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四十四話

 一時間もしないうちに、園児たちが体育館から出てきた。 それぞれが親御さんの許へかけていく。 そのなかに混じって、いつもの元気な将が出てきた。

 みおちゃんとそれから……誰だ? スポーツ刈りで、いかにも運動が出来そうな雰囲気のある子だ。

 大輔だいすけくん......かな?

 将から新しい友達ができた、と聞いてたけどあれがそうか。 男の子らしくていい子そうじゃないか。

 三人で楽しそうに話していると、将が俺に気づいた。 手を挙げると、二人に断りをいれてこっちにかけてきた。


「えらく元気だけど、どうした?」

「みおちゃんと、ダイスケくんとはなしてたら、げんきでてきた!」

「本番も大丈夫そうか?」

「これもあるし、だいじょうぶだ!」


 右腕に巻かれたハンカチを叩いて、ニッコリ笑った。

 もう心配することはないようだ。


「じゃあ、今のうちにやっとけ。 もうすぐ本番なんだろ?」

「そうだな。 じゃあ、やるか!」


 ハンカチを手で押さえて目を閉じた。 三回頷いた後、ゆっくりと目を開けた。

 そして親指を立てて「よゆうのヨッチャン」と笑顔で言った。




 先生方が園児たちを組ごとに列を作って外に出た。 俺たち親も最後尾に並んでついていく。

 外にはすでに舞台が出来上がっていた。

 やぐらの上に和太鼓を一つとやぐらを挟むように二つの和太鼓が置かれ、祭りに来たほとんどの人が園児の太鼓の音頭を見ようと集まっていた。

 俺以外の奥さん方は旦那さんにいい場所を取ってもらっていたようで、子供にエールを送ってぞろぞろと移動し始めた。

 妻が生きていたら俺も場所取り要因として、出動してたかもしれない。

 ……それはそれで、お父さん同士で仲良くできそう。

 まぁ、今更いい場所もあるわけないから、始まるまで将のそばにいてやることにした。


「みなさん、準備はいいですか?」


 結城さんが園児たちの方に振り返って聞くと、「ハーイ!」と元気良く答えた。 結城さんは満足そうに微笑んで続けた。


「今日はみなさんのカッコイイ姿を、お父さんとお母さんに見せられるように頑張りましょう! これまでいっぱい練習してきたので、大丈夫です!」


 また「ハーイ!」と元気に答えた後、他の先生が列を二つに分け、片方を連れて行った。

 そろそろ始まるようだ。 俺も、いつまでもここにいるわけにはいかないか。

 将に「頑張れよ」と声をかけてから、少し高いところに移動して腰を下ろした。

 人が少ないのはいいけど、ちょっと遠くてどれが将か分からん。 みんながみんな同じ格好をしているから、探すだけでも一苦労する。

 目を凝らして探していると、やぐらに気怠そうに登っている男の先生が見えた。 けれど、バチを構えるとさっきまでとは打って変わってしっかりしたように見える。

 「ヨォーオ!」と掛け声をかけた後に二回太鼓を叩くと、先生が園児を引き連れて太鼓のそばまで移動を始めた。 

 おおっと、まだ将見つけてない! もう少し待ってくれないか!

 慌てながらも園児の腕を凝視して、何とかハンカチを巻いてる園児を見つけた。

 いたいた! 将だ!

 先導していた先生が一番最初に太鼓を打つ園児にバチを渡して、太鼓の横に片膝を着いて座った。 男の先生がそれを確認してから、もう一度おおきく太鼓を打った。 それを合図に最初の園児はバチを構え、後に控えてる園児たちはみんな片膝を着いて座った。

 今度は先生たちが声をそろえて「ヨォーオ!」と掛け声をかけると、後に続いて園児たちも同じ掛け声をかけ太鼓を二回叩いた。

 また先生たちがそろえて掛け声をかけ、後に園児たちも掛け声をかけ、二回叩いた。

 これを三回繰り返して交代した。 さっき叩いた園児は列の最後尾に並び片膝を着いて座った。

 何度か繰り返していくうちに、将の番が回ってきた。

 おっ! きたな。

 スマホを掲げ動画を撮ろうとするが、ズームすると画質が残念なことになって泣く泣く諦めた。

 遠目からでも分かるほど、将の構えは様になっていた。 ドン、ドンと心躍る音を精一杯に響かせては、腹から声を出している。

 ほどなくして全員が叩き終わり、解散となった。

 ちょこっと太鼓の片付けを手伝って、将と出店をまわった。 途中からみおちゃんやダイスケくんを預かって一緒にまわりもした。

 ヨーヨー釣りをしたり、スーパーボール(すく)い、ストラックアウトなどで遊び、焼きそばやかき氷を食べた。

 楽しい時間はすぐに過ぎてしまう。 みおちゃんと大輔くんのお母さんが二人を迎えにきた。 イヤイヤと渋る二人を引っ張るようにして帰っていった。

 見送ってから俺たちも帰ることにした。


「今日は楽しかったか?」

「たのしかったぞ! いままでで、いちばんたのしかった!」


 そうか、それはよかった。 いい思い出ができたな。

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