二話
将が今日から通う幼稚園は、アパートからも会社からも近い桜幼稚園である。 俺も将と同じ歳のときはこの幼稚園だったこともあって決めるのに時間はかからなかった。
幼稚園の正門にはお母さんたちで、にぎわっている。 幼稚園の前で写真を撮っているお母さんや、さっそくできたママ友同士で集まっているところもある。
将を車から降ろして自分も降りると視線が一気に集まった。 そして熱心にコソコソ話を始められた。
居心地悪い……。 なんだ男が来ちゃ悪いのか? ヒモだと思われてるのか? いやそんなはずはない! スーツ着てるし、どっからどう見ても社会人だろ? 自信を持て……、そうだ自信を持つんだ。 大丈夫、社会人になって五年以上経ってるんだぞ……。
「セイさん、ショウはどのクラスだ?」
ズボンを引っ張って俺を見上げてくる。 まぁ……いいか、将を悪く言われてるわけではないだろうしな。
将の手を引いて園の中に入り教室を探す。 園児たちからも怪しい人を見る目で見られたが、もう気にしない。
「チューリップ組だから……えっと、あれだ!」
教室の前に『チューリップぐみ』と可愛いイラストと一緒に立て看板があった。 その隣に長い黒髪を二つ結びにして後ろに垂らしている女性がいた。 エプロンを着け、泣いてる園児の目線に合わせて優しい笑顔を向けていた。
初めてお母さんと別れて、泣いてしまったのだろう。 かくいう俺も泣いてた。 気持ちは分かるぞ少年。
それから、その園児を連れて外で楽しそうに遊んでいる子たちのグループに「まぜてあげて」とお願いしにいった。 グループの子たちは笑顔で「いいよ!」と言って、新しく入った子の手を引いて遊び出した。
しばらくその子たちのグループを見守ってから、立て看板の横で突っ立てる俺たちの前にきた。
「おはようございます! もしかして……中村さんですか?」
俺と将も「おはようございます」と挨拶を返すし、自分たちが「中村」であることを肯定した。
「話は園長先生から聞いてます。 お仕事の間、将くんを預かってほしいのですね? お任せ下さい!」
「はい、ご無理を言って申し訳ありません。 えっと……」
「香奈子です。 結城 香奈子です」
胸に付けている名札を掲げて、人あたりの良さそうな笑顔で言った。 幼稚園の先生が天職であるかのような素敵な笑顔だった。
「それではお願いします」
「はい! 将くん、パパに行ってらっしゃーいって」
「しごとで、ヘマするなよ」
「先生の言うこと聞いて、みんなと仲良くな」
「ガッテンしょうちのスケ!」
どこで覚えたそんなこと!