良いんだけど、もし、僕を殺そうと考えているなら、早くしたほうが良いかもね。」

 ラミアは笑顔でそう言った。

「殺す必要もないだろ?なぜその考えに行き着いたんだか…。」

「異形体は恐らく人体における異物みたいなものでしょう?異物は排除しなきゃいけないから、僕もそのうち…殺されちゃうんだろうね。」

 ラミアはちっとも恐れを抱くことなく、まるで友達と話しているかのように気軽さでそう答えた。

「あまり…殺すのって好きじゃないんだけど。」

 アイオロスはクレイオスに向けてそう呟く。

「俺が殺すとでも?さすがにそれはないだろ。あるとするならば―――」

 急にブランコが弾け飛んだ!クレイオスの言葉を轟音が掻き消す。ブランコのあった位置には隕石が着弾したかのようなクレーターができていた。そのクレーターから数十メートル先まで焦げた跡が直線に伸び、終着点にはドロドロに溶けて以前の面影もないブランコが一つ。

 そして『黒魔公園』の策の上にヘスティアが凄い形相で立っていた。

「あるとするならば…あいつだけだろ?」

「ヘスティアが戻ってきた!」

 アイオロスは警戒態勢を取った。しかし、今のアイオロスは単なる一人の人間だ。特殊能力があるはずないし、だからといって戦闘能力に長けているわけでもない。一対一だった場合、確実に殺されるのはアイオロスのほうだった。

「うそつき!うそつき!うそつきぃ!」

「そもそもあれは!君が悪いんだからね!」

「何ですって?」

 ようやく言葉を返すことのできたアイオロス。ヘスティアはそんなアイオロスを即座に攻撃することなく、言葉を待った。

「あの時、先に誘ってきたの、そっちでしょ!それに、あれはどう考えたって悪いことだった!ガイアの―――ガイア様の予定表を盗むなんて…。」

「確かにそうかもしれないわね。だけど、それ以前にアイオロスは約束を破ったじゃない!そこに怒ってるのよ!」

 やや冷静になってきたのか、ヘスティアは普通にアイオロスと言葉を交わしている。まだ怒っている様子ではあるけど。

「約束…確かに破った!けど、君はこの僕と一緒に死にたかったの?」

 アイオロスのその質問に、ヘスティアは言葉を失った。数秒間だけ世界が止まったような静寂が辺りを包み込んだ。そして、

「一緒に死にたいわけないじゃん!生き延びて欲しかったんだよ、親友だから!!!」

 ヘスティアはそう叫んだ。神様とは思えない、瞳から涙を零していた。ヘスティアにとって、アイオロスは親友だった。生き延びて欲しかった、それはまさしく、アイオロスに逃げて欲しかったのと同然だった。でも、これだと今までの行為の辻褄つじつまが合わない。

「君は今まで…僕に裏切られたとか、僕が見捨てたとか思ってたんだね。だから、攻撃なんか仕掛けた…。」

「違う…。」

 ヘスティアは震える声で小さく否定する。

「彼女はアイオロスが大好きなんだよ。だから、もっと早くに助けに来て欲しかったんじゃないかな?100年間も独りだったんだ、暗闇の中で。耐え切れる、そんなこと?」

 ラミアがそう推測を立てて話した。なぜかラミアがアイオロスとヘスティアの過去を知っていた。最初から話を聞いていたんだろう。

「…ごめん、ヘスティア。僕が本当は悪かったのかも…。」

「違う…。」

 ヘスティアは再びそう呟く。何度も何度も首を横に振った。

「悪くなんかないのに…私が…八つ当たりしただけなのに…。」

 小さくそう呟いた。

「ヘスティアらしいといえば…そうなのかな?親友同士、時にはイザコザくらい起こるさ、ヘスティア。僕は約束を破って…君は僕を巻沿いにした。これでチャラにしない?」

 アイオロスは知るはずのない過去を『アイオロス』らしく言ってみた。あくまでも予想してでの話し方だったが、ヘスティアはアイオロスの言葉に胸を打ってくれた。

 その後、アイオロスは、泣き顔を俯かせているヘスティアと握手を交わし、仲直りをした。

「こんな状況で頼むことじゃないのは分かってるんだけど…親友としての僕のお願いだ。約束を破った僕からの約束をしてほしいんだ。バカみたいでふざけてるようにしか思えないけど…それでも、どうか約束をしてほしいんだ。神界に戻って欲しいんだよ、ヘスティアに。地上では…嫌な記憶しかない。あんなことはもう思い出したくないんだよ。だからお願い、戻って欲しい。僕もそのうち、行けるか分からないけど…君のとこへ向かうからさ。」

 ヘスティアは小さく頷く。そして約束を交わした。

「でも一つ…やり残したことがあるの。それを終わらせてからなら…。」

 ヘスティアはそう言うと、履いている靴裏に炉を創造し、その炉の力で飛び上がった!『黒魔公園』を飛び越え、どこかへと行ってしまった。

「狙いはやっぱり僕だったからラミアは無事だよね。あれ?ラミアは?」

 いつの間にか、ラミアの姿がなくなっていた。誰も気づかぬ間に消えた。クレイオスでさえ、その瞬間を見ていない。

「異型体だからか…気配がないな。敵だったら厄介なやつだ。」

 クレイオスはそう言った。


 早朝から大火災のあったアイオロスの家。ヘスティアの溶鉱炉によってリビングを中心にボロボロになって、今にも崩れてもおかしくない状態。一階は壊滅、二階は階段付近が丸焦げ。もう住めるような状況ではなく、一度立て替えたほうがよさそうなレベル。野次馬たちがそんな火災を眺め、そして消防車は貯水タンクの水を吐き続けていた。

 アイオロスが戻るのはそんな状況から1時間後のこと。もう流石に火は消えただろうと、アイオロスは希望を持たずしてやってきた。

 するとそこには、大量の野次馬たちが騒めいていた。何やら様子がおかしい。消防隊員も皆、唖然とした表情だった。一体何事かと、アイオロスは消防隊員の一人に話しかけた。

「あの、すいません…。」

「ん、どうかしたか?って訊く必要もないよな。あんなもの見たら…現実か夢かも分からなくなっちまう。」

「えっと…何が起こったんですか?」

「お前さん、見なかったのか…もったいなかったな。俺ら消防隊員は火災を消すために尽力していたところだった。そこに一人の男性がやってきた。白のハットを被っていて、上は青いポロシャツ、下はベージュのズボンを履いていた。でも、ズボンは長いからか膝当たりまで折り曲げていたな。そいつが無謀にも家の中へと入っていったんだ。消防隊員は慌てて引き止めようとしたがその男は止まらず、ついに劫火の中へと入っていってしまった。それから数秒後のことだった。一体何が起こったと思う?」

 消防隊員は話したくてウズウズしている様子だった。火災現場に立ち寄っている態度ではない。アイオロスはそこは触れずに、とりあえず聞くことにした。

「ぜひ、お聞きしたいです。」

「そうかそうか!手っ取り早い話、火災の起きた家を見てくれ!」

 アイオロスはその方向を見るが、野次馬が多くてよく見えないので、民衆をかき分けて前方部へ。そしてハッキリした。そこには明らかに火災など起きたようには思えない、焦げ痕一つもついていない、いつも通りの我が家があった。

「あれは?」

「そう、あれが火災現場の家だ。驚くだろ?」

「驚くも何も…火災現場なんですか?」

 アイオロスはここが火災現場、そして我が家だということは知らない体を装い、消防隊員に訊いてみた。

「そうだ。謎の男性が入っていからの出来事だった。急に火が止んだかと思うと、直後、家が見る見るうちに綺麗になっていった。破られていた扉も元通り。焦げ痕もまるで塗装でも行ったのかというほどに綺麗に。ビフォーアフターの映像を見てるようだった。とても信じられないことだけど事実だ。恐らくあの男性によるものだと思われるが…一体何者なんだろうか。超能力者とかその類のレベルの話だ。」

「そうですか、お話ありがとうございました。」

「おうよ。」

 アイオロスはそのまま、民衆から外へ。綺麗になった家へと近づいていった。そこには消防隊員が屯している。アイオロスは気にせず前進。案の定、引き止められた。

「君、部外者は中へは入ることは許されないよ。」

「この家は僕の家なんで、出入りは自由ですよね?」

「君がこの家の住民?!」

「はい、アイオロスといいます。この家は僕の家、ですよね?」

「あぁ、確かに…アイオロスという人物の家だが…。」

「では、失礼します。」

 アイオロスは野次馬や消防隊員を無視し、いつも通りに家の中へと入っていった。

 家の中も完全に修復されていた。玄関の物の配置も、壁紙の色も、全てがそのままに再現されていた。

「・・・・・・。」

 言葉を失うしかないアイオロス。これをまさに『唖然』というのだろう。

 リビングへと向かってみたアイオロス。一番の被害を被ったのは恐らくリビング。ヘスティアの『黒煙火球炉』が衝突した地点だ。着弾点の床は完全に溶け上がっていたはずだったが、アイオロスは驚く。今のリビングは完全に何事もなかったかのように綺麗に元通りだった。匂いすらもそのままに再現され、火災なんて本当に起きたのか自分を疑うほど。

 しかし一つだけ違うことが。リビングのソファーの上に誰かが座っているのだ。

「やぁ、こんにちは。」

「誰?」

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