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処刑台  作者: 菊之助
6/6

滑稽

パタリと閉まった扉を少し見ながら笑っていた高坂は目の前にいる一に視線を向け、溜息を吐く。


「君も早く出て行ったら」


高飛車な言い方をする高坂は橘が出て行った所為か冷ややかな声で眉間に皺を寄せながら言う。

先程から態とらしく癪に障る様な言い方をする高坂は見ての通り一を嫌っていて、一も高坂を嫌っているのか橘が居なくなった瞬間に抑えようとしていた怒りを露わにし、今度はテーブル越しからではなく高坂の前に立ち胸倉を掴む。


「……人を揶揄うのも大概にしろ」


やはり先程の高坂に対し思うところがあるのか、低い声で言い放つ一は抑える事のない怒りを高坂に向ける。橘を揶揄う様な真似をする高坂が許せないのだろう一は今にも殴りかかりそうな剣幕で睨みつけながら胸倉を離す。


「何で俺が完璧にしようとするのかが分かる?媚を売って迄皇中将からの信用を厚くさせて完璧な関係性を築き上げようとするのか」


キスが出来てしまいそうな距離で言う高坂は一の腰を抱きながら鼻をくっ付け、何時までも揶揄う様な姿勢の高坂は冷ややかな視線を向けながら笑う。


「俺はね、ただ優位に立ちたいだけなんだよ」


先程の様に一の唇を甘噛みし、啄む。


「人より完璧に仕上げて人より優位に、揶揄う種に。自分より劣る人間を揶揄っても顔を真っ赤にして俯くだけで酷く滑稽で、可哀想で面白いから」


そう淡々と言う高坂は瞼を閉じていて真意は読み取れない。


「可哀想か……」


高坂を勢いよく突き飛ばしそう独り言の様な小さく呟く一の声には何処となく殺気が含んでいて、般若の様な表情で睨みつけている。それに反して勢いよく床に突き飛ばされた高坂は笑っていて何とも歪な空間を生み出す。


ガンッ。

床に叩きつける様な、怒りを含んだ音は一によって生み出されたものでこの歪で静かな部屋に鳴り響く。一は高坂の髪を引き千切るかの様に力強く掴んでいて、高坂の頭を何度も床に叩き付ける。


「可哀想なのは御前だろう」


酷く落ち着いた声でそう高坂に言う一は冷ややかな視線を向け、唇がくっ付きそうな距離で顔を寄せる。


「人より優位に立つ為だけに、人を揶揄う為だけに生きる御前は本当に哀れだ」


鼻で笑いながら低くそう言い放つ一は高坂の頭を勢いよく離す。


「君からみたら哀れだろう」


抵抗せず一からの与えられる痛みを甘受している様な不気味な程笑みを崩さない高坂は一の手首を取り淡々とした声色で言い放つ。


「でも止められない、愉快で堪らない。特に君みたいな男から嫉妬心を向けられるのは楽しいんだよ」


にっこりと笑う高坂は弾ませた声でそう述べ、続け様に目を細め、煽る様に嘲笑を混じえながら言い放つ。


「皇中将の一番になれない忠犬気取りの君には理解し難い事だろうね」


まるで詰まらない人生を送る君には分からないと言うかの様に目を三日月の様に細める高坂は一の首根っこを掴み顔を引き寄せ、煽る姿勢を崩さない。


何を思っているのか全く読み取れず、まるで能面の様な笑みを浮かべている高坂は何故それ程までこの男に対し角の立つ物言いをするのかが分からない。

そもそもこの男と高坂は元は所属部隊は同じでこれ程迄に嫌ってはいなかっただろう。寧ろ好いていたのではなかっただろうか、では何故。


ガンッと先程と同様の大きな音が耳奥で響き、意識が現実に引き戻される。


「あぁ……、君も存外に滑稽だね」


瞳孔を開け、般若の様な表情で再び振り上げた拳を強く床に叩きつける一と殴られてもなお揶揄う様な姿勢を崩さない高坂はねっとりとした声で一の首筋を撫でながら笑う。まるでいつまで経っても二番手で可哀想だと、君は馬鹿だと言う様にケラケラと。


「御前……」


一層殺気立った顔で此方を睨み付けながら勢いよく拳を振り上げる、その時。


コンコン。

耳心地の良い扉をノックする音が聞こえてくる。


コンコン、コンコンと。


ちっと舌打ちを打つ一は振り上げた拳を高坂の頬スレスレで止め、立ち上がり勢いよく足を振り上げ高坂の横腹を蹴る。怒りに任せた足蹴りは一発、一発が重たく高坂の腹を痛め付けていく。

だがそれでも尚ケラケラと笑う事を止めない高坂は素早く身体を少し回転させ、振り上げられた足に自身の足を勢いよく打つけバランスを崩させる。

グラついて後ろに倒れていく一の手を掴み、勢いよく自身の胸元に抱き寄せ首根っこを力強く掴む。


ーーガチャリ。


「……高坂さん?」


キーッと開き行く扉の音がやけに響いて聞こえる。

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