十二話
さて、これをどうしよう。 藤井は将ともくもく肉を食べて、結城さんは俺のために料理を取ってくれている。 料理を取ってくれることはうれしいが、俺が思っていた通りのシナリオにならなくて少し落胆の思いである。
俺も花見を楽しむかと諦め半分で結城さんから皿を受け取ったとき、藤井が素っ頓狂な声をあげた。 反射的に藤井を見るが、藤井も反射的に顔をそらして酒を被るように飲んだ。
そのとき、名探偵何某のごとくピコーンときた。
いま見てたな……、結城さんが近くに来たことで意識し始めたか……。
結城さんから受け取った皿をそのまま藤井に渡して、立ち上がり将を抱えた。 急に抱えられたせいで箸で掴んでいた肉団子を落として、不服そうな顔を向けてくる将に「トイレ行きたくないか?」と尋ねる。
「いきたくない」と素っ気なく答えた。 「いや、行きたいはずだ」と将の身体を藤井の方に向ける。 そうすると俺の思惑に気づき「かわやにいこう」と言った。
「そういうわけだから、ちょっと失礼!」
結城さんに一言言ってから放たれた矢のごとく疾走した。 後ろからは、結城さんの引き止めるような声が聞こえた。
トイレに行くとしたくないのに用を足したくなるのは人間の性なのだろうか。 便器の前で立って尿意を呼び起こすこと数十秒、やっとスッキリした。
「セイさん、たすけてくれ」
俺よりも早くスッキリして手を洗いに行った将が、何者かに襲われたような声をあげた。 ズボンのチャックもそのままに将がいる手洗い場に行くと、背伸びをしながらセンサー式の蛇口に向かって必死に手を伸ばしている将がいた。 どんなに背伸びをして手を伸ばしても、せいぜいシンク部分までしか手が届かず手を洗うに洗えずにいた。
「とどかないんだ」
足をプルプルさせながら俺に助けを求めてくる。 焦って損した気分。
「今度から厠じゃなくて、トイレって言えるか?」
「いう、いうから! てをあらわせてくれ、すこしかかったんだ」
それは手を洗ってもらわないと困る。
ズボンのチャックを上げて、将を抱きかかえて手を洗わせる。 やっと水が出てきてくれてほっとした表情で手を洗い終え、ハンカチを渡した。 将が手を拭いてるうちに俺も手を洗った。
さて藤井はうまくやっているのだろうか。 もうしばらくここいらで時間を潰そう。




