二十七話
「十回クイィーズ」
パソコンに目を向けながら藤井が切り出した。 唐突になんだとは思うが、ただキーボードを打ってるだけもつまらない。 それに手が止まることではないから、「いやっほぉう」と気怠く受けることにした。
「ひざって十回言っ……あっ」
藤井の顔を見てると、何事もなかったように真顔でキーボードを打っていた。 俺も顔を戻して何もなかったことにしてやりたいが、これは拾って供養すべきだと思い返した。
「そうだな。 そこはピザって言わないとな」
「分かってます……。 分かっていますとも……」
それからまたカタカタと音を立てて文字を打っていく。 で、何が言いたかったんだ? なんとなく、何かの会話のきっかけとしてやったんだろうとは思う。 ……気になってモヤモヤしてきた。 待ってても藤井から言ってこないし……。
「……なにか俺に聞きたいことでもあるのか?」
「あぁ、その……少し人生について聞きたいことが」
「俺に答えられるものなのか?」
「それは大丈夫です! むしろ適任かと……」
適任ねぇ、どうせ結婚のことだろうと思うけど。 一応、これでも結婚はしたからそっち方面で何度か相談に乗ったことはある。 けど、今回はいつもとちょっと違う気がする。
あんなに結婚したい、結婚したいと言っていた藤井が少し迷っているように見える。 まさかデキ婚じゃないだろうな? そっちはどうアドバイスすればいいのか分からんぞ!
昼休み、コンビニで弁当を買ってきて、しょうもない会話をしながら食べるごはんはうまい。 普段なら。
藤井がどんなことを言うのか、内心ビクビクしている。
「そろそろいいですか? 相談」
「お、おう。 そうだな、いつまでも他愛のない話だといけないからな」
「そうですね。 それじゃあ……」と一つ咳払いをして藤井は話し始めた。
「えぇっと、花見の時に結城さんとアドレスを交換しましたよね。 それ以来どうメールをしたらいいのか分からなくて……」
拍子抜けである。 初めてつき合ったけど、どう話していいか分からない中学生じゃん。 深刻そうな顔をしてたからもっと暗い相談されると思っていたのに、なんだよ……気構えて損した。
だけど、答えにくいのは確か。 んなもんさっさと送れよ、としか言えない。
「ちなみに、なんでメールしにくいんだ? 恥ずかしいか?」
「恥ずかしいこともあるのですが、なあなあで交換したので……」
それは俺の責任だ。 花見の時、けっこう会話も弾んでいたからその調子で「アドレス交換したら?」といったのは俺だ。 藤井も結城さんもうじうじするばかりで携帯を出そうとしなかったから、半ば強引に交換させたのも俺だ。
恋のキューピット的なものをしたつもりが、後になってこうなってしまうとは予想もできない。
藤井と結城さんがつき合うことはさておいて、こうなったのは俺の責任だしなんとかしないといけない。
「あぁっと、向こうからも来ないってことでいい?」
一応の確認をしてみると悲しそうに藤井が頷いた。 そっか、そっか、結城さんは待つ人っぽいから自分からメールするなんてことはしなさそう。
だとすると、こっちが動かないといけない。 藤井も男だし、ここは勇気を振り絞ってもらう。
「藤井、結城さんこと好きか?」
「そ、それは……もう……はい……」
「つき合いたいか?」
「……つき合えたらいいけど、僕なんかが……」
「はっきり言え! バカ野郎!!」
「つき合いたいです!!」
「その意気だ!! そのままメールしろ!!」
「はい!」
すぐさま携帯を取り出してポチポチ打って、携帯を高くあげて祈るようにメールを送信した。 気力が尽きてヘタった藤井に「お疲れさん」と声をかけてやった。
うまくいくかは知らんがな。




