四十五話
お盆を迎えたある日の晩、結城さんから一通のメールがきた。 なんでも、どうしても相談したいことがあるとのことだった。
将はもう寝ているので、書き置きだけして静かに家を出た。
メールには場所も指定されていただけでなく、『歩き』で来るようとも書かれていた。 場所からしてなぜ歩きで来い、ということが書かれていたのかは察しがつく。
ただ歩いていくとなると、少し遠い。 そこのあたりは結城さんも留意すると思いながらも、小走りで指定された場所に向かった。
しかし、なぜアソコなんだろう? いったいどんな相談をされるんだろう……。
夜になって、涼しくなったとはいえ動くと熱い。
じっとりとした汗をかきながら、指定された場所——居酒屋——に着くと結城さんが店前で待っていた。
白いロングスカートに白のワイシャツを着て、涼しそうな格好をしている。
「すいません。 これでも急いで来たのですが、待ちましたか?」
「いえいえ、私もついさっき来たところですよ。 それに気持ちの整理もしたかったですし……」
「そうですか。 それじゃあ、入りましょうか」
ドアを開いてやると、ぺこりと頭を下げて店内に入り俺も後に続いた。
店内はすでに満席で席が空くのを待つ人さえいた。 しかし事前に予約していたとのことで特に待つことなく、座敷の個室に案内された。
とりあえずビールを二本と軽くつまめるものを注文した。
「それで相談というのは?」
店員が出ていくのを見計らい本題に入ろうとしたが、結城さんは困ったように苦笑いをした。
「あぁっと、もう少し待ってもらってもいいですか? 酔ってないと無理です……」
酔わないと無理、てことは言うのが恥ずかしいということでいいのか?
居酒屋で何を相談されるかと思ってたけど、そう難しいものじゃなさそうだ。
肩身が軽くなったついでに、お手拭きで顔と首筋をぬぐって一息もらした。 お手拭きをくるくる丸めて隅に置いて水に手を伸ばすと、結城さんが呆然と俺の方を見ていた。
普段からは思いもしない行動を見せられた時の顔をしてる。
……俺、何かしたか?
さっきまでの俺を思い返すと、すぐにわかった。
「あぁ……親父臭かったですね。 さっきの」
「あっ! いえ、その! おつ……かれさまです! はい……」
ワタワタと慌てて手を動かしながら言い繕ってるようだけど、結城さんにとっては衝撃的なことだったらしい。
そんなに変か? お手拭きで顔と拭くの。
「しつれーしまーす! 生二つと枝豆でーす!!」




