十五話
今日も今日とてセイさんを見送ってから教室に向かった。 教室の前にいる先生に「おはようございます」と挨拶して、ロッカーにかばんを片づけていると肩を叩かれた。
「お、おはよー……ショウくん」
「おはよう、みおちゃん!」
ショウのただ一人の友達、野々原 みお。 ちょっと気は小さいけど優しい女の子だ。
ショウとは自己紹介をした次の日に友達になった。 あとでショウたちが友達になったのは先生のおかげだということを知って、二人してお礼を言いに行ったことはつい最近のことだったりする。
「きょうは、なにしてあそぶ?」
「きょうも……おままごと……したい」ともじもじしながら言った。
——きょうもか……。
みおちゃんと友達になってから、ずっとおままごとでしか遊んでない。 他の遊びもしたいけど、二人でできる遊びなんてたかが知れてるからしょうがない。
嫌そうな顔を見せずに「いいよ!」と答えると、みおちゃんはニッコリ笑った。
「きょうはね、しんこんさんふうふじゃなくて、おさななじみでやりたいの!」と興奮ぎみに言った。
いつも新婚夫婦の設定でやっているけど、今日は趣向を変えて幼馴染でやるみたい。 なんでも主人公とヒロインが幼馴染のアニメを見て良いと思ったらしい。 「なにがよかった?」と聞くと、少しだけ顔を赤らめてゴニョゴニョとするばかりで、はっきりと答えようとしなかった。 聞いてもショウにはよくわからないから、それ以上聞かずに代わりにおままごとの設定を聞いた。
今日やるおままごとではショウたちは高校生であり、ずっと学校も同じである幼馴染のみおちゃんと、なあなあの仲を続けていたという設定でやるらしい。
そして、みおちゃんは「友達よりも家族みたいな仲でやること!」と声を大にして言った。 この関係が重要とのことだった。
はじめは二人とも手探りで高校生らしいものを演じてたせいで動きや会話にぎこちなさが出ていたが、次第に高校生らしさが板についてきたようにスムーズな演技ができるようになった。 でも、二人とも家族みたいな仲には慣れるとができず、たまに敬語になってしまいそのたびにショウたちは笑い合った。
「ねぇ、ちょっといいぃー?」
二人でおままごとをしていると、三人組の女の子たちが話しかけてきた。 髪をくるくるに巻いて如何にもイマドキの女の子だった。
「わたしたちもぉー、いっしょにぃーあそびたいぃーっていうかぁー」と真ん中の子が言った。
——へんなしゃべりかた。
自分だけで決めるのはできないので、みおちゃんと目を合わせると嫌そうな顔で小さく顔を横に振った。 どうやらあの子たちと遊ぶのは嫌みたい。
「もうしわけない、ふたりであそんでいたいんだ。 だからほかのひとたちと、あそんでほしい」
頭を下げて断ったが、右にいる子が「イミワカー」と言い、次に左の子が「そのしゃべりかたウケるぅー」と言い、 最後に真ん中の子が「あそびたいぃっていうかぁー」と言った。
——すごいな、このこたち……、メンドクサイにもほどがあるぞ……。
呆れていると、みおちゃんがショウの袖をぎゅっと掴んで泣きそうな顔で見ていた。
——おとこをみせるとき、かな?
「えっと、ちなみに、なにしてあそびたかったの?」
「おままごとでぇ、あそびたいっていうかぁー」と真ん中の子。
「それなら……あそこ! あそこでも、おままごとやってるぞ! あっちのこたちと、あそんだらどうだ?」
教室内をぐるっと見回して、同じくおままごとで遊んでいるグループを指差した。 するとイマドキ風な女このたちは煮え切らない様子で「でもぉー」と声をそろえて言った。
「そんなにショウたちと、あそびたいのか?」
「あそびたいっていうかぁー、ショウくんにぃー、きょうみがあるっていうかぁー」
——ショウはまったくないけどね。
「しゃべりかたもぉー、なんかぁほかとちがってぇー、いいなっていうかぁー」
——ショウはそのしゃべりかた、きらいだけどな。 いちいちのばすな! っていいたい。
真ん中の子がくねくねしながらごねていたおかげで、九時を知らせるチャイムが鳴りこの話は強制的に終了した。
先生が黒板前に立って「集まってください」と言ったので、ショウはあのイマドキ風の女の子たちから離れた位置にみおちゃんと座った。
——あさからつかれた。




