四十七話
家に帰って来た時には、もう日をまたいでいた。 汗をかいたまま寝るもの気持ちが悪いから、もう一度シャワーを浴びることにした。 その前に将の様子を見ておこうと、寝室を覗いた。
寝室には将の姿は見当たらず、代わりの俺の布団が盛り上がっていた。
「将、どうした? 息苦しくないか?」
少しだけ布団がめくれて将と目が合うと、湿った声で俺に抱き付いて来た。
泣き声こそあげなかったが、一人で怖かったのだろう。 鼻をスンスンと鳴らし、逃がさないように服を掴んでくる。
悪いことしたなぁ......。
俺の身体に顔をうずめている将の頭を優しく撫でてやりながら、何度も謝った。 将を抱っこして、どこに行ってたかを話した。
「もう遅いから寝なさい。 そばにいてやるから」
「うん……」
夜も遅く泣きつかれたこともあって、将はすぐに穏やかな寝息を立てて眠りについた。
目の端から流れる一粒の涙を拭った。
将のあんな声を聞くと頭の中が真っ白になって、どうすればいいのかわからなくなる。
本当に親として情けない。
将は赤ん坊のころからあまり泣かなかった。 社内での子育てを許してもらえるほどに。
そんな将が涙を流した。 流させてしまった。
変な言葉を使ったって、泣かなくたって、将はまだまだ小さな子供。 一人でいることに不安を感じてしまう。
ごく当たり前のこと。 世の中の常識と言ってもいい。
それなのに、心のどこかで大丈夫だろうと思っていた。 普段の元気な姿を見てるだけで、将のすべてを知ったつもりになっていた。
こんなんじゃ、父親失格だ。
もう一度、気を引き締めなければならない。
あのとき、はじめて将を抱いたときに思ったことを。
あのとき、妻の舞に誓ったことを。
もう一度、改めて誓う。
将の小指と自分の小指を絡めた。
「もう、おまえを泣かせるようなことはしない。 もし泣かせたら、針千本でも何でも飲んでやる」
舞、もう一度この子の父親でいるチャンスをくれ。 今度はちゃんとやるから。




