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十六話

 会社に着くなり、部長から健康診断についての紙を渡された。 新年度になると毎回渡されるこの紙。

 会社は従業員に対して毎年、健康診断の実施をしなければならない義務がある。 反対に従業者も健康診断を受けなければならない義務がある。

 俺はこの紙をもらうたび、少し不安になってしまう。 自分では健康体であるつもりが、いざ検査を受けるとどこか悪かったりする。 俺の大学時代がそうだったように。

 どこも悪いところはなく健康体だと思っていたのに、高血圧との診断を受けた時はそうとうにショックだった。

 それ以来、健康診断に少し恐怖感みたいなものを感じてしまうようになってしまった。

 俺は憂鬱な気持ちで仕事に取り掛かった。




 そろそろ将を迎えに行く時間だ。

 書類やデータをまとめて、帰る準備をしていたら一本の電話がかかってきた。 部長が電話に出ると、へこへこと相手に対して下手に出る対応で会話をしていた。 あの様子から見て、取引相手からの電話だろう。 この時間にかけてきたということは、今日中に決まるかもしれない。

 俺を含め、みんなが手を止めて部長の反応を伺っている。 部長の声もだんだん明るくなってくるのを見る限り、どうやら決まったようだ。

 俺たちはほっと一安心して、また手を動かし始めた。

 良かった……。あの商談を進めてたのは他ならぬ俺だ。 残業ができない分、商談でみんなの力になれたらと思い頑張ってきた。 本を読んだりネットで調べたりと、商談が決まるようにいろいろ苦労した。 だけど、頑張って良かった。

 

「取引相手との商談が決まった。 みんなこれから忙しくなるが頑張っていこう!」


 部長は電話を切るなり、安心しきったような声でそう言った。 みんなも「はい!」と答え、やる気に満ちていた。

 

「そこで中村、向こうがおまえと食事をしたいと言ってるのだが、私と一緒に来てくれないか……?」

「食事……ですか……。 断ると印象悪いですよね……」


 部長は申し訳なさそうに「そうだな……」と言った。 商談が決まったら相手同士で食事をするのは、ごく普通のことであり普通の流れである。 食事の席で両社とも仲を深めることも多々ある。

 部長としては行ってほしいという気持ちもあるが、部長も部長で将のことを承知している。

しかし、だがしかしである。

電話では「OK」を出したが、食事の席で「NO」となることも十分あり得る。 そうならないためにも向こうの要求はできるだけ応えなければならない。

 俺はズボンのポケットからスマホを取り出し、結城さんの携帯にかけた。 

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