十三話
中村さんが行ってしまったことで、私の居場所がなくなってしまった。 さっきみたいに男女別々のグループじゃないと私ほんとうにダメなんです。
男性とどんな話をすればいいというのですか。 それに隣の人がちらちら見てくる。
「あ、あの!」と隣の人が声をかけた。
「は、はい!」とおっかなびっくり返事をする。
それから言葉を詰まらせながら、お酒を手に持って「ど、どうです?」と顔を真っ赤にして言った。 「は、はい貰います!」と脊髄反射のように紙コップを隣の男性に差し出してお酒を注いでもらった。 注いでもらっている間にちらっとその男の顔を見ると、赤いペンキに頭を突っ込んだように真っ赤になってる。
うわぁ、この人すごい真っ赤。 いくらなんでも飲みすぎですよ……。
「そ、その服、すごい似合ってます! 肌も白いですし……」
「あ、ありがとうございます?」
もう二十も後半なのに、こんな肩に穴の空いてる服とホットパンツを選んで「もうオバサンなのになに露出してんだよ」なんて思われてると思ってたから余計にうれしい。 それに肌も褒めてくれたし……。
でもお世辞で言ったのか、本気で言ってくれたのか分からない。
「なんで疑問形なんですか?」
隣の男性も少し困ったような笑顔になってる。
「い、いえその……あまり容姿を褒めてもらったことなんてないですから、どうしたらいいものかと……」
「あぁそういえば、僕も褒められたときどういう反応すればいいのか分からないときあります。 笑っとけばいいのか、うれしそうにお礼を言えばいいのか、喜んだ様子を見せればいいのか、どれが正解なんでしょうね?」
二人して悩む。 弾んだ声でお礼は良いような気はするけど、ちょっと子供っぽい感じがする。 喜んだ様子を見せるのも大人のイメージからは考えにくいかなぁ。
だとすれば——————
「笑えばいいのでは?」
「だったら結城さんも笑いましょう!」
「えっ、あ、はい!」
少しぎこちなかったかもしれないけど、確かに笑みを作って「ありがとうございます」とお礼を言った。
この人なら少しは話しやすそう。




