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五十二話

 発表会まであと数週間ほどに迫った今日、体育館のステージを使っての練習がはじまった。 ダンボールで作った小道具をセットするために体育館に向かっている間、役を持っているショウたちは教室に残った。

 みんなが帰ったあと、楽しそうに作っていた衣装がとうとう完成したのだ。 ショウは見てるしかできなかったけど、楽しかった。 本当に作れると分かって良かったと思っている。

 センセイは簡易式の更衣室を作って、一人ひとり呼んで着替えさせた。 更衣室から出てくるたびに歓声が上がった。 衣装を着るだけで大分印象が変わってくる。 本当に絵本の世界から出てきたみたいだった。


「次、将くん来てー」


 カーテンから頭だけ出して呼ばれた。 中に入ると、センセイが緑の服を持って待っていた。 作ってる時も思ったのだが、あの勇者の服そのものな気がしてならない。 盾と剣、ついでにオカリナも持たせれば言い逃れはできない。 それを狩人と言ってもいいのだろうか。

 多少なりとも疑問は残っているのにも関わらず、着てみるとそんなのはどうでもよくなってくる。 楽しいのだ、着てみると。


「よく似合ってるよ。 やっぱり狩人と言えばその服だよねぇ」

「いや、ゆうしゃのまちがえじゃ……」

「大丈夫、大丈夫。 弓だって使うし、彼も立派な狩人だよ!」


 確信犯であった。 そもそも『弓』規準で狩人と決めつけるのはどうかと思う。




 みんなの着替えが終わって、体育館に行くとまた歓声が上がった。 しばらくワイワイとはしゃいでいると、センセイが手を叩いた。 その音にみんなが口閉ざして、センセイの方を見る。

 一気に静かになって、困惑しているセンセイの姿は笑いそうになる。


「そんなに、静かにされると先生も困るなぁ……。 えぇっと、そろそろ練習を始めるので準備に取り掛かってくださーい!」


 センセイの掛け声でみんなが動き出した。 セットの調整を指示する子や、小道具のチェックをする子などそれぞれがちゃんと自分の仕事をやっている。

 本番が近付いてきたから、みんながやる気を出している。 成功させようとする意識が伝わってくる。

 ——ショウもがんばらないといけない!

 小道具の子から道具をもらってショウたちも所定の位置に着いた。 あとはみんなの確認が終わるのを待つだけ。

 みんなの様子を見て、劇のリーダが先生に「OK」サインを送った。


「お疲れ様。 それじゃあ、最後まで通してみよっか」


 リハーサルでは劇をまわすもに必要な人だけ残して、他は観客として劇を見ることになっている。 それぞれが気になったことを言い合い、より良い劇を完璧なものにする目的の他に観客の目に慣れるという目的もある。

 慣れてないせいか恥ずかしさのあまりに動作や声が小さくなってしまうこともあって、なかなかに重要なことだったりする。

 みんなが座ったところを見越して、センセイが舞台のカーテンを閉じた。 そしてマイクを劇のリーダーに渡した。

 発表する前になにをやるのかを園児自身がアナウンスする。 みんなが嫌がるなか、自主的に手を挙げたこの子は勇気がある子だとショウは思う。 だったら、役になれば良かったのにとも思う。


「つぎはチューリップぐみのはっぴょうです。 ボクたちは『しらゆきひめ』をやります。 いっぱいれんしゅうをしました。 たのしんでください!」


 拍手が鳴り、カーテンが上がった。 そこには、薄暗く気味の悪い空間の中に邪悪な王妃様が鏡に向かってうっとりしている様子だった。 センセイのナレーションが状況を説明して、劇が始まった。


「かがみよ、かがみよ、かがみさん? せかいで、いちばんうつくしいのはだぁれぇ?」

「それは、おうひさまです」 


 邪悪な王妃様は声高らかに笑い、舞台は暗転した。 またセンセイのナレーションが入った。

 再び、舞台は明るくなり同じように王女は鏡に問いかけた。 鏡は「王女」とは答えず、「白雪姫です」と答えた。 その答えに納得のいかない王女は狩人であるショウを呼び出した。

 舞台の袖から腰を低くしてショウは舞台に出た。 そして王女さまの前で片膝を着いた。


「およびでしょうか……?」

「ええ、いますぐしらゆきひめをここにつれてきなさい!」

「なにゆえにですか……?」

「ごちゃごちゃうるさい! いいからつれてきなさい! さもないと、ひどいめにあわせるよ!」

「か、かしこまりました」


 ショウは頭を抱え、逃げるように舞台袖に消えた。

 ここで場面を変えるため、舞台が暗転する。 セット係の子がセットを裏返すと、雰囲気が一転して花畑の場面になった。

 セットの裏に次の場面の絵があるのだ。 これによって、はやく場面を変えることができるとセンセイが教えてくれた。

 みおちゃんが舞台に出たところで、また明かりがついた。

 楽しそうにお花を摘んでるみおちゃんの後ろからこっそり近寄る。 そして薬品を染み込ませたハンカチを口に当てて眠らせた。

 

「あ、あとはつれてかえるだけだ……。 だが、いいのだろうか。 おうじょさまのてにかかれば、ぶじではすまぬ」


 ショウはみおちゃんをその場に置いて、逃げ出した。

 これでショウの出番は終わった。 あとはセットの手伝いをやるだけになった。

 



 劇も終盤にさしかかり、とうとう白雪姫を起こすシーンになった。 絵本では、キスして目が覚めるのだが、それを劇でやるのはダメとセンセイからストップがかかった。 だからここはオリジナルになっている。

 王子様の役のダイスケくんは眠っているみおちゃんのそばによって顔を見た。 それから愛おしそうに顔を撫でると、みおちゃんは目を覚ました。

 劇が終わり、それぞれが感想を言い合った。 動きや声量に文句はなかったが、最後の白雪姫を起こすシーンが盛り上がりに欠けるとの意見が出た。

 それには大多数の子が賛同した。 実際に演じたダイスケくんやみおちゃんまでも。

 派手ではないけど王子様の優しさが出て良いんじゃないか、とショウは思う。

 こえにだしていえるフンイキじゃないから、だまっていよ……。

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