四十二話
夏休みに入っても、週二で和太鼓の練習が行われた。
そして八月某日、祭当日。
幼稚園で配られた法被を着せ、将と夏祭りに来た。 普段は駐車場として使われている場所に無理矢理詰め込んだように出店を並べ、中央には小さなやぐらが建っている。
地元の祭ということもあって、人はまばらで少し寂しい。 それでも、子供たちは大いに楽しんでいるようだ 。
法被を着ている子を除いては。
ここに来る途中にも何人かとすれ違ったが、みんな不安と緊張でこわばった顔をしていた。
将も同じような顔をして俺の手をぎゅっと握っている。
「大丈夫か?」
「も、もちのロンで、だいじょうぶだ」
ピクリと身体を震わせてガチガチに緊張してるのが分かる。 これじゃあ、本番でヘマやらかしそうで親としてほっとけない。
手をつないでない方の手で将の頭を豪快に撫でた。 髪の毛がボサボサになるまで撫で回し、最後にポンポンと頭を叩いてやった。
「ほらほら、そんな緊張するな。 深呼吸、深呼吸」
髪を整えながら、何度も深呼吸を繰り返す将。
「どうだ?」
「しっぱいしたら、どうしよ?……」
「今まで練習してきただろ? 大丈夫だって」
「でも……セイさん……」
今にも泣きそうな顔で俺を見てきた。 こうも弱気な将は、初めて見るかもしれない。
いつもは軽口をたたくぐらいのやんちゃぶりを見せてくるのに、今の将は別人のように見える。 子犬のように不安そうな目をして、どこか儚いものを感じる。
親としてどうにかしてやらんと……。
将と目線を合わせるように腰を下ろして、ハンカチを将の右腕に巻いた。
「これは魔法のハンカチでな。 不安になったときに、目をつむって『できる、できる、できる』って心の中で三回言うんだ。 そうすれば、なんでもできる」
「でも……まほうなんて……」
「信じてれば魔法はあるんだよ。 将はどう思う?」
腕に巻かれたハンカチをじっと見つめて、小さく頷き「……しんじる」と言った。
「それでいい。 でもな、この魔法は一回しか効かない。 だから本番まで取っとけよ」
この言葉を肝に命じたように、こくこくと何度も頷いた。
まだ不安そうな顔をしてるけど、さっきよりかはマシになった。
本当に大丈夫だろうか……。
少しだけ不安を覚え、最後の練習をするために体育館に行った。




