四十八話
夏休み明けの夕方、仕事も切り上げて将を迎えに行った。 今日の幼稚園は夏休み明けということもあって昼前に終わってしまう。 しかしせっかく早く終わっても、俺はいつも通り夕方まで仕事があるから将は幼稚園で残っていないといけない。
みおちゃんや大輔くんと遊びたがってたけど、昼も食べずに遊びにいくのは、向こうに迷惑ということを何度も言い聞かせて渋々納得してくれた。 後になって、弁当を持たせればよかったと思ったけど、それは俺が面倒くさいので口にはしなかった。
幼稚園前に車を止めて、将のいる教室に行く。 ガラガラと戸を開けて将を呼びかけると、結城さんが口に人差し指を当てて「シー」と言った。 口を噤んで、結城さんの膝の上で寝ている将を見た。
音を当てないように戸を閉めて、起こさないように将を抱きかかえた。
「将が迷惑をかけたみたいで、すみません」
「そんなことはないです。 子供好きですし、こういうの前からやってみたかったんですよ」
結城さんは立ち上がろうとしたら「あぐぅ」と変な声を漏らして、前につんのめった。 しきりに足をさすっては立ち上がろうとするが、なかなか立てない。
足が痺れたんだろうな。 でも、こういうのを「萌え」と言うんだろうな。 見てて癒される。
「ちょ、中村さん、手貸してください!」
痺れが取れるまで待ってればいいのに、と思いながらも手を差し出して立たせてあげた。 顔を引き締めて痛みに耐えながらも、将のかばんを取りに歩き出した。 ヒョコヒョコと聞こえてきそうな歩き方で、見てるこっちが不安になってくるけど、これもこれで癒される。
なんだろうな……、猫が立って歩いてるのに近いものを感じる。
やっとのことで、かばんを取って来た結城さんにねぎらいの言葉をかけると、「……なんのことですか?」ととぼけた。
「それより、ゲームありがとうございます」
「ネットで評判の良いものを選んだつもりでしたけど、大丈夫でした?」
「ええ、もう満足です! 沖田さんがかっこいいです! 結婚したいぐらいですよ!」
ネット通販のレビューとか知恵袋とかを見て、時代物を選んだ。 時代物は初めてプレイする人にもオススメされる作品が多くみられたし、レビューの中にも『制服姿より着物姿の方がいい』と高評価だった。 結城さんはこういったゲームをしたことなさそうだったし、評価も良かったことでこれを選んでみた。 結城さんも満足してもらって良かったけど、二次元に恋しちゃダメですね。
居酒屋の帰り道で言い忘れてたことになってしまった。 メールで忠告しとけばよかったなぁ……。
「確認ですけど、お見合いはするんですよね?」
「しますけど、OKはしないですよ。 沖田さんがいますから!」
「あっそうですか……」
これは手遅れだ。 顔も知らないお見合いする人、すいません。 俺のせいでお見合いは形だけになりそうです。




