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九話

「先輩先輩、花見に結城さんも呼びましょうよ!」


 デスクに着くなり藤井が興奮ぎみに言った。 正直何を言ってるのか分からない。 社内(……)花見だということを分かっているのか。


「社内花見とかいってもいつも将くん来てるじゃないですか! ……なぜ分かった、みたいなリアクション取らないでくださいよ。 すっごい嫌な顔してましたよ……」


 そうか顔か。 次は気をつけよう。


「それにみんなも結城さんに会いたいって言ってるし、お・も・て・な・しおもてなし……の心ですよ」


 今度のオリンピックの開催地をめぐるスピーチで、名前に『滝』が入ってる女性が言った言葉を動作付きで恥ずかしがることもなくやってのけた。

 あぁ、古い古い。 将の言葉使いも藤井のせいか? まぁ、汚い言葉を使うよりはいいが。

 それに藤井の言うことも、もっともなことだと思う。 俺が会社にいる間、結城さんには将の面倒を見てもらってるわけだし、感謝の意味も込めて招待するべきなのかもしれない。


「分かった。 誘ってみる」


 拳を振り上げて喜びを露わにしている藤井をほっとき、仕事に取り掛かった。

 昨日のあの暴走っぷりを見てしまって、少し話しかけにくくなったのは内緒だ。




 将を迎えに行く時間になったので、一足先に会社を出た。 昨日と同じく将の組だけ電気が付いていた。


「将ー、迎えにきたぞー」


 ガラガラとドアを開けて呼びかけると、将が弾けんばかりの笑顔で駆け寄ってきた。


「セイさんセイさん、ともだちできた!」

「おぉ、やったな!」


 将の頭を撫でてやると、子供らしくくすぐったそうに笑い、少し安心した。 イジメられるかもしれないと心配してたから、将に友達ができて一安心した。

 

「それより先生に任せてないで片づけてこい」


 頭をポンっと叩いて、さっきまで将がお絵かきしていた机を指差した。 将の代わりに先生がせっせと片づけをしていた。


「センセイすまない、ショウがやる! ショウがやるから、やすんでて!!」


 将がどんなに「ひとりでやる」と言っても、先生も「でも……」と食って下がって一緒に片づけをしようとする。 とうとうしびれを切らした将が、先生の手をぐいぐい引っ張って俺の隣まで引きずってくる。


「セイさんとじかんをつぶしててくれ」


 それだけ言い残して、ぴゅーっと片づけに行ってしまった。


「引っ張られちゃいました」

「すみません」


 昨日のことは気にしてないみたいで、こちらも一安心。 これなら誘いやすいかもしれない。


「それにしても、やっと将くんに幼稚園に馴染んできましたよ」


 あの子供らしからぬ言葉使いで、みんなから警戒されていたか? 無理もないような気はするが、素直に納得はしたくない。


「実は昨日、みんなで自己紹介をしたんですがちょっとうまくできなかたようで……。 そのせいか……みんなが集まって遊んでるのに加わろうとしないで、遠くから羨ましそうに見てました。 たまに友達を作るのに奥手の子もいますけど、将くんはちょっとそれとは違うんですよ」


 それから言葉を選ぶように結城さんが、チューリップ組が持っている将の印象を教えてくれた。

 趣味や言動が他のみんなと違っていることから、一部の子から『変わった子』だと思われていることや、近寄りがたいとかマイナスな印象もあったがプラスの印象もあった。

 子供にはない落ち着いた様子で頼りになりそう。

 この一つしかプラスの印象は出てこなかったが、聞いた園児全員がそう答えたそうだ。 そしてこうして聞いていくうちに将と友達になりたいけど、話しかけにくいと相談してきた子がいた。 その子は人の前だと緊張してしゃべれないせいで、友達ができなくて困っていた。

 それで結城さんはその子にちょっとしたアドバイスをして、将のところに行かせるとちゃんと友達同士になって二人で楽しそうに遊んでいたと言った。


「お節介でしたかね?」

「いえ、とんでもない……。 将を見ていてくれて、ありがとうございます」

「お礼されることなんて私してないですよ! そんな腰を九十度に曲げてお礼しないでください!」


 九十度でも足りないぐらい結城さんには感謝している。 親なのに将の心情に気づかないで、のうのうとしていた。 それが恥ずかしくて悔しく堪らなかった。


「どういうじょうきょうだ、これは?」


 俺に感謝の態度とそれに困惑している結城さんを見て将がつぶやいた。 もうとっくに片づけは終わって帰る準備も万端だった。


「何でもないぞ」

「そうか、きょうのごはんは?」

「ハンバーグだ」


 メニューを聞いた途端にうれしそうな顔になり、俺のスボンを引っ張って「はやくかえろう!」とせがむ。 しかし俺にはまだ用事が残っている。


「あの…結城さん、二週間後の土曜って時間空いてますか?」


 予定を思い出すように少し目線を上に向けてから「大丈夫だったと思います」と答え、心の中で安堵のため息を吐いた。


「その日、会社で花見をするのですが結城さんも参加してくれませんかね? みんな一度会ってみたいと言ってるようですし、なにより将の面倒を見てくれるお礼もしたいですし……どうですかね?」


 「なんで私に会いたいんですか?」とか「お礼なんていいです!」とか辞退しようとしていたのをなんとか説得して参加してくれることになった。 これで藤井も喜ぶぞ。

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