四十九話
秋になるとこの幼稚園は発表会をやることになっている。 各組、各学年がそれぞれ研究したものや劇をしたりする。 もちろん親御さんの前での発表となるから、先生も園児の気合が入っている。
その発表会で将たちの組は「白雪姫」をやることになった。 センセイの読み聞かせの時間でも一番の人気があることもあるが、ぶっちゃけると役が多くて出演できる子が多いという理由もあった。
しかし、舞台に立つのが恥ずかしい子やセリフを覚える自信がない子、親の前で失敗したくないという子もいるようで、まずは裏方から決めることになった。
「それじゃあ、裏方さんをしたい子はこっちに来てくださーい!」
センセイが手をあげて呼びかけて、園児たちを集めた。 大半の園児たちがセンセイのところに集まってくるから、センセイも困ったような顔をしている。 残っているのはショウとダイスケくん、それからいつぞやか話しかけてきた変に言葉を伸ばす三人娘、ダイスケ君の友達が四人、そして意外にもみおちゃんがいる。
みおちゃんは恥ずかし屋がりで、人見知りもするタイプで人の前に立って何かをする子ではない。
これまでずっと一緒に遊んできたから分かる。 だから今ここにいるのも、無理をしているんじゃないかなって思ってしまう。
「あっちいかなくていいの?」
「う、うん。 いいの」
「ほんとうに? ムリしてない?」
「ちょっとムリしてるけど……、しらゆきひめのふくきてみたい……」
服を着てみたいだけでも人前に立つ勇気を出したのだからすごい。 ショウなんて記念になるんじゃないかな程度にしか思ってなかったからなぁ。 自分が少し恥ずかしい。
「ええっと、役になりたいのが……十人か……」
センセイは配役表を見ながら、小さく唸った。
人数が足りないのだ。 白雪姫、王子様、邪悪な王女がそれぞれ一人ずつ、小人が七人、そして忘れがちだが魔法の鏡、白雪姫のお母さん、白雪姫を殺すように命じられた狩人がそれぞれ一人の計十三人が必要になる。
センセイは裏方の子たちに役にならないか聞きにいったけど、みんな声をそろえて「いやだ」と答えた。
そのため七人の小人は、四人の小人になってしまった。
「ちょっとトラブルもあったけど、これから役を決めます! 決め方はくじにしようかなぁって思うけど、いいかな?」
「だんじょ、べつだよね?」とショウ。
「あぁ、そうか! 別々にしないといけないのか!」と今更ながら気が付いたセンセイ。
——きいといてよかった。
ショウが白雪姫になったら恥ずかしいし、セイさんも恥ずかしい思いをしそうだ。
——そういえば、セイさんはこれるんだっけ? やすみのひにやるからこれそうだけど……。
「はいはい、お待たせ! それじゃあ男の子はこっちの箱から、女の子はこっちの箱から引いてね」
初めから用意してあったダンボールの箱からはショウたち男子が引き、急遽作った紙の箱からはみおちゃんたち女子が引き、それぞれが担当する役が決まった。
王子様がダイスケくん、四人の小人が友達四人、狩人はショウがやることになった。 対して女子は白雪姫がみおちゃん、お母さん、王女、魔法の鏡はあの三人になった。
みおちゃんは飛んだりして喜ばなかったけど、ひっそりと口元を緩めてうれしそうにしていた。
さっそく台本を受け取り読み合わせをした。 ところどころ省略されて短いものになっているけど、物語の筋は通っている。 今日は読むだけで終わり残りの時間は舞台のセット作りや、ショウたち役者の衣装の寸法測りに費やされた。
裏方たちにある程度の説明をしたあと、センセイはエプロンからメジャーを取り出して一人ひとりの寸法を取っていった。 なんでも衣装を自作するということで、頭やお腹まわり、身長など細かいサイズを知りたいらしい。
センセイがショウたちの舞台に熱意を持って参加してくれることは素直にうれしい。 だけど、本当に一人でできるのかが心配でならない。
「はい、次は将くん! バンザイして」
「ほんとうにひとりでやるのか?」
「ん? 将くんは心配性だなぁ。 大丈夫だよ、これでも裁縫は得意だからチャチャっと終わらせちゃう!」
「……ちゃんとねないとダメだぞ。 セイさんも、ねることはたいせつっていってたから!」
「ありがと。 ちゃんと睡眠は取るから大丈夫だよ」
センセイはそう言って、将の頭を撫でた。
「はい、そろそろバンザイして」
バンザイした。




