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五十四話

 翌日、練習前に最後のシーンの変更について発表された。 昨日の話し合いに参加できなかった子もいるからし、センセイにも言ってない。

 特に反対の声は上がらなかったけど、「みないとわからない」という意見がでた。

 ということで、最後のシーンだけやてみることにした。

 変わった台本をチェックしてから劇は始まる。 

 毒りんごを食べて死んでしまった白雪姫の周りには、おいおい泣く小人たち。 亡くなっても崩れることのない美しさのため、小人は棺ではなくベットの上に寝かして片時も離れなかった。

 その時、小人たちの泣き声を聞いた王子様が白雪姫たちの前に現れた。

 白雪姫の亡き姿を見て、小人に問いかけた。 小人は泣きながら事の次第を離した。 一目見た時から気になってた人をやっとの思いで見つけたのに、その人は亡くなっていた。

 王子様はもう一度白雪姫の顔をよく見て、腰に差してある剣を抜いた。 そして剣を天に突き刺して、声高らかに宣言した。


「このセイなるつるぎで、ヒメののろいをうちはらわん!」


 王子様は白雪姫の頭上を横なぎにすると、白雪姫は目を覚ましてハッピーエンドを迎えるものになった。

 劇が終わると拍手喝さいだった。 確かにただ聞いてるより、実際に見た方が想像しているよりもずっと良く見えた。 これで劇も完成した。 あとは悔いの残らないように一生懸命に練習するだけ。

 


 

 秋もいよいよ深まってきた頃、とうとう発表会を迎えた。 多くの親御さんたちが自分の子供の成長ぶりを一目見ようと、ぞくぞくと集まってきた。

 みんなが緊張とワクワクが混ざったような顔をしながら、劇で使うセットを体育館に運んでいる。

 初めて親の前でやるのだから、無理はないだろう。

 ——ショウもセイさんがいれば、そうなったのかもしれない。

 セイさんは急な仕事が入ってこれなくなった。 ユウキセンセイにビデオをお願いするも、センセイもセンセイでやることがあるから断られてしまった。


『悪いな……、せっかくの晴れ舞台なのに観てやれることができない……』

『ショウはきにしてないから、シゴトいってきてらどうだ?』

『……わかった、行ってくるよ。 将も頑張れよ』


 セイさんは悲しそうな顔をして会社に行った。

 そりゃ、ショウだって残念な気持ちはあるけど、しょうがないんだ。 セイさんはショウのせいで会社に無理を聞いてもらってる。 会社側から「来い」と言われれば、どんな事情があっても行かなくてはならない。 それこそ息子の発表会があっても。

 ——だからしょうがない。 しょうがないんだ……。

 

「どうしたの? くらいかおして……?」


 セットを運んでいる途中、みおちゃんに声をかけられた。 今さっき来たようで、かばんを背負っている。


「いや、ちゃっと……トイレがまんしてたんだ」


 みんなに心配をかけちゃいけないと思って、とっさに嘘をついてしまった。 それが『トイレ』だなんて無理がある。 だけどみおちゃんは疑問には思わずに、あっさりとその嘘を信じた。 


「そうなの? がまんはよくないよ。 わたしがかわるから、いってきたら?」

「うん、そうする。 ありがとう」


 みおちゃんにバトンタッチしてトイレに入った。

 ——ダメだ、しっかりしないと。 ほかのみんなは、おとうさんたちがきてるんだ。 ショウのせいで、へんなフンイキにしちゃダメだ。

 鏡を見て、笑ってみた。 自分から見ても無理に笑ってるようにしか見えなかった。 逆に笑えてきた。

 ——そうだ、きりかえていこう。 あとでセイさんにいっぱいじまんしてやろ。

 ほっぺをパンっと叩いて、トイレから出た。

 ——ほっぺがいたい。

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