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処刑台  作者: 菊之助
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予兆

窓から射し込む朝の光は頬を照らし、目を覚まさせる。絶え絶えと吐かれる息は喉を絞め、大量の汗は止まらず背中を流れていく。


髪を引き千切るかの様に力強く頭を抱えている高坂は酷く歪んだ表情で布団を見ながら、何とも言えない微妙な笑みを口に漂わせる。


夢は所詮ただの夢にしか過ぎず、切り取られた複数の記憶がパラパラ漫画形式で表れているだけだが、この男にとっては一つの記憶に近いのだろう。何とも言えない夢は高坂の記憶を刺激し、苛立ちを煽る。

地下強く頭を抱えていた手を振り上げ、布団を殴る。


「あぁ……」


天井を眺めながら零す声は無気力で、ほんの少しの怒りとも悲しさとも言える感情が混じっていて酷く歪めた表情は何とも言えない。

何故皇が死んでいたのか、そう思っているのだろうか。其れともただ俺はしていないんだと。

前者も後者も当て嵌まるだろうがこの男なら何故あの時あの様に言ったのか、何故態々あの場所に呼び出したのかと。


夢の真相を探ったところで如何にもならない。


考える事を止めよう、時間の無駄だとでも言うかの様に布団から出るこの男はヒヤリとしたフローリングの床を足裏で感じながら背を伸ばし、溜息を吐く。先程とは違い撫でるように髪を触りながらハンガーに掛けている服を取る。


鉄御納戸色のワイシャツの袖を通し、サスペンダーが付いている墨色の線が入った黒色のパンツを履き、サスペンダーを肩に掛ける。立ちながら青白橡色の靴下を履く。


先程何とも言えない表情を浮かべていた男とは思えぬ程、無表情で淡々としていくこの男に対し少しは億劫にならないものかと思ってしまう。

尤もこの男にとっては着替えも順番通り、時間通りに完璧にしなくてはいけない事で億劫であろうがなかろうが何方でも良いのかも知れない。


そんな完璧癖が有るこの男は髪を右手で梳かしながら洗面所に向かう。


ジャー、ジャー。

洗面所から勢いよく水を出す音が聞こえてくる。バシャバシャと何度も繰り返し洗い流す音は部屋に響き渡り、気が済んだのか次はドライヤーの音が聞こくてくる。


整い終わったのか洗面所から出てくるこの男はハンガーに掛けてあったスカーフを巻き、鳩羽色の肩マントと光るエポレット、飾緒が付いた留紺色のジャッケトを着、ボタンを留めていく。カチカチと時計を身に付け、少し歪んだスカーフを定位置に戻し整える。


コンコン、コンコン。

まるで高坂が着替え終えたのを見計らったかの様に扉をノックする音が聞こえる。


「高坂国宏」


扉の向こうから落ち着いた声が聞こえてくる。

コンコン、コンコンと。


扉を叩く音と落ち着いた声がやけに響き渡る。

ヒヤリとした空気が頬を掠め、扉前に立つ男が此方を睨んでる様な気がして開ける事が出来ない高坂はじっと扉を見ている。


「高坂、開けろ」


何時になっても開けない高坂に苛立ったのか、何度も何度も扉を叩きながらノブをガチャガチャと回す男はまるで取り立て屋の様。男がノブを回す度に高坂は一歩二歩下がり、扉から遠ざかる。


「高坂君、開けて?」


今度は別の男の声が向こうから聞こえてくる。

此方の機嫌を伺うかの様な男は取り立て屋の様な男とは違い声色が優しく、高坂を扉前に呼び寄せる。


「少し話がしたいんだ、良いかな?」


更に開ける様に促す声は穏やかで高坂に鍵を開けさせ、ノブを捻らせる。


「……どうぞ、入って下さい」


ガチャリと。

それは宛ら始まりの合図の様。

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