八話
今日は名札を探すことなくちゃちゃっと幼稚園に行く準備ができ、玄関でセイさんを待っていた。 ぼぉっとセイさんを待っていたら、ショウよりもずっと大きな鏡に目が留まった。
ちょっと身体を映してみたら、ボタンをかけ間違えて制服を着ているショウが映った。
——……むぅ、あさはボケてしまう。
三つしかないボタンをすべてはずかして、下からまた順にボタンをかけていった。
——こんどは、だいじょうぶ!
しっかりかけたことを自分の目で確認してさらに鏡に映して確認したが、今度は帽子が傾いていたことに気が付いてしまった。
鏡を見ながら何度も調節していると、ショウの後ろでセイさんもネクタイを調節したり身だしなみをチェックしていた。 帽子を押さえながら後ろにいるセイさんを見上げると、ニっと笑った。
「準備できたか?」
「へんな、ところないか?」
「まわってみ」
よく見てもらえるようにゆっくり一回転し、セイさんは「オッケー!」と親指を立てた。
「忘れものは?」
バッグを開いて中を確認する。 水筒に筆箱そしてタオルが入ってることを確かめると、今度はショウが親指を立てた。 オッケー!
それからショウたちは家を出て、ショウは幼稚園に降ろしてセイさんは会社に行った。
セイさんの車が見えなくなったところで、幼稚園に入ってロッカーにかぼんと帽子をしまった。
——じかんまでショウはなにをしてよう。
参考までにまわりのみんなを見てみると、誰一人として一人で遊んでいる子はいなかった。 外にいる子はもちろんのこと、室内にいる子までみんなで楽しそうに遊んでいた。
本を一緒に読んだり、描いた絵を見せ合ったりと、昨日の今日ですでに友達を持っている子ばかりだった。 これにはさすがに焦った。でも——————
——カンゲイされてない、きがする……。
昨日の自己紹介で他の子はいっぱいの拍手をもらっていたのに、ショウだけが少ない拍手だった。 前から見てたから、みんなの顔もよく覚えている。 隣の子と顔を合わせて困った顔をしていた。
変なやつが来たと思われているかもしれない。 そんなショウが仲間に加わることで、あの楽しそうな雰囲気を壊してしまうような気さえした。
結局その場でみんなの遊んでいるのを見ていることしかできなかった。
「ねぇ……きみが……ショウくん……?」
羨ましそうにみんなのことを見ていたら、おどおどしている女の子に声をかけられた。 ぎゅっと服の裾を握って、ふしみがちになりながらも勇気を出して声をかけてきたことがわかった。
「うん、ショウだよ」
声をかけてきてくれて本当にうれしかった。 けどそれを悟られるのが嫌だったから、上ずりそうな声を抑えて言った。
女の子はぎゅっと目を閉じてから意を決したように言った。
「わ、わたしと、その……お、おとも……だちに……なって、くれる?」
「……ショウで、いいの?」
こくこくと髪を上下に振り回しながら頷き、ショウをじっと見る。
「うん、友達になろ!!」
我慢の限界だった。 高揚する気持ちを抑えることができなくて弾んだような声を出し、自然と笑顔になっていた。 女の子もつられるように顔が柔らかくなり、太陽のように明るい笑顔になった。
そしてショウたちは握手をして人生で初めての友達になった。