三十九話
大きな鳥居をくぐり、手水舎で将に手順を教えながら身を清めると、綺麗な朱色の桜門の前にはさっそく大きなお狐様が出迎えてくれた。
外拝殿を越えて拝殿に入る。 どこもかしこも朱、朱、朱でまぶしいほど綺麗に見える。
「あかばっかだな!」
「あの色が悪い気を追い払う色なんだよ。 ここじゃあ、稲荷塗りっていってお稲荷様の力である豊穣を表す色って言われてる」
「……セイさん、くわしいな」
「大人だからな」
本当はGWのために買ってきた漫画から得た知識だけどな。 そうとは知らずに、ほへぇっと感心したようにうんうん頷くのを見ると、父親としてちょっと気持ちがいい。
そのまま内拝殿でも、やり方を教えて神様にお願いをした。
「さて、じゃあ行こうか!」
わらわらと人が流れてる方を指差して、向かうは参拝所。
写真を撮っている人に配慮しながら進んでいくと鳥居が二筋に分かれているところに出る。 ここが有名な千本鳥居。 この千本鳥居をぬけたところに奥社参拝所。
「将、おばあちゃんからもらった御朱印帳出して」
「ほい! これは何するもの?」
バックから少し色あせた赤色の御朱印帳を取り出したのはいいものの、何に使うのか分からないようだった。
「簡単に言えば、この神社に来ましたっていう証だな。 おじいちゃんが好きだったんだ」
ほぉーんっと生返事をしながらページをめくり、いろんな神社の御朱印を見ている。 これらの御朱印は亡くなったお父さんが集めたものだ。 まだお食事処を始める前に趣味であちこちの神社を巡り、集めてはそこの神様の話などを聞いていた。
これまでずっとしまってあったけど、『稲荷大社に行くなら、おじいちゃんも連れて行ってくれ』とお母さんが将に持たせた。
将はお父さんにあったことないからあまり感じるものはないと思うけど、きっと天国で喜んでいると思う。
さっそくお守りやお札などが売ってる売り場で「ごしゅいんください」と神主さんに頼んだ。
さらさらと流れるような手つきで書いていく。
「ぼく、どこから来はったん?」
「とおくから」
「ほぉかほぉか、そりゃ遠くからよぉ来はった。 はい、できたでぇ!」
ページを閉じずに俺たちに見せてくれた。 さすがにうまい。 御利益がありそうな気がする。
「まだ乾いてないから」と注意してから将に渡した。 将も落とさないように慎重に受け取って、まじまじと字を見ては感嘆の声を漏らす。
「ほな、気ぃつけてな」
神主さんにお礼を言って、いよいよ稲荷さんに登っていった。 長い回廊を歩き続け三ッ辻、四ッ辻を通り、ぐるっと一回りして帰った。
途中で道に迷ったり、登ってたはずなのに下ってたり、疲れた将をおぶったりと大変だったけど、俺も将もいい時間を過ごせたと思う。 もちろん、お父さんも。




