二十話
仕事も終わりに幼稚園で将を拾った。 昨日は結城さんの好意に甘えて将を泊めてもらい、幼稚園に連れて行ってもらった。
いつものように、チャイルドシートの中に納まっている将は少し眠そうにしていた。 迷惑かけちゃいけない、と気を払っていたら疲れてしまったようだ。
「寝ててもいいぞ?」
「んあ? だいじょうだ。 あとこれ、せんたく」
目覚ましで起きたようにハッしてから、膝に乗せてあるビニール袋を叩いた。 中には昨日借りた服が入ってるようで、将自身が「せんたくして、かえしたい」と言った。 俺も「それがいい」と言った。
結城さんが描いてくれた地図は丁寧かつ親切に描かれていた。 マンション名から部屋番号、さらには幼稚園からの到着時間までも書かれていた。
小さな紙に描かれていた地図なので所々省略されているが、子供の頃からずっと住んでいるところなのでさして問題はなかった。
ただ問題なのは、ちょうど夕飯時に着いてしまったことだけ。
「さすがに迷惑だよな……?」
「あんまりおそくても、めいわくじゃないか?」
将の言う事も、もっとも。 一応お礼の品(五四〇円の十個入り饅頭)も持ってきている。 買うか迷ったけど、俺とは面識はないわけだから念のため買っておいた。 安いけど。
「じゃあ、いま行きますか」とお礼の品を持って俺。
「あいあいさー!」と借りた服が入ってるビニール袋を持って将。
三階まで登って左端の隣、真ん中の部屋である五号室のインターホンを鳴らした。 ドアの隙間から夕飯の良いにおいが漂ってくる。
『はい、どちらさまですか?』
「あっ、はじめまして、中村というものですが、昨日息子が借りた服をお返しにきました」
「はーい!」と返事が返ってきてドアから奥さんが顔を出してきた。
「ふく、ありがとうございました。 すごいたすかりました」
「あれまぁ、うちのガキどもと違って礼儀正しいね。 見習えさせたいぐらいだよ」
服を受け取って将の頭を撫でた。 忍者の卵を育てるアニメの食堂のおばちゃんに少し似ている気がする。 今となってはそのアニメ自体見る機会もないものだから、ぼんやりとだけど。 それでも記憶の片隅にあったのだから、すごいアニメだ。
「息子がお世話になりました。 安いもので申し訳ないのですが、よかったら食べてください」
「そんなもう悪いよ。 あっ、そうだ! ちょっと待ってておくれよ」
ドタバタと部屋に戻っていき、さっきまで服が入っていたビニール袋にいっぱいのみかんを入れて戻ってきた。
「はいこれ、持っておいき。 皮に傷とか汚れあるけど、甘くてうまいよ」
「え、いや、結構ですよ。 大丈夫ですって」
「いいから持っておいき。 余ってて困ってんだよ、人助けと思って持っておいき!」
強引にビニール袋を握らせて「それじゃあ、気をつけて帰んな」と部屋に戻っていってしまった。
「……帰るか」
行きより重いビニール袋を持って、ふと思った。
アニメもあんな感じだったけか?




