四十六話
料理が来るたびに結城さんはビールを追加していった。
ものすごいペースで飲んでいったこともあって、顔は赤くなって目も半分閉じかけて眠そうだ。
ただ口元だけは元気なようで、普段の結城さんからは考えられないような汚い言葉を使っている。 詳細は結城さんの名誉にかかわるので割愛する。
こんな調子で相談なんてできるのだろうか。 もう俺から話をふった方がいいような気がしてきた。 寝ているとはいえ、将を一人にしているからな。
「どうですか、そろそろ相談の方を……」
結城さんは、唸りながら考えるような素振りをし「それじゃあ」と話し始めた。
「昨日、親から電話がかかってきてですね。 『いつまで経っても、いい知らせがないからお見合い組んだよ』って言われました……」
「あぁ……、ちなみに好きな人とかは……?」
「幼稚園の先生にそんな出会いあると思います……?」
視線をそらすことで返事とした。
幼稚園の先生のみならず、学校の先生は恋愛の出会いに縁が少なすぎる。 俺の高校生時代の担任が、四十を越えるのに独身だったのが良い例だ。
……そういえば、前に藤井と結城さん一緒に食事したよな? アレはどうなった?
「藤井とはどうなったんです? 前に一緒に食事したじゃないですか」
「あぁ……藤井さんねぇ……」
小さくため息をついて、ビールをあおった。
あれ? 花見のときはけっこう良い感じだったのに……。
「良い人ではあるんですけど、なんというか……結婚したいオーラが強すぎて正直引きます」
……そうですか。
酔っているせいか、思っていることを残酷なほど正直に言う。 この場に藤井がいなくてよかった。
というか、そんなオーラ出すなよ。 まずは親密度を上げるところから始めろ!
「一応確認しますけど、結婚はしたいんですよね?」
「そりゃ……結婚はしたいですけど……、その……男の人が怖くてでしてね」
「はぁ……」
「呆れないで下さいよ!! 私、中学からずっと女子校だったんですよ! 男子に対しての免疫なんてないですよ!!」
じゃあ、どうしろと言うのだ。 男性は怖いけど結婚はしたいって、無理難題すぎてどう言えばいいのか分からん。
とは言え、結城さんも本気で悩んでるようだしテキトーに答えるわけにもいかない。
どうしたもんか……。
ビールをチビチビ飲みながら、ふと思った。
……俺も男だよな。 結城さん、俺と話すときは別に怖がる素振り見せないし、そもそも怖いと思ってたらお見合いのこと俺に相談しないよな。 だって密室で二人っきりだぞ。
怖くてこれをやるのは相当なマゾぐらいだ。 そして結城さんはノーマル。 ……だと信じる。
「俺といるときは普通ですよね?」
「えぇ、だって毎日のように顔を合わせてるから慣れました」
結城さんは照れを隠すようにビールを飲んだ。
慣れてしまえば男性恐怖症も治るなら、慣らしてしまえばいい。
やってみる価値はありそうだけど、どうやって慣らすかだ。
すぐに思いついたのはホストクラブ。
だけど、金もかかりそうだし何より結城さん一人じゃあ無理だろう。 入口前までは行けても、すぐに引き返す姿が容易に想像できる。
他にも執事喫茶ってものがあるのを聞いたことあるけど、これも同じく無理だな。
そうなると、二次元に頼るのが一番。 傷つかずに恋愛できるし、男ばっか出るゲームもあるしちょうど良さそう。
「結城さんってゲーム……やります?」
「昔はやってましたけど、今はやってないですね。 ゲーム機も高いですし、カセットもなかなかな値段しますしねぇ」
「どうですか? これを機にやってみませんか? たぶんですけど、男性恐怖症を治せますよ!」
「本当ですか!!」
机から身を乗り出して来た結城さんに俺の考えを伝えると、どこか納得したようにうんうんと頷いた。
カセットとゲーム機は後日、俺がネットで良さそうなものを探してそれを結城さんが買うということで、今日はお開きになった。
完全に酔ってしまった結城さんのためにタクシーを呼び、見送ってから俺も家に戻った。
酔って火照った体に夜風があたり、気持ちいい。
鼻歌交じりに夜道を歩いていると、結城さんに言い忘れたことを思い出した。 立ち止まって考えてみたけど、すぐに「結城さんなら大丈夫か」と根拠のない納得をして、また鼻歌交じりに歩き出した。




