五十話
発表会に向けて一日中劇の練習をした。 話も知ってるし、台本も読んできたけど動きが入るとセリフを忘れてしまって思ってた以上に大変だった。
時間いっぱいまで練習したけど、一回もスムーズに進むことなく練習は終わり、みんなは迎えに来たお母さんと一緒に帰っていった。
いつも通り一人になった。
センセイも最後の園児の見送りに行ったきり帰ってこない。 親御さんと話しこんでいるのだろう。 お母さんはなにかと話すのが好きらしい。 センセイも捕まってしまったのだろう。
それはそうと、一人でなにをしていようか。 もう幼稚園に入って半年は経とうとしている。 さすがに毎日のように一人遊びをしていちゃ、飽きというものがくる。
お絵かきもそこまで絵が上手じゃないからつまんないし、絵本もすべて読み終わっちゃったし、レゴでなにか作りたい気分でもない。
ゴロンと横になってゴロゴロ回る。 酔った。 気持ち悪い……。
「お待たせ! 将くん、先生と百貨店行こう! 大丈夫、お父さんと園長先生には許可貰ってるから!」
仰向けになって気持ち悪いのがどっか行くのを待ってるショウに、センセイ楽しそうに言った。
センセイの車に乗せてもらい、近くの百貨店へ生地を買いに来た。 昨日のうちにデザイン画を仕上げてしまったらしく、センセイとしても早めに制作に取り掛かりたいとのことだった。
生地売り場では、折りたたまれたり巻かれた生地がところせましに置かれていた。 初めて見る店内に圧倒されながらも、センセイの後に続いた。
「付き合ってもらってごめんね。 十人分も作らないといけないから、少しでも早く手をつけたくてね」
「それはいいんだが、ほんとうにつくれのか?」
「大丈夫だよ、時間には間に合わせるから!」
「いや、そうじゃなくて……ほんとうにいちからつくれるのか?」
想像できないんだ、服ができることが。 ショウの頭の中では、工場で機械がせっせと作ってるぐらいしか想像できなくて、人間が作っているところなんてどうやっても想像できない。
「簡単とはいえないけど、作れるには作れるよ。 それなりに時間もかかるし、経験もいるけどね」
「でも、おかねかからないか?」
「安い生地使えば、お店で売ってる服よりうぅっんと安くできるよ」
それはすごいな。 セイさんもそうだけどショウもそこまで服にこだわりを持ってないから、安く手に入るならうれしいに越したことはない。 安くても二千、三千円ぐらいする服にこだわっていれば服代だけでバカにならないからな。
——たださいほうはダメなんだろうなぁ......セイさんは。
「それでショウはなにをすればいいんだ?」
「ショウくんには測りの代わりになってもらいたくてね。 身体に合わせて買った方が余分に買わなくてもいいからね」
センセイは緑色の生地を適当な長さまで取ってから、ショウの身体に合わせた。 ショウを包めてしまいそうなほどの生地を手に持って、昨日のデザイン画を思い出すように少しだけを上を向いた。
「ちょっと手広げてもらっていい?」
横に手を広げると、「ちょっとごめんねぇ」と断りをいれてから、生地でショウの身体を包んだ。 手を広げてしまったことで片手だけ包めなかったけれども、これはこれで良いとこの長さで買うことにした。
その後も同じようにして残りの生地も買っていった。
幼稚園に戻ったころには、セイさんが正門前で待っていた。 感覚としてはちょっとのはずが本当はけっこうな時間が経っていたようだ。
「お待たせしてしまってすみません! 予定ではもう少し早めに……」
「あぁ……いえ、俺もいま来たとこなんで大丈夫ですよ。 将は役に立ちました?」
「えぇ、はい! おかげで無駄なく買えました!」
「それはよかったです。 それじゃあ帰るぞ、将……って何持ってるんだ?」
「タイヤキだ。 まだあったかい……」
百貨店の前で売っていたものをセンセイが、今日付き合ってくれたお礼として買ってくれた。
「いいんですか、貰ってしまっても……」
「はい、中村さんの分もありますのでよかったら食べてください」
「ありがとうございます。 将、お礼言ったか?」
「バカにしないでいただきたい!」
——ちゃんとおれいは、いった! そこまで、れいぎしらずではない!
疑ってるような顔をしているセイさんにムカっ腹が立つ。
「ふふっ、ちゃんと『ありがとう』って言ってくれましたよ」
「それみたことか!」
「はいはい、すいませんでした。 じゃあそろそろ帰るか」
センセイにお見送りをしてもらいながらショウたちは家に帰った。




