第2話『突拍子もなく訪れる神の気まぐれ(File Number1to4)』
どうも、星野夜です。
授業中NOW!やばいです、本当に(フザケ)。
そんな私が投稿する第2話。
(授業中に投稿する時点でロクなもんじゃないことは目に見えてますよー。)
さぁ~てと、そろそろ話の無駄に長い情報処理担当の教員が気付きそうなので、ここらへんで終わりにしましょうw。
それでは、本編をどーぞ!
次の日、眠っているアイオロスは激しい揺れによって驚き飛び起きた。時間は日の出より少し前。やや暗めの部屋の中、アイオロスは寝ぼけ眼を細めて何が起きたのかを確認した。すると、目の前に一人の人間が堂々と立っていた。アイオロスは自分を疑う。もしかしたら寝ぼけているんじゃないかと。立ち上がってデスクのスタンドライトを点けた。すると、やはりそこに立っていた。ライトを点けたので姿が明らかとなった。黒と朱色の混ざり合うワンピースを着ている赤髪の女の子だった。年齢は12歳くらいに見える。
「うわっ!ななななっ何っ?!」
「そこまで驚かなくたって良いよ。アイオロス?だよね。」
アイオロスは少し警戒心を持っているものの、彼女が安全そうに見えたのでベッドに戻って寝転がった。
「…アイオロス、私を覚えてる?」
「いいや…初めて見るよ、そんな赤髪。」
少女は悲しげに俯いた。
「そうなの…やっぱり覚えてないんだ。」
「君は一体誰?何で僕の家にいるの?」
ベッドで落ち着いた様子のアイオロス。彼の素朴な質問に、その少女は気を取り直して答えた。
「私はエオス。この世界じゃあ…暁の女神って呼ばれてるんだけど…知ってる?」
アイオロスは飛び起きた。人間だと思っていた彼女がまさかの神の一種だったと知り、落ち着いてはいられなくなった。
「君はもしかしてパンドラの箱から飛び出てきたのかい?」
「え?いいえ…気がついたら地上に落とされていて…。その時に仲間とはぐれちゃって…近くにアイオロスの気配がしたから知らないかなって?」
アイオロスは分からないと首を横に振った。エオスは仕方ないと言う表情で部屋を出ていこうとしたが、アイオロスはそんなエオスを止めた。アイオロスはパンドラの箱から出てしまった神々を戻さなければならない義務がある。エオスはその一人だからだ。
「エオス、僕はパンドラの箱っていうのを開けちゃって…神界の神たちを地上に引き連れてしまったんだ。だから、僕自身で神々を集めて戻さないといけない。エオスはその一人なんだよ。…仲間を見つける手伝いをするからさ、見つかったら仲間と一緒に神界へと戻ってくれるかい?」
エオスは無言で首肯した。けれど喜んでいるようでピョンピョンと跳ねるように部屋を出て行った。その数秒後にガタガタと何か落ちる音がした。エオスが階段に足を滑らせて落ちたようだ。
「ったく…エオス!大丈夫?」
アイオロスは部屋を出て、階段を確認した。一番下にエオスがボロボロになって倒れていた。
「いてててて…だ、大丈夫~。」
昼頃、アイオロスは学校で昼食を食べていた。いつも近くのコンビニで昼食を買っている。今日はメロンパンを買ったようだ。それを屋上の見晴らしの良いタンク上に座って食べていた。アイオロスはボッチだけあって、屋上が大好き。特にこの季節は太陽が直下に降り注ぐために気温が上がる。屋上は風が強いために心地が良かった。
そんな中、ポケットに隠し持っていたスマートフォンが鳴り響いいた。アイオロスは電話に出た。
「もしもしー。」
メロンパンを食べながらの言葉。少し滑舌が回っていない。
「アイオロスか?」
「誰ですかー?」
「俺だ、クレイオス!」
「…あ~あ、あの時のー。どうした?」
「どうしたってお前…神探しはどうなってるんだよ?」
「あー…そう言えば、今日の日の出前に一人…一人っていうか一柱?出会ったよ。」
「何で電話しねぇんだよ!」
「だって…僕、クレイオスの電話番号知らないし…。」
「あ…。」
「?…クレイオスはどうやって電話番号を…。」
「俺は神だぞ?これぐらい余裕だ。アイオロス、俺は今、一柱の神を見つけた!急いで来い!場所は―――」
「ん?…うわぁっ!」
「ど、どうした?!」
アイオロスは空が暗くなったのに気づいて天を見上げた。直後、アイオロスに何かがぶつかった!アイオロスは持っていたスマートフォンを一階まで落としてしまった。
「…何だ?」
アイオロスは起き上がる。そこには一人の高校生らしき人物が倒れていた。毛皮でできた外套を羽織っている。その背中からは翼が生えていた!まるでペガサスとでも言うべき立派な白い翼がそこには見えていた。つまり、この人物は人間じゃない。アイオロスは急展開過ぎて事態が飲み込めていなかった。テンパリ気味のアイオロスをさておき、翼の生えた人間は立ち上がった。
「あれ?君ってもしかして…人間?にしては同じような匂いが…。」
その人間はアイオロスを見下す。澄んだ蒼い瞳と茶髪を持った女子高生?アイオロスは呆然としていた。
「?…まぁ、普通は人間に見られたら殺すんだけど…まぁ、何か君、不思議だから今回はほっとおくよ。このことは黙っていてよね?」
笑顔でそうアイオロスに囁きかけた。アイオロスは驚きながらも小さく頷いた。
彼女は一度大きく手を伸ばすと、次の瞬間、背中に生えていたはずの二本の翼が消えた。羽織っている毛皮の外套には一切穴など空いていない。
「!…もしかして!…君はパンドラの箱で地上に落とされた神!」
彼女は振り向いた。蒼い瞳がアイオロスを訝しげに睨んでいた。
「君、やっぱり殺したほうが良いかな。」
彼女は座り尽くしているアイオロスの眼前に右腕を構えた。その手から白い毛のような物が生えだしたかと思うと、一瞬にして右腕が鳥の翼に変化した。
「待って!僕の話を聞いて!僕はアイオロス!風の王として地上に落ちた風の四神を捕縛しなければならない。その際、関係ない神々までが地上へと落とされてしまったんだ。君はその一人なんだよね?」
彼女は一瞬だけ驚いたが、すぐに普通の顔付きに戻る。分かってくれたのか、構えていた右腕を戻した。
「…そっか!やっぱりね!だから人間とは一味違う匂いがしたんだ!アイオロスって言ったけ?私はアリオン、天馬の神って言われてる。」
「天馬の神?…つまりペガサスってこと?…アリオン、神界に戻ってく―――」
「やだ!」
即答。
「そこを何とかー。」
「やだ!だって神界は暇なんだもん。せっかく、地上に来れたっていうのに、何にもしないで帰るなんて馬鹿がするようなことだよ。それに、神だってバレなきゃ問題ないでしょ?」
「現に僕にバレたじゃん。」
「それは偶然!でもアイオロスは人間じゃないじゃん。」
「酷い事言うなー。」
「まぁ、私は自分で帰る気になったら帰るから。それまでは愚民ライフを満喫して来るよー。じゃあね!」
アリオンはタンクのあるこの屋上から飛び降りた。直後、翼が生えてアリオンは遠くへと飛んでいった。アイオロスはまだ言いたい事があったけど先に行ってしまったので言いそびれた。
「行っちゃったよー。そうだ、クレイオスに連絡をって…あれ?スマホが…あっ!」
アイオロスは屋上の柵にへばりついて下を覗き込んだ。グラウンドの地面にアイオロスのスマートフォンが粉々になって落ちているのが見えた。アリオンが上から落ちてきた時に落としてしまったのだろう。
「あ~あ、僕の携帯がー。…まぁ、とりあえず、連絡だけは…。」
アイオロスはクレイオスにテレパシーを送った。最初から携帯ではなくテレパシーで会話していれば良かったものの、なぜクレイオスは携帯を使っていたのか?
『クレイオス、聞こえる?』
『ああ、テレパシーできたんだな。』
『さっきは通信が切れちゃったでしょ?あの時、僕はアリオンっていう天馬の神に出会ったんだ。そっちは誰だった?』
『何だと?!アリオンはどうした?!』
『逃げちゃったよ。仕方ない。』
『…そうか。こっちも一人見つけてな。何の神かは見ただけじゃ分からない。とりあえず、尾行を続けている。早く来てくれ。』
アイオロスは昼食をやめて屋上を出ていこうと立ち上がった。その時、
「ねぇねぇ!それってもしかして!」
背後から聞いた声が響き、アイオロスは驚いて振り向いた。その背後には翼を生やした人間が。飛んでいったはずのアリオンがなぜかアイオロスの後ろに立っていた。キラキラとした目でアイオロスの持っている物を見つめていた。
「それってもしかして、メロンパンじゃない!」
「…欲しいの?」
アリオンはキラキラした瞳のまま軽く頷いた。興奮しているのか、生やしたままの翼を羽ばたかせている。そのため、アイオロスに向かって強風が吹き付けていた。
「…良いけど、ちょっと手伝って欲しいことがあるなー。それをしてくれればメロンパン、あげる。」
「いいよ!何でも言って!」
数分後、場所はとある住宅街の路地。昼頃のため、その路地には誰も通ってはいない。炎天下の中、路地の物陰にクレイオスが隠れ潜んでいた。少し前を歩いている一人の人物を備考している。陽炎が遠くの景色を揺らめかせていた。
そこにアイオロスが落っこってきて、クレイオスの真下に着地した。
「とっ!クレイオス、来たよ。」
「早っ!学校から4キロもあるんだぞ!飛んできたのか?」
「そうに決まってるじゃーん。」
アリオンの声が頭上から聞こえた。頭上で翼の生えたアリオンが羽ばたいてホバリングしていた。その手にはメロンパンが。もう既に半分を食い切っている。
「アリオン!アイオロスから話は聞いていた。神界に戻れよ。」
クレイオスは直下の太陽光を手で遮って、アリオンを見上げながらそう言った。アリオンはその言葉に対して何も言わず、まるで聞いてなかったかのような態度でメロンパンを食べていた。
「アリオン!聞いてんのか?!」
「…うざい。」
その時、アリオンの翼の羽が一枚飛翔し、クレイオスの服に突き刺さった。クレイオスは微動だにしないでアリオンを睨みつけた。
「…ごめん、クレイオス。アリオンはあれでも良い神なんだよ。手は出さないでよ。」
「分かってる。」
空にホバリングしているアリオンはメロンパンを食べ終わると、アイオロスに向けてお礼をした。そして一言メッセージを送った。
「一つだけ言っておくよ、アイオロス!もし、君が神を全て戻したいと思ってるなら、必ず手に入れないといけない物があるんだよ。以上、じゃあね。」
アリオンは強く羽ばたいて数秒で雲の向こうへと消えていった。
「…クレイオス、手に入れなきゃいけないものって何?」
「さぁな。」
「僕は知ってるよ、それ。」
二人の背後から男の子の声がして、二人は同時に振り向いた。そこにはオレンジ色の髪の毛をした男の子が立っていた。夏なのに、灰色の上着をチャックを閉めずに着込んでいる。この人物はクレイオスが備考していた人間だ。クレイオスは意表を突かれ、ドキッとしていた。アイオロスはまったく知らないので、訝しげだった。
「…クレイオス、言わなくていいよ。僕には分かる。彼は…中学生だ!」
「じゃねぇよ!」
「え?違うの?…じゃあ、もしかして高校生ってことじゃ―――」
「それも違う!神だ!」
アイオロスは本当に理解していなかったのか、衝撃を受けたような顔になった。その男の子は微笑していた。
「僕には君たちのことが分かるよ。そしてアリオンの言ってたことも。…君たちは僕ら神を戻しに来たんでしょ?アイオロスがパンドラの箱を開けちゃって、それが原因で地上に僕らは落とされた。その修正をしようとしてるんだろうけど…僕の予測ではそれは不可能だよ。クレイオス、君の実力を持ってしてもね。アリオンが言ってた『アストルニーケ』を持ったとしても同じだよ。」
その男の子は感情も何にも籠っていない空気のような棒読みでそう言った。なぜかアイオロスがパンドラの箱を開けたことや、神々を見つけていることなどを見透かされてしまった。クレイオスはその能力に気付いて閃いた。
「お前、もしかしてヘーメラー!」
その男の子は頷く。ヘーメラーとはギリシャ神話で昼の神と言われている一柱。ヘーメラーの千里眼というものがあり、どんなことでもある程度の領域までは見透かされてしまう恐ろしい能力を持っている。
へーメラーはアストルニーケに付いてを説明し始めた。
「君たちが必ず取らなければならないと運命が定めた必須事項の一つとしてアリオンの言っていた『アストルニーケ』を手にしなければならない。『アストルニーケ』は勝利の神、ニケの持つ武器の一つ。見た目は変幻自在で原型を取り留めない。故に、『アストルニーケ』の入手は神でも難しい。まず、勝利の神から力技で奪い取ることは不可能だよ。それに、『アストルニーケ』は適合神しか扱えない代物。君たちじゃ無理さ。」
ずらずらと長々に説明してくれたへーメラー。このタイプは人間で表すとインテリ系頭脳派だ。
「…じゃあ、僕がニケの友達になればいいさ!」
「「はい?」」
クレイオス、へーメラーが同時に理解できないと言う表情になった。彼ら神には人間の心は理解できない。
「ニケと友達になって『アルトリア』を貸してもらうよ。」
「『アストルニーケ』だろ?」
「うん。」
クレイオスは溜息を吐き、呆れて訳が分からないという感じだった。へーメラーはちょっぴり笑顔になっている。アイオロスは何がおかしいのか分からないから不思議な顔だった。
その日の夜、アイオロスは部活帰りでボーッとしながら歩いていた。辺りは既に暗く、空には満月が見えていた。
「お疲れって感じですねー。」
どこからか男の声が。アイオロスはその声のした方を見る。前方の電柱の影に誰かが立っていた。姿が隠れていて良く分からない。アイオロスは警戒する。
「誰?」
「人間にしては気が違うな、お前。」
アイオロスはその言葉を聞いて、彼が人間じゃないことを理解した。同時に、神であると認識した。
「君も神なんだね。…僕に何の用?」
「とぼけるなよ、お前は神を探し回ってるんだろ?そう聞いていたが。」
電柱から一人の男が出てきた。黒服を着ていて住宅街の雰囲気に似合っていない。怪しい瞳がアイオロスを捉えていた。アイオロスもその男を訝しげに睨む。お互い睨み合いの状態になった後、男が先に口を開いた。
「まぁ、俺も探していたんだ、お前を。エレボスからお願いされてな。アイオロス、お前を排除しろってな。」
アイオロスはその言葉を聞いた直後、すぐ横の赤の他人の住宅の中へと飛び込んだ。それと同時にアイオロスの立っていた場所に亀裂が入った。アイオロスは男が敵だと認識し、赤の他人の住宅の裏に回った。男は追ってきていない。
『クレイオス!聞こえる?!』
アイオロスはテレパシーを送る。
『何だ?!非常事態か?!』
アイオロスは住宅の裏の出入り口から逆側の路地へと飛び込んだ。
『そうなんだ!急に敵が…うわっ!』
飛び込んだ路地の横、さっきの黒服の男が余裕の表情で立っていた。アイオロスよりも早く先回りしている。
「神の力ってことね!」
アイオロスは逃走する。しかし、その前方に黒服の男が現れた!それはまるでワープのように。
「逃げるなよー、一思いに消してやるって言ってんだろ?」
男は怪しい瞳でアイオロスを見下す。
『クレイオス!早く来て!』
そうテレパシーを送って、アイオロスはまた逃げ出した。直後、頬に何かが激突してアイオロスは吹き飛び、住宅の石壁にぶつかった。アイオロスは背中を強打して呼吸ができず苦しみ転がった。男が瞬間的にアイオロスを蹴り飛ばしたのだ。男は笑顔で歩いてくる。
「俺の名前はクロノス。時間の神だ。お前がいくら逃げようとも、俺からは逃げきれない。止まった時間の中を動けるのは俺だけだ。さぁ、もうやめにしよう。動くなよ。」
男はアイオロスの顔の前に足を構えた。この足が下がれば、顔を踏み潰されて死ぬ。しかし、アイオロスには逃げる力がなかった。
「さようなら。風の王。」
男は足を思い切り叩きつけた。その足が顔を踏み潰す、その瞬間、男は吹き飛んで倒れた。男の胸部には大きな切り傷が斜めに入っていた。血は出ていない。男は何もなかったかのように立ち上がった。
「アイオロス!間に合ったぜ!」
クレイオスの声だ。空からクレイオスが落ちてきて着地した。しかし、その姿は以前のクレイオスとは違っていた。普段は黒い瞳と髪の毛だったのに対して、今のクレイオスは茶髪に紫色の瞳だった。オレンジ色の民族服を着ている。何かが違かった。
「クレイオ―――」
瞬間、クレイオスはクロノスの蹴りを食らって吹き飛んだ。クロノスの時間を止めての攻撃だ。クレイオスは空中で反転し、壁を蹴ってクロノスへと飛んでいった。右腕が変形し始め、それは鉄槌に変化した。遠心力を利用してクレイオスはその鉄槌をクロノスに振り落とした!しかし、クロノスの体が瞬間移動し、直後、クレイオスはクロノスに踏み潰された!
「?…神にしては随分と弱いな。それに…何だ?その不安定な気は?青と茶色のオーラ?お前、何神だ?」
「さぁな!」
クレイオスの左手の攻撃がクロノスの足にヒットした。左手は刃に変化していて、クロノスの足を切り断った!その斬撃がそのまま住宅街の外壁にヒットして石の壁が切れて落ちた。クレイオスは横に転がって避け、立ち上がり体勢を整える。クロノスは何も痛くないというような無表情で切られた右足を見て、そして笑った。アイオロスはそんなクロノスに鳥肌が立った。
「くふふふふ、ハハハハハハ!アハハハハハハッ!…何神かは知らないけど…面白い。この俺に傷を付けるとはな。…どうなるか、分かってるんだろうな?」
クロノスが笑顔で呟いた。その覇気がヒシヒシと伝わってくる。黒く冷たい風のようなものが吹き込んだ気がした。全身に鳥肌が立ち、冷や汗が吹き出すアイオロス。クレイオスもあまりの覇気に体が少しだけすくんだ。
「カウントダウン…3、2、1…0。」
直後、クレイオスの体が爆発した!辺りに爆煙が広がり、アイオロスは咳き込んだ。クレイオスの安否が気になるところだが、アイオロスにはそんな余裕はない。とっさに煙のない後方へと逃れる。しばらくして爆煙が消えると、そこには倒れているクレイオス、その体を踏んでいるクロノスがいた。クレイオスは戦闘不能状態で意識はなかった。その体が急に光り出したと思うと、姿が以前のクレイオスに戻った。クレイオスの口から何かが飛び出して、それはアイオロスの足元へと転がって止まる。茶色の球体状の何か。
「飴?」
その飴が爆発した!爆煙を巻き上げ、その爆煙が人型になった。茶色の髪の毛、民族服の姿に見覚えがあったアイオロス。それはレアーだ。パンドラの箱を開けたときに飛び出てきたクレイオスの妹。神界に戻ったはずのレアーがなぜ、クレイオスの口の中から出てきたのか。
「レアー?」
レアーは傷だらけでボロボロだった。意識はまだあるらしいが、動けそうになかった。
「なるほど…お前はクレイオスだったのか。レアーと結合しても俺に勝てないとはな。随分と不安定な食合神を作ったもんだ。」
クロノスは笑顔でそう言った。
レアーはアイオロスの足を掴んで、
「アイオロス…私、を食べて、くれないかな…。」
かすれ声でそう言った。アイオロスは意味が分からず、聞き間違えかと思った。しかし、レアーは確実に『食べて』と言っている。
「馬鹿げてる。なぜ食べるんだ?」
クロノスがクレイオスを蹴り退かした。アイオロスに近づいてくる。
「良いから…。」
その時、レアーの体が光り出し、そして先ほどと同様の飴になった。アイオロスは恐る恐るそれを手に取り、そして口の中へと入れて噛み砕いた。
「さぁ、アイオロス。素直に…死ね。」
クロノスがアイオロスを蹴ろうと足を構えたその時、アイオロスの体から爆煙が巻き起こった!クロノスは意表を突かれて体勢を崩す。視界が煙だけになったと思うと、直後、クロノスは腹部に強い衝撃を受けて吹き飛び、住宅の二階の部屋の中まで飛んでいった。
「はぁあ~…何だよ、これ?」
その声はアイオロス。しかし、微妙に声が二重になっている。煙が晴れて、その姿が理解できるようになった。以前の碧い色ではない、黄色の瞳。深緑色の民族服を着ている。アイオロスだけれど、雰囲気がまったく違っていた。アイオロスはそんな自分に気付いて状況が飲み込めていなかった。
「…これって…何だ?レアー…?」
クロノスが住宅の二階から出てきた。相当なダメージを受けているようでふらついている。
「食合神…適合体…。レアーの力を吸収して適合強化した訳か…。まさか、雑魚が二つ揃ってここまでとはな。」
「食合神?…僕がレアーと一つになったってこと?」
アイオロスが戸惑っているその隙を狙い、クロノスは瞬間的に背後に回って背中に蹴りを入れた!しかし、その攻撃は外套が硬化して防がれた。アイオロスはそれに気付いていない。勝手に硬化したのだ。
「ん?うわっ、クロノス!いつの間に!」
アイオロスはバックステップで距離を開け、警戒態勢に入った。これには、クロノスは呆気にとられた。このままでは勝てない、そういう感情だった。
「…この体なら…クロノスを…。いや、そんなのは…。クロノス!」
アイオロスはクロノスの名前を叫んだ。クロノスは疲れ顔でアイオロスを睨みつける。
「お願いがあるんだけど―――」
「神界に戻れってことだろ?答えはノーだ。」
「そう…でも諦めないから。」
アイオロスは倒れているクレイオスを持ち上げ、担いで逃げ出した。レアーの力も吸収しているために逃げ足は早い。クロノスは追えば一瞬だが、勝てないと理解して動かなかった。