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処刑台  作者: 菊之助
3/6

深紅

篠突く雨の中に見える何とも言えない白く光る線。

空に線を描く其れはけたたましく鳴り響く。


この男の感情に合わせるかの様に鳴り響く音は出口へと導き、真っ暗な闇へと手招きしている雨は男の背を覆い隠す。


この路地裏は煉獄の様な、地獄への道のりの様な。

先が見えない真っ黒な出口はまさに地獄の門。


奥へ、奥へと誘い込む。

一度踏み入れてしまえば帰り道を閉ざすかの様な出口へと。


この男が踏み入れるその瞬間、後方から白く大きな線がけたたましく落ちる。


丁度烏羽色の傘の元へと。


烏羽色の傘が落ちる瞬間、顔を見る事は許さないとでも言うかの様に雨が視界を覆う。まるで烏羽色の傘はこの先の展開の重要な部分であり、今見てしまえば種が露見してしまう恐れがあるとでも言うかの様。

この先に何かが待っているのを予測させる為に用意された様で。

酷く打ち付ける雨がまさにそれを物語る。


尤もこの男は後方を見向きもせずに進んで行くのだが。


出口を出た先に広がる煉瓦が敷き詰められた道、それを取り囲む様に植えてある何年も手入れがされていないであろう揺らぐ木々は耳障りの好い音を奏で、高坂を出迎える。しかしその音は激しく降る雨に吹かれて胸を掻き立てる様な音となり、ザワザワと吹く木々は水飛沫で高坂の肩を濡らし、小気味好い足音を立ち止まらせる。


呆然とでも言えばいいのだろうか。


思考停止に陥り、立ち尽くしている高坂の目の先に有る煉瓦が敷き詰められただだ広い道の中央に転がる鳶色の軍服が酷い顔で此方を見ている。

その男の腹にある赤は椿の花が敷き詰められたかの様な目に沁みるばかりの鮮やかな紅赤。


目を疑うかの様に立ち尽くしている高坂は金縛りが解けたかのように傘を投げ捨て、傍へと駆け寄る。


「皇中将」


大声にも似た声は激しく降り注ぐ雨に呑まれ、高坂をも道連れにしようとする。


「高坂君」


名前を呼ぶ皇和利スメラギカズトシは酷く歪めた表情を浮かべながら高坂の両手を掴み、視線を腹へと向けさせる。名前を呼んだ意味を教えるかの様にべたりとついた紅赤は高坂の手を撫で、鋭い金属音を響き渡らせる。


カラン、カラン。


落ちた小刀、高坂の掌で咲き誇る椿にも似た紅赤は静かに地面へと落ちていく。


紅赤を追う様に地面に腰を落とす高坂はただただ鳶色の軍服を眺めるだけで、その場から動こうとも声を出す事もしない。

まるでその場に縛り付けられたかの様に。

それを見る木々はヒソヒソ話をしているかの様。


ザワザワ、コツコツ。


コツコツと高らかなヒールが煉瓦を踏むのが、あの嫌に耳の奥に残る音が後方から聞こえてくる。

一歩、二歩三歩と此方へと折れた烏羽色の傘を持ちながら向かってくる。


しかしながら高坂は見向きもせず皇を眺めている。気付いていないのか、其れとも。


既に男が高坂の背後に立っているにも関わらずに動こうとはしない高坂を食い入る様に見てしまう。

木々も同じなのであろう。

ザワザワと鳴っていたのが烏羽色の傘を持った男が高坂の背後に立った瞬間に音を消した。


「弑する様な馬鹿げた事はしていない」


その場に縛り付けられたかの様に動かなかった高坂がじっと皇を眺めながら、背後に立つ男にそう答える。問われた訳でもないのにこの男はあまりにも落ち着いた声でそう言い放つ。


「でも俺がしたのかな、どう思う」


殺める瞬間、夢を見ていて覚えていないだけかも知れないと、夢心地とでも言うかの様な。高坂は背後に立つ男に笑みを交えた声でそう問う。


「君は殺していない」


烏羽色の傘を持った男は耳元で目を覚まさせる様にそう言い放ち、次に笑みを交えながら囁く。


「ただ嵌められた、それだけの事」


あまりにも軽やかな声でそう言い放つものだから、高坂は不思議に思ったのだろう。

じっと皇を眺めている高坂が後ろ振り返り、驚いたのかほんの少し目を丸め笑みを漏らす。


「あぁ、そうだね」


鳶色、留紺色と光る銀色が烏羽色の傘の背に。


嫌悪を顔にありありと書いた鳶色の軍服と留紺色の軍服を着た男達が煉瓦の道を埋めている。

皆、面を被って。

烏羽色の傘を持ち毒々しい赤の面を付けた男は高坂の肩を掴み地面へ叩きつけ、そして……


「処刑台へようこそ、裏切り者」


首に手を掛ける。

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