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友達神は食料です  作者: 星野夜
3/7

第3話『見た目・化物、中・紳士(File Number5to6)』

 お久しぶりというべきですね。

 どうも、こんにちわ。最近ずっと別の小説に手をかけるあまり、この小説投稿を忘れていた星野夜です。

(だったら二つもかけもつな、バカ!)


 すごい間が空きましたが…今回は3話目です。


 そして今、授業中ですwww

 夜明け、アイオロスは洗面所の鏡と向き合っていた。鏡に自分の見慣れない顔が写りこんでいる。瞳の色だけがいつもと違い、碧色から黄色に変化していた。

「戻らない~…。どーしよう…学校へ行ったら変な目で見られる~。」

「どーしたの、アイオロス?」

 鏡に写って理解できるが、背後に小学生ぐらいの女の子が立っている。赤と黒の混ざり合っている色のワンピースを着ている赤髪の女の子だ。名前はエオス。昨日も同じように暁の時間に突如現れた。エオスは暁の神。暁時にしか現れない。

「また勝手に…。僕がアイオロスに見える?」

 そう言ってエオスに振り向くアイオロス。エオスはちょっとだけ迷ってからアイオロスだと認識してくれた。見た目はほとんど変わりないが、オーラが少しばかり違う。それが原因なのだろう。

「…僕はアイオロス…食合神なんだよ。知ってる?」

 頷くエオス。

「言うなら…大地の神(レアー)だったから…大地龍脈アイオロス!的な?」

「大地龍脈?」

「レアーっていう大地の神と食合したからだよ。今、僕は大地を自在に操れる…気がするよ。」

 アイオロスは再び、鏡で自分の顔をチェックした。いつもとは一味違う自分に、アイオロスは少しばかりニヤケ顔になり、そのまま洗面所を出て行った。その後ろをエオスがついて行く。アイオロスは階段を降りて一階へ。その後ろを付いてゆくエオス。階段に躓いて転げ落ちた。

「…また?…ドジっ子なんだね、エオス。」

「えへへへ…。」

 エオスは立ち上がり、痛めた足を引きずってアイオロスの後について行った。アイオロスは寝間着から制服に着替えるためタンスから制服を取り出した。

「・・・・・・。」

「・・・・・・。」

 アイオロスとエオスはお互い見つめ合ったまま黙り込んだ。エオスは良く分からず首を傾げる。

「…着替えるから…2階に戻っててよ…。着替えづらい…。」

「あ!…ごめんね、戻ってるよ。」

 エオスは痛めた足を引きずりながら二階へと上がっていった。一人になって落ち着いたアイオロス。制服に着替えるために寝間着を脱ごうとした。その時、二階から物音が響き、階段からエオスが転がってきた!

「エオス…。」

「ご、ごめんー。」

 ドドドドドドドドッ!

 急に二階から何か勢い良く転がり落ちる音がした!そして階段からクレイオスが飛び出てきた!ボロボロの体を無理して動いている。アイオロスの不器用な治療のおかげで体中、包帯でグルグル巻きにされていた。

「クレイオス?起きたんだ。まだ、動いちゃいけないよ。傷が開くといけない。」

 クレイオスは呼吸を乱した状態で叫ぶ。

「アイオロス!お前、その姿、それにここ!レアーを食べやがったな!」

「あ…ご、ごめん。だけど、レアーが食べて欲しいって…。確かに馬鹿げてるとは思ってたけど…まさかこんな体になるなんて思わなかったし…。」

「お前!食合神になってから戻る方法も知らないんだろ?!食合神は24時間以内に解除しないと、食号素材の方は本体に吸い取られちまう!つまり、レアーが消えるってことだよ!」

「えぇっ!じゃ、じゃ、じゃあ、じゃあ!どうやって戻ればいいの?!クレイオスは戻り方、知ってるんでしょ?!」

 クレイオスは首を横に振った。アイオロスは真っ青な顔付きになった。その様子を不思議そうに見つめているエオス。

 アイオロスは改めて自分の体を見回した。ほとんど変わりはない。だが、レアーが確かに自分の中にいる。それは不思議と実感できていた。体が軽いこともその一つだ。そして何より、

「体の構造を特殊変化できるレアーの能力…。」

 レアーの能力が自分の体に染み付いている。アイオロスは呼吸をするときと同じように自然と手を動かし、腕の形を定規に変形させた。

「レアーの力…。食合神って…神を食すことで力を融合させる技?」

「そうだ。適合種の力は莫大なものだが、それ故にリスクも大きい。食合状態からの解除法を見つけなければならない。食べたからって吐き出せばいいもんじゃない。俺の時はどうやら吐き出して戻れたから良いとしても…お前の場合、どうやって解除するかは分からない。」

 アイオロスはクレイオスの話を聞いた後、着替えもせずに家を飛び出していった。クレイオスとエオスはそんなアイオロスを唖然とした表情で見送った。

「何をするつもりだ?」

「さぁ~。でも、アイオロスはやってくれると思うよ。」

「てか、お前は誰だ?」


 レアーと食合状態中のアイオロスはとある公園にやって来た。公園の一角に誰かが立ってこちらを見つめているのが見える。オレンジ色の髪の毛をした男の子。夏なのに上着をチャックを閉めずに着込んでいる。

「来るのは分かっていたよ。見透かせないものなんてないからさ。当然ながら、レアーと食合状態でその解除方法を訊きに来たんだよね?」

 アイオロスは肩を落とし、

「何でもお見通しってこと。…その通りだよ、へーメラー。」

 彼の名前はへーメラー。何でも見透かせる千里眼を持つ。アイオロスはそれを考えた上で、彼に解除方法を訊こうという手段だ。

「まぁ、利口ですね。レアーはまず、初期設定として大地の神。そして君、アイオロスは風の王。適合したのは理解できますね。…そこで、大地と風を引き離すにはどうしたらいいか…。答えは一つに決まってる。君を裂けば良い話。」

「はい?」

 突拍子も無いことを言われ、アイオロスは聞き間違えたのかと思っている。

「君の体を真っ二つに裂くんだ。」

 再びそう言ったへーメラー。

「死ぬわ!そんなの無理に決まって―――」

「できるんだよ、それがさ。君の友達にクレイオスっていなかった?彼は確か、時空間を切り取る力を所有してるはずさ。ただ…僕の思うに、クレイオスはまだ、その力に目覚めてないはず。つまり、君がレアーと分かれるには彼を目覚めさせないといけないみたいだ。まぁ、君自身の意思で答えは何万にも分裂するから、答えは一つって訳じゃないよ。」

「さすがはへーメラー!何でもお見通しだね!ありがと!答えは見つかったよ!本当にチートみたいな能力だよね。僕にもあれば良いのにな、そんな力がさ。」

「君にもきっと、いつか誰かのために力を使わざるを得ない時が来るさ。心配しなくても大丈夫だよ。じゃあ、健闘を祈ってるから。」

 へーメラーは少しニヤリと笑って、その場を立ち去った。クレイオスはすぐさま、クレイオスのいる自分の家へと戻っていった。


 家の扉が倒れて地面に叩きつけられて激しい音を立てる。早朝だというのに騒々しく戻ってきたアイオロス。普段なら全力疾走した場合、呼吸が荒くなるが、食合状態中のアイオロスはちっとも息が荒くなっていない。レアーの力のおかげだろう。

 アイオロスはクレイオスがいる一階リビングへ。扉を開けると、そこにはクレイオスとエオスが仲良くテレビを見ながら、ソファーに座ってくつろいでいた。この光景に、アイオロスは数秒間、黙ったまま見つめてしまった。まるで別世界にいるような雰囲気だ。さっきまでシリアスだった雰囲気が一転、ホノボノした空気が流れ込む。

「あ、あの…クレイオス?」

「おぅ、アイオロス、帰ってきてたか。どうだ、良い情報が掴めたか?」

 あまりにも変わり過ぎていて動揺を隠せないアイオロス。それでも、へーメラーから聞いた事を説明した。これには、クレイオスは訝しげな表情になった。そんなクレイオスの隣でテレビを見ていたエオスは状況が飲み込めず、クエスチョンマークが浮かんでいた。

「そうかそうか…あのへーメラーが言ってたんだよな?…悪いが、俺にはまだ、そんな力はない。どうにかしてやりたいが…無理そうだ。他に、方法は無いんだよな?」

 アイオロスは頷く。クレイオスは深刻な感情で固まった。

 もし、このままクレイオスの力、『時空間切断能力』が覚醒しなかった場合、アイオロスはずっとレアーと食合状態のまま人生を終えることとなる。食合し、取り込まれたレアーは消えることとなる。これは互いにまずい状態だ。

「…ま、まぁ、そうネガティブに考えず、前向きに行こう!絶対に何か方法はあるはずだから!」

 アイオロスはそう言うと、二階へと階段を上っていった。

「お、おぉい…おま―――」

 ドドドドドドドドッ!ドンッ!

 クレイオスがアイオロスを止めようと声をかけようとした瞬間、アイオロスが階段で足を滑らせて転がり落ちてきた!エオスなら何しろ、アイオロスが派手に落ちてきたのは、アイオロスが今、相当焦っている証拠だ。直後、階段が爆発し、白い蒸気を大量に巻き上げた。

「だ、大丈夫かよ…?」

 クレイオスが様子を見に行く。煙くて良くは理解できない。

「いたたた…ご、ごめん…。」

 アイオロスが煙の中、ふらついて出てきた。服装が元の状態に戻っていた。身体から赤い光が放射されている。

「クレイオス!これって、一体?!」

 クレイオスも分からないという表情。

 その時、煙の中から一人の人間の影が現れた。クレイオスは驚き、すぐに警戒態勢を取る。その影はこちらへとやって来て、煙の中から出てきた。

「はぁ~…よっ、みんな!おっはよぉ~!」

 民族服を来ている小さな女の子。その姿は正しくレアーだった!身体がアイオロスと同様に赤く発光している。

「おはよー、レアー!」

 状況を理解していないマイペースなエオスだけが挨拶を返す。アイオロスとクレイオスはただただ立っているだけだった。

「どーしたの、みんなして?…もしかして、サプライズとか?」

「…じゃ、じゃなくてさ…ちょっとしたハプニングが―――」

 誰も、この状況が理解できてなかった。アイオロス自身も。なぜ、食合状態から解除できたのか?原因は不明。そして二人(アイオロス、レアー)の身体が発光しているのもまた不明だった。

「ま、結果オーライって事だよね?無事、レアーも復活できて、僕も元の自分に戻ることができたんだし、これはこれだよ。」

「まぁな…。」

 と、クレイオスは溜息を吐いた。その後、アイオロスとクレイオスは互いの顔を見合って笑い始めた。レアーとエオスは理解できず不思議そうに二人を見ていた。

「…ど、どーしたの、二人共?それに、そんな仲だったっけ?」

 レアーは訝しげに言った。

「さぁな、いつの間にかどーでも良くなってたのかもな、アイオロス?」

「そーだねー、ただ平和であれば、後のことなんてどーだって良くなったよ、クレイオス。」

 そして再び、二人は笑い始めた。


 なんだかんだで波乱万丈な早朝をやりきったアイオロス。いつも通り、遅刻せずに学校へと登校して行く。相変わらずの眠たそうな表情で一人、通学路を歩いて学校へ。他の生徒は何かとそれぞれの話で盛り上がってる中、一人ぼっちのアイオロス。いつも通りだった。何一つ変わりない日常がそこにはあった。アイオロスは急展開な一昨日までと今を比べて馬鹿げてるという感じで小さく溜息を吐いた。まるで別世界にいたかのような感覚を感じていた。

 アイオロスとは違って暇そうではない学生たちが大群で歩いている通学路。そこへ翼を生やした状態のアリオンがアイオロスのところまで飛んできた!アイオロスはそれを見て、開いた口が閉じなかった。人前でその姿での登場=人外ということを示している。神は人前に出てはいけない暗黙のルールが存在するのにも限らず、アリオンはKYの如く大空から現れ、アイオロスの前に綺麗に着地した。着地と同時に生えていたはずの翼が消えた。登校中の学生は皆、それに驚き注目が集まった。皆、『五月の蠅』状態だった。驚嘆、歓声、悲鳴、囁声と異色な声がひしめき合う中、アリオンはアイオロスへ笑顔を送った。

「やぁ、アイオロス、おは~。」

「バッ…馬鹿!空気読めよ、アリオン!ほら、見ろよ!みんなにバレちまってんだろ!」

「え~、だってわざわざコソコソとしてるよりはさ、暗黙のルールなんて捨てて楽になったほうが絶対に気楽じゃ~ん?」

 アイオロスと同じく、相変わらず楽観主義なアリオン。

「…ったく~…ほらよ。」

 アイオロスは学校指定バッグから今日の昼食のメロンパンを一つ取り出し、アリオンに投げ渡した。アリオンはそれを瞬間的に判断して口でキャッチする。

「それやるから、今すぐどっかへ行ってくれ。…12時ぐらいに屋上に来いよ…。」

 アイオロスはボソッとそう伝える。アリオンは笑顔で頷き、大翼を生やして瞬間的に飛び去った。翼で暴風が巻き起こり、辺りに砂埃を巻き上げる。アイオロスはモロにそれを食らってむせた。

「ゴホッゴホッ…全く…人間味溢れる神様だぜ…。」

 砂埃の中からアイオロスは平然と何事もなかったように冷静に出てきた。その様子を他の学生が注目して見つめる。アイオロスは大きく溜息を吐いた。


 学校に着いたアイオロス。想像通りの状況に陥ってしまった。一度も話したことのない赤の他人生徒たちからの容赦ない質問ラッシュ。聖徳太子でも聞き取れないレベルの人数の声が重なって、机に突っ伏し寝たふりをするアイオロスの耳に届く。これが凄まじく鬱陶しいのだ。

「んだよ?何か用ですか…他生徒?」

 アイオロスは面倒なので適当に答えることにした。

「朝のあいつは何だ?UMAか?!宇宙人か?!それとも新人類?!」

 知らない男子生徒が興奮気味に訊く。アイオロスは眠たそうに、

「あー、あれはあれだ…ほら、あれだよ、えっとー…あれだ、幽霊。」

 どーでも良いことなので、アイオロスは適当な答えを放つ。すると、生徒たちが一斉に驚嘆の声を上げた。これもまた鬱陶しいのだ。アイオロスは再び机に顔を埋めて眠ろうとする。しかし、誰かが肩を揺らしてきたため、再び面倒そうに起き上がる。

「んだよ?眠らせろって…寝不足なんだしー…。」

「ねぇねぇ、何で幽霊と友達になってるの?!」

 知らない女子生徒が目を輝かせて訊く。アイオロスは眠たそうに、

「あー、それは、だから要するに…あっとね~…だから、元々…じゃないな。…んだよ、めんどくさいなー。だから、あれは元々僕の友人で…言いづらいから…もう良いだろ?寝かせてくれ。」

 アイオロスは気だるそうに顔を伏せた。

 アイオロスとアリオンの話題はすぐさま校内に出回った。昼休みの頃になると、アイオロスのいる教室には学生が蔓延っていた。皆、アイオロスに注目している。アイオロスは屋上へ行こうとしているが、この状況だと行くに行けない。なんせ、アリオンなんて見つかってしまったら、それはもう一大事だ。どうしようかとアイオロスは考え、そしてトイレへと向かった。トイレの窓から身を乗り出し、壁のパイプにしがみついて屋上へ。普段、悪たちが使っている経路だ。

 屋上は風が強く、学校旗が風に揺らめいていた。直下に太陽光が降り注ぎ、暖かい。雲一つない青々とした空が広がっていた。

「アリオン、来たよ。」

 屋上で一人、アイオロスはそう叫ぶ。しかし、アリオンの姿はそこにはなかった。アイオロスは小さく溜息を吐いた後、何かを宙へと投げ飛ばした。直後、アリオンがどこからか飛んできて、その投げた物を口でキャッチした。それはアリオンが大好きなメロンパンだった。

「やぁ、アイオロス。」

「ったく…相変わらずの食欲旺盛だこと…。アリオン、ところで僕に何か用が?登校中、急に飛んできて…。アリオンは一応、神なんだよ?人前に出ることなんてタブーじゃないの?」

 アリオンは笑顔でメロンパンにかぶりついたまま、こちらを不思議そうに見つめていた。

「…おかげで、ボッチな僕に生徒が寄り付いてきちゃった訳だし…色々と問題が増えた。」

 疲れ顔のアイオロスにアリオンは笑顔を振りまき、メロンパンを食べ終わるとアイオロスに指を差して言った。

「でもさ~、アイオロス。アイオロスも一応は神?みたいなもんでしょ?人前に出てんじゃん。」

 やや複雑そうな顔になったアイオロス。今までは人間として生きてきた。なのに、急に神だったなんてすぐには飲み込めない。

「…そ、そうかもしれないけど―――」

「じゃOKじゃ~ん♪あ、そうそう…お探しか分からないけど、昨日、神に会ってきたよ~。」

 さりげなく一番大切なことをカミングアウトしてきたアリオン。

「え?!誰?誰?誰?」

 アイオロスは神と聞いて黙ってはいられなかった。アリオンはそんなアイオロスに少し笑って、それから説明した。

 アリオン曰く、その神は昨夜、電柱の上に立ってどこかを眺めていたらしい。小さな女の子の型をしてて、体がやけに青白く発光していて、髪の毛も同じように青かったらしい。白いワンピースを着ていたようだ。アリオンに気づいた彼女は金色の瞳でこちらを見つめて、そして消えていったそうだ。その間はまるで幻想を見ていたかのように美しかったらしい。

「そんな神…いるんだ…。一体、何の神なんだ?」

「さぁ~ね♪でも、どうやらこの町に居座ってるみたいだから、運が良ければ会えるよ、多分。見た感じ、夜の神って感じだったから、夜が一番かな?じゃあね~♪」

 アリオンはそう説明して飛んでいってしまった。

 そんな姿を一人の人間が貯水タンクの影から見つめていた。くすんだ灰色の髪の毛を持つ男子だった。

「…アイオロス、一体奴は何を?まぁ、そんなことは僕が考えるまでもないことか。」

 男は一人、嘲笑する。


 太陽は西の空へと沈み、東から夜がやって来た。今日は満月の夜。満月の強光が地上を明るく照らしている。空も月明かりで少し澄んだ色へと変わっていた。街中はすっかりと静まり返り、路上には何者も存在していなかった。そんな冷ややかな空気が占める路地を一人の人物が懐中電灯一本を持って歩いていた。碧い瞳と薄茶色の髪の毛に黒色の帽子を被り、青黒いTシャツと黒いズボンを着ている。足首まで届くほど長い深緑のコートを羽織っていた。名前はアイオロス。

 アイオロスは今、アリオンの情報を頼りに暗い町の中を探索していた。アリオン曰く、その神は昨夜、電柱の上に立ってどこかを眺めていたらしい。小さな女の子の型をしてて、体がやけに青白く発光していて、髪の毛も同じように青かったらしい。白いワンピースを着ていたようだ。アリオンに気づいた彼女は金色の瞳でこちらを見つめて、そして消えていったそうだ。その間はまるで幻想を見ていたかのように美しかったらしい。

「そんな神様か~、いるなら会いたいぐらいだよ。」

 その言葉が叶ったのか?突如、電柱の上に何かが現れた!暗くて良く分からない。こちらを見つめているのが見えていた。月光で理解できる、背中から巨大な翼を生やしている。アイオロスは好奇心に任せてライトをその人物に向けた。そして直後、その姿が現わとなった。その姿は表すなら、猫。巨大な化け猫だった!黄色く輝く怪しい瞳がこちらを睨みつけていた。

「ぐるるるるるるっ…。」

「うわぁ!…な、何だ、あれ?!」

 アイオロスは驚いて尻餅を付いてしまった。あまりにも悍ましく、そして恐ろしい。UMAのようだった。

「ももも、もしかして…あれがアリオンの言ってい神?」

 その化け猫は急に飛び上がり、そしてアイオロスの目の前に落ちてきた!筋肉が波打っていて、そして口からヨダレが滴り落ちる。

 アイオロスは恐ろしくて逃げ出した。その時、地面の段差に躓き、アイオロスは飛ぶように転けた!ライトが空中へと飛んでいった。そのライトが直後、空中で爆発して噴煙を巻き上げた!何が起こったのか分からず、アイオロスはパニック状態に。視界が白一色になった。

「うっし、チェンジ完了!ん?どこだ、ここは?」

 知らない誰かの声が白煙の中から響く。アイオロスは屈んだ姿勢でとりあえず白煙から逃げるために道路脇へと這っていった。あの化け猫は一体どこにいるのかと怯えながら。

 白煙から抜け出すと、アイオロスは立ち上がり、そしてすぐさま警戒態勢を取った。まだ、目の前が煙っていて、奇跡的に煙幕の役割を担っていた。そのため、あの化け猫はアイオロスの位置を確認できていないようだ。しかし、直に煙幕は薄れていく。アイオロスは気を引き締める。

 そして煙幕が晴れたその時、アイオロスは目の前に誰かが立っていることに気がついた。夜空に同化するような髪の色、輝く黄色の瞳、星空を写したような白衣。大人びた顔つき。見た目は二十代後半といったところ。まるでサイエンティストのようだ。

「誰?!」

「おぉ、よく見たら君はアイオロスではないか!久しぶりだな、忘れてしまったかな?」

「まぁ…。」

「仕方ないですね~。僕はアストライオス、星空の神。アイオロス君、君が僕を投げてくれたおかげで元に戻ることができたのだ。どうもありがとう。」

「あ…あ、そうなんですね…あはは。」

 ただ転けてライトを投げ飛ばしてしまっただけの偶然のファインプレーだった。そして、なぜかたまたま、ライトがアストライオス本体だった事も。

「ん?ところで、あの翼の生えた化け猫はアイオロス君の友達なので?」

「へ?あ!忘れてたぁ!」

 目の前に牙を剥き出しにした化け猫が立ち尽くして睨んでいた。

「ちちち、違う!あれは敵だ!」

「仕方ないですね~。なら、数億年ぶりの運動と行きますかー。」

 アイオロスは引き下がる。アストライオスは化け猫の前に立ち、化け猫を挑発するように手を振った。化け猫はそれを合図に身構えた。

「体格は君の方が大きいですけどね、合成獣君。ですが、力学的に言ってしまえば…原理上、君の体幹は―――」

 アストライオスは手を銃の形にして、撃った。人差し指から光の線が飛び出し、化け猫の右膝に当たって、化け猫を崩した!

「最悪でしょう。体上部にばかり重さが集中しているために、下半身を狙われればこの様です。」

 化け猫は唸り声を上げて四足で突撃してきた!アストライオスは合掌し、その指と指の間から光の線を五本作り出し、即座に道路に張り巡らせた!その数、およそ50本!化け猫はその光の線が作り出したネットに突撃して減速し、アストライオスの眼前で止まった。

「分力によって君の突進の力を分散しました。見てのとおり、どんなに強い力で押そうとも、この光線は切ることができない、物理学上の話では。」

 アストライオスは化け猫が突撃している光の線に触れた。そして、その光の線の太さを倍化させた。直後、化け猫は何か強い力に引っ張られたかのように吹き飛んだ!

「先ほどまで抵抗する光線に突撃し続けていましたが、これは弾力が働いていたために、ここまで近づくことができた。しかし、その光線の太さを倍にすればどうでしょうか?限界まで近づいていた君は弾力倍化した光線に反発して吹き飛ぶ。弾性の力は中学で習うごく普通の常識問題ですよ、合成獣君。」

 アイオロスはその戦闘を見ていて空いた口が閉じない状態だった。アストライオスはあまりに強く、そして格好良かった。彼は一度もその場から動いていないのにも関わらず、あの化け猫をあっさりと吹き飛ばしている。強いのは見て分かった。しかも、あの様子では手加減をしている。アストライオスは相当の強者だ。化け猫は遠くで身を起こし、こちらを睨んでいた。黄色い光が瞳から放たれている。

「アイオロス君、今からあの合成獣君を実験台とし、とある実験を試行しようと思う。どうだね?見るかな?」

 アイオロスは小さく頷く。

「それでは説明しよう。」

 直後、化け猫が身構えて突進してきた!アストライオスは余裕の表情で説明を始める。

「ここに、先ほど張った50本の光線がある。今は太い状態で強力な弾性の力が働いている。そこで問題です。この光線を初期状態より細くしてしまった場合、あの合成獣君はどうなるでしょうか?」

「さぁ?」

 アストライオスは50本の光線を一本の光に纏め、そして1本の太い光線にした。次に、その光線を初期状態より細めた。光の線は先ほどより光を増して夜空に輝いた。その直後、あの化け猫が低姿勢でその光の線へと突進していった!アストライオスは道路脇へと飛び退く。化け猫はその光の線より先へと突進できたが、翼が切断されて地面に落ちていた。背中から赤い血液が流れ出している。しかし、痛む様子はなかった。

「ぐるるるるるる…。」

 アストライオスが化け猫の膝に光線を撃って転けさせる。

「正解は刃物のように鋭くなって翼を切断する。」

「おぉ~…。」

 感心するアイオロス。そして少し満足気なアストライオス。そして何も痛がらず、立ち上がろうとする化け猫。アイオロスはそんな化け猫を見つめる。なんとか立ち上がり、再び攻撃を仕掛けようとしていた、そんな化け猫の頬を一筋の涙が流れていたのに気づいたアイオロス。アストライオスがトドメをさそうと手を構えるその前にアイオロスは立った。

「その行動には何の意味が?」

「やめてほしいんだ、これ以上は。…死人なんて出したくない。」

「あの生物は人ではないので、死人ではないのですよ。」

「そうじゃなくて―――」

「ぐるるるるぅ…。」

 アイオロスは背後からの声に気づいて振り向く。目の前には化け猫が立っていた。黄色い瞳でアイオロスを睨んでいた。アストライオスは攻撃態勢を取る。しかし、その時、化け猫が急にアイオロスの前に跪いたのだ!アイオロスは動揺して身を引いた。

「え、ええ?え?何何何っ?!」

「ぐるるるる…。アイオ、ロス、様…お、ひさし、ぶりで…ございます…。」

 化け猫が喋った!

「しゃ、喋った?!」

「わ、忘れ、忘れ、たの、で、すか?わた、くしを…。」

「そもそも、初めて見るし…。」

 その化け猫はカタコトな口調でアイオロスに自己紹介をした。どうやら彼はキマイラという名前らしい。神とはまた違った、生物らしく、アリオンの言っていた神とは違うようだ。体が大きい分、動作がでかいため、攻撃しているように見えていたが、あれは走っていたらしい。

「ややこしいな、もぉ~。危うく、アストライオスが殺すところだった。」

「全くですね。」

「そうそう…キマイラ、君は翼を切られたけど…大丈夫な訳?痛くない?」

 アイオロスは申し訳なさそうに訊く。

「も、ちろ、ん…さい、せい…します。…問題、ない…ですよ。」

 アストライオスはふと、あることに気がつく。

「…そうだ、アイオロス君。僕は神界で実験をしていたはずなんだが、突如、謎の新空間が現れて吸い込まれ、そしてここに落ちてきた。…一体、何が起こっているというのだ?」

 アイオロスはアストライオスにパンドラの箱の事を説明する。

「…そんな現象が起こっていたとは…。しかし、その話によれば、パンドラの箱からは神が放出されたとなっているが、キマイラは神ではなく、異型体だ。おかしいのではないのかな。」

「あ、そーいえばそうだ。」

「概念が崩れかかっている訳であって、それはつまり、非常にマズい事を示している。概念が崩れれば、どうなるのか。それは今までの研究で明らかとなっている。大抵は暴走が始まったり、オーバーヒートすることが普通。希に、特殊変異とかもあるけどね。」

 それを訊いたアイオロスの顔はどんどん青くなっていった。アイオロスは恐る恐る、アストライオスに先の事を訊いてみた。アストライオスは少し黙考した後、アイオロスに淡々と言った。

「…僕の推測からするには…世界が終わるといっても過言ではないですかね。」

 ガ━━(;゜Д゜)━━ン!!

 アイオロスは衝撃で開いた口が閉じなくなってしまった。このままでは、世界に終焉を齎した人間が自分自身だという事になってしまう。冷や汗が先ほどから止まらないアイオロスは、この状況に詳しそうなアストライオスに焦り気味に対処法を訊いた。アストライオスは人差し指を鼻下に添えるような態勢で、再び黙考し始めた。先ほどより少し長めに考えた後、アストライオスは困った顔で答える。

「そうですね…手段は元を対処するしかないでしょうね。僕自身、正直この件はあまり詳しくない。ですから、「原因=破滅」と考えます。それならば、「NOT原因≠NOT破滅」ではないでしょうか。あくまでもこれは、事象の公式ですが。」

 アストライオスの推測を聞き、アイオロスはホッとして胸をなでおろした。解決法がある、解決できる可能性が存在する、その希望があるだけも全く違っていた。

「うん…何とか頑張るよ。それと、キマイラはどうする?」

 キマイラは戸惑っている様子でアイオロスを見つめていた。こう見ると、なぜか不思議と悪くは見えなくなっていた。今は先ほどと違って恐怖心がなく、なぜか親近感がアイオロスの心の中に現れていた。自分でも何が何だか分かっていないようだけど。

 アストライオスは淡々と、

「それでは、あなたが匿ってあげれば良いのでは?あなたの下僕しもべみたいになっているしね。」

 そう言った。

「んな、無責任な!」

「悪く言えば、僕には何も責任など存在しません。故に僕が彼を処理する必要はありませんので。」

 アイオロスはそんなアストライオスと、オドオドしている見た目の割には優しそうな化物を見て、小さく溜息を吐いた。

「ですが、良く言えば…彼はあなたの目的の協力者になってくれるのではないでしょうか?」

「あ、それがあったかー。」

 アイオロスはキマイラの顔を見上げる。身体の大きいキマイラはアイオロスを、自然と見下す感じになってしまっている。アイオロスはニヤリと一度笑うと、キマイラにこう言った。

「えっと…キマイラ君?君は僕に忠誠を交わしてくれるのかな?」

 悪そうな顔つきでそう言ったアイオロス。確実に利用しようとしている。

 キマイラは当然のように、

「もち、ろんで…ございます…アイ、オ…ロス様…。」

 胸に手を当てて膝を付き、アイオロスに忠誠を交わす態度で頭を下げた。アイオロスはそんなキマイラを見て、心の中で、

(道具を手に入れたぁ~w)

 なんてことを考えていた。

「苦しゅうない、頭を上げたまえ、キマイラ君。」

 アイオロスは偉そうに胸を張ってそう言った。キマイラは頭を上げてアイオロスを見下した。

「それでは、キマイラ君。私を連れて飛んでくれないかね?」

「はい…かし、こまり…ました…。」

 キマイラはアイオロスを乗せ、大翼を羽ばたかせて空へと飛んでいった。アストライオスへと羽ばたきの風が当たって白衣をはためかせていた。

 アストライオスはアイオロスとキマイラの姿を見て、消えた後、

「…地獄絵図ですね…。」

 小さくそう呟いた。


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