六十七話
「みおー、そろそろ幼稚園の時間だよー! こたつから出て、早く着替えてきてー!」
「……は~い」
返事をしただけでこたつからは出なかった。
幼稚園に行きたくない。
こんな気持ちになったのは二回目になる。 一回目は幼稚園に行ってすぐ時だった。 そのときはまだダイスケくんとケンカしてるみたいなもので、話しかけづらかったからずっと一人でいた。 まわりは何気なく一緒に遊んでいるのにわたしはできなかった。
もし断られたらどうしようと考えて一歩が出なかった。
あの時は本当につまらなかった。 何をしてもおもしろいと感じなくて、遠巻きに楽しくしているみんなを見ていた。
でもセンセイがショウくんを紹介してくれたおかげで、その日から幼稚園に行くのが楽しみになった。 いろんあことをして遊んだ。
お人形遊びとか、お絵かきとかいつも一緒に遊んで毎日が楽しかった。 ダイスケくんとも仲直りしてからはもっと楽しくなった。
——これからもずっとこの3にんであそべたらいいなっておもっていたのに、かってにわたしのことわすれちゃうなんて……。
「かってだよ……」
机に顎を乗せて呟いた。 忘れたくて忘れたわけではないけど、どうしてもモヤモヤする。 自分勝手なのは判っている。 それでも、なぜか許せない気持ちになって昨日ショウくんにひどいことを言ってしまった。
——どうしよ……、もうショウくんとあそべないのかな……。
顔を机に伏せる。 幼稚園に行きたくない。
「み~お~、早く着替える!」
カニの身をきれいに引っこ抜くようにして、ママにこたつから出された。
「どうしたの? 昨日からなんか変だよ?」
「……なんでもない。 着替えてくる」
ママから逃げるようにして着替えに行った。
チューリップ組にはもうショウくんがいた。 隅っこで小さく固まって、みんなのことを見てる。
——わたしも、あんなふうだったな……。
一緒に遊びたいのにどうやって声をかけたらいいのか判らず、むこうから声をかけてもらうことを待っていた。 でも、みんなは遊ぶことに夢中になって気づかない。
——いつまでもひとりぼっち……。
その気持ちが分かっていても、ショウくんに声をかけることができなかった。
『かってにわすれるなんてひどいよ!!』
昨日言ってしまったことを思い出すと、今更なんて声をかければいいのか判らない。 「きのうあんなことをいったのに」と拒絶されたくない。
——じぶんかってだな……。
わたしはひどいことを言ったのに、他人からは言われたくない。 人から嫌われるのは嫌。 でも、わたしは嫌ってしまった。 自分で自分が嫌になる。
——わたしはどうすればいいの……。
「みお、そこにいるとはいれないんだけど」
うしろからダイスケくんが迷惑そうな顔をして立っていた。 「ごめん」と謝って、ようやくカバンをロッカーにしまった。
それからダイスケくんの背中で隠れるようにして、できるだけショウくんを見ないようにした。 見てしまえば、またいろいろ考えてしまうから。
でも見ないように、考えないようにしているのに頭のどこかでは、ショウくんのことを考えている。 どうやっても頭の中から消えない。
——なかなおりしたい。 でもなんて、いえば……。
「……ショウのことなんだけど————」
背中に隠れっぱなしのわたしに、ダイスケくんは独りごとのように言った。
「きおくはなくしちゃっても、ショウはかわらないぞ。 そりゃ、わすれられたのはちょっとモヤモヤするけど、やさしいところはまったくかわってないぞ」
「でも、いまさらなんてこえかければいいの……」
「いつもどおりでいいんだよ。 いつもどおりで」
そう言ったダイスケくんの顔は笑っていた。




