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十四話

「うまく、いってるようだな、セイさん」

「そうだな」

「そろそろ、もどらないか? にくがなくなってしまう」


 後ろの方で二人をこっそく見守っていた俺に対し、将は料理の方が気になるようでいつなくなってしまうか気が気でないみたいだ。 二人の仲もちょっとは深めることもできたし今日はいいだろう。

 「戻るか」と言うと、将はすぐに駆け出していった。

 その後なんやかんやあって藤井と結城さんはメールアドレスを交換して、今日の花見はお開きになった。




 結城さんを自宅まで送っていき、やっとアパートに着いた。

 車を運転しないといけないこともあって酒を飲めなかったのは残念で仕方ないが、料理の残りをたんまり持って帰ることができた。

 今日の夕飯は残飯処理でいいか。


「セイさん、ねむい……」


 ソファーに横になりながら、いまにでも寝てしまいそうな声で眠気を訴えた。 車の中でウトウトしてたもんな。 残り物を冷蔵庫にしまい込んで寝室に布団を敷いてやり、「将ー」と呼んでみたが返事が返ってこなかった。

 

「寝ちゃったかな……」


 リビングに顔を出すと案の定、ソファーの上でスヤスヤと眠っていた。


「幸せそうな顔をして」

 

 寝ている将の顔にそっとふれ、肌の温かみを感じた。

 初めて将を抱いたときは体温を感じる暇なんてなかった。 俺に育てられるのか、ちゃんと守っていけるのかとか、そんな不安ばかりでそれどころではなかった。 必要のないプレッシャーまで感じるほどだった。

 そんな俺を心配してお義父さん、お義母さんや社員まで将を育てるのを手伝ってくれた。 そのおかげでちゃんと成長してくれたし、こうやって将の体温をゆっくり感じる余裕もでてきた。

 ただ——————

 妻の舞にも感じてほしかった。 感じさせたかった。 一緒に将の誕生の喜びを共感したかった。 

 なのに、どうして先に逝っちゃったんだよ……。


「セイさん……どうした、めがあかいぞ」


 いつの間にか目を覚ました将が、心配したような目で俺を見ていた。


「なんでもない。 ほら、布団寝ないと風邪ひくぞ」


 将をソファーから降ろして布団に寝かしてやった。


「……セイさんがそういうならいいけど、ショウはいつでも、セイさんのみかただぞ」

「俺もだよ」


 そういって将の目を閉じてやると、穏やかな寝息をたててまた眠ってしまった。

 俺は大丈夫だから、そう心配しなくてもいいぞ。

 大丈夫、大丈夫

 俺は大丈夫だ。

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