五十一話
九月某日、俺と将は墓参りに出かけた。 九月は将の生まれた月であると同時に妻の命日である。
狭い山道を登ったところに中村家の墓がある。
将に花とビニール袋を持たせて、俺は水を汲んだ。
墓は雑草や枯葉で散らかり、コップまで割れていた。 風に倒されて割れてしまったのだろう。 今度は割れないコップにしないと。
将に雑草と枯葉の処理を頼んで、俺はコップの破片を一枚一枚拾い上げ、将が誤って怪我をしないようにティッシュで包んでおいた。
しおしおに枯れた花を買ってきた綺麗な花に取り換えて、墓に水をかけた。
しばらく掃除をして、おおかた綺麗になった。
終いに線香に火をつけて手を合わせる。
舞、来たぞ。 今年から将が幼稚園に入っていろいろ大変だけど、ようやく慣れてきたところだ。
将も楽しく幼稚園に行ってる。 友達もちゃんといるんだぞ。 正直なところ俺、将に友達ができるか心配してたんだ。 だってあんな言葉使うんだぞ。 距離を置かれてもおかしくない。 でも、俺の知らないところでちゃんと学んで成長してる。 将はすごいやつだよ。 将を成長をまじかで見せられなくて残念でならないけど、天国から見守っててくれ。 それじゃあ......、また来るよ。
長々と手を合わせて、これまでの報告をした。 将はじっと墓を見つめていた。
写真でしか自分のお母さんの姿を知らない、とはどんな気持ちなのだろうか。
不安でたまらないのか、お母さんに会いたくてしょうがないのか、はたまた……。
俺には分からない。 将の親であっても分からない。
当然のようにお父さんもお母さんもいた俺には想像もつかない。 同じ境遇に立たなければ、将の本当の気持ちを汲み取ってやれない。 それが悔しくも、なさけなくもある。
俺には何もしてやれることがない。 将ぐらいの年の子じゃ、お母さんに甘えたい気持ちはあって当然だ。
俺だって会わせてあげられるなら、会わせてやりたい。 でも叶わないんだ。 どんなに強く願っても……。
「帰るぞ、将」
「……ん」
短く返事をして、将は未練がましく墓から目を離した。
俺が不安になってちゃダメだ。 舞の分までしっかりしないと。
「昼なに食べたい?」
「手打ちそば」
「『手打ち』じゃないとダメか?」
「だめだ」
変なこだわりまで持っているのか……。




