二十三話
みおちゃんは嫌な顔をするんだろうな。
昨日は『ガッテンしょうちのスケ!』なんて簡単に言っだけど、なんて言おう……。
昨日のうちにいろいろ考えてみたけど、どれもいい顔をしそうになかった。 渋々了承する顔が簡単に想像できてしまう。 始めのうちはそうかもしれないけど、遊んでみたら笑ってくれるかな……。
「おはよー」とかばんを背負ってみおちゃん。
「うん、おはよう」と将。
かばんを自分のロッカーにしまい込んで、今日のおままごとの設定を楽しそうに話し始めた。 みおちゃんの話しに熱がこもる前に「あの3にんと、あそんでみない?」と言ってみた。
楽しそうにしていた顔が急に萎んでしまった。
「……どうして」
「ともだちをふやす、いいきかいだとおもうんだけど……どうかな?」
何か言いたそうな顔をしながらも、小さく頷いて「……ショウくんが、いうなら」と承諾してくれた。
——でもなんでだろう、いいよっていってくれたのにモヤモヤする……。
膝を抱いて寂しそうに座っているみおちゃんの姿を見るたびに、モヤモヤが増えていく感覚があった。 声をかけようにもどんな声をかければいいのか分からず、結局黙るしかなかった。
ショウたちは一言も言葉を交わすことなく、あの三人が来るのをロッカーの前で待った。
まだか、まだかと待ち焦がれていると、あの三人ではなくセンセイが来た。
「元気ないようだけど、どうかしたの?」
「あ、いやなんでもないんだ。 ほんとうに……」
「みおちゃんは大丈夫なの?」
みおちゃんは返事の代わりにこくんと頷いた。 センセイは少し心配そうな顔でショウたちを見て「無理やりはだめだよ」とショウにだけ言って、またどこかに行ってしまった。
セイさんとは真逆のことを言った。
相手のことを思いやることが大切、とのことだった。 自分がされて嫌なことは相手にしてはいけない、なんてどこでも聞く話。
だけど、自分が良いと思ったことが相手にも良いとは限らない。
友達を増やすことは良いことだけど、みおちゃんが嫌がるあの子たちじゃなくてもいいんじゃないか。 まだこの幼稚園にはいっぱい園児がいるんだ。 きっとみおちゃんが友達になりたいと思える子だっている。
だったら、その子と友達になればいい。 ショウもきっとその子と友達になりたいと思うから。
ショウがしたことはいけないことだった。 セイさんの考えは少し間違っている。
確かに見かけだけでその子のことを判断するのは間違ってるし、遊んでみないと人となりが分からない。 だけど、それは無理強いをしてまですることではないと思う。
言われたからやるようでは、良い結果なんて出るはずもない。
それなのに、ショウはひどいことをしてしまった。 たった一人の大切な友達に。
あやまらないといけない。 むりをいってごめんって。
立ちあがてみおちゃんの前にしゃがんだ。 みおちゃんは慌てて顔を隠してしまったけど、言わなければいけない。
「……みおちゃん、ほんとうはイヤだったんだよね? それなのにショウはむりにやろうとしてた。 ほんとうにゴメンナサイ!」
頭を下げると、みおちゃんの頭とぶつかってしまった。 頭をさすりながらまた「ゴメン……」と謝った。
みおちゃんも頭をさすりながら顔をあげて、ぷっと吹きだしたように小さく笑った。 それにつられて笑ってしまった。
「わたしもね、ともだちはほしいよ。 でもね、あいてはえらびたいの。 ワガママかもしれないけど、じぶんのともだちは、じぶんでえらびたい」
「うん、だから、やくそく」
小指を立てて前に出す。 みおちゃんも小指を立ててショウの小指を絡めた。
それから二人で声をそろえて歌った。
ゆーびきりー、げーんまん、うっそついたら、はりせんぼーん、のーます、ゆびきった!
その日の帰り、車の中でセイさんの考えは間違っている、ということを教えてあげた。
きっと謝るだろうと思っていたが、ケロっとこんなことを言った。
「そうなるように言ったからな。 大切なことは苦い思い出と一緒に学んでいけ。 その方が忘れにくいから」
と。
——なんか、しゃくぜんとしない。




