三十七話
子供のころから変わらないメニューから、ずっと好きだった親子丼を二つ頼んだ。 お母さんのつくる親子丼は卵がフワッフワで、つゆもうまい具合にごはんに絡みついててこれがやみつきになった。
前に将にも食べさせたら将も好きになってしまった。 そういうところは似るんだろうなぁ、とぼんやり思いながらお手拭きで顔を拭く。
将も一通り俺の動作を見て、同じように顔を拭いた。 こういうおじさん臭いところは似てほしくない、と思っていたら太田さんからいま思ってたことをそのまま言われた。
まったくその通りで苦笑いをするしかなかった。
「それはそうと、その子見るの初めてだけどよ、静の息子でいいんだよな?」
「ええ、そうです。 将っていいます」
緊張した顔持ちでぺこりと将がお辞儀する。
「おっちゃんは、太田ってんだ。 向かいの小さな自転車屋で店長やってんだ」
よろしく、と将と握手をした。
ごはんを持ってきたスタッフから『早く食べて皿洗いしろ』と書かれた紙を渡された。 メンドクサイ気持ちを親孝行と割り切って手伝うことにした。
その間に将は太田さんとしゃべっては、俺の方を指差してゲラゲラと笑ってる。 さっきまでの堅かった表情からは考えられないほど、砕けた表情をしている。 将の社交性が高いのか、太田さんが人の殻を取っ払うのがうまいのか、どっちなんだろ?
うぅん……後者だろうな。 昔からの常連で、ごはんを食べるついでによく遊んでもらってたし、それにどことなく頼れる雰囲気がある。
「はいはい、よそ見してないで手を動かす」
お母さんに頭をはたかれてた。
「いやでも、あれ絶対、話のネタが俺だって」
「まぁ、いいじゃないか。 将くんも暇してないし、お母さんは楽できる。 良いことだらけじゃないか」
「俺は良くない」
「それ言われるとかなわないから、言わないで手を動かして」
逃げるように次のオーダーの確認をして会話はここで打ち切られてしまった。 俺も溜まってる皿を片づけないといけないから、いったん皿洗いに集中することにした。
あとで何を話してたか問い詰めるけど。




