十一話
「えー、今日は新人との仲を深めることを名目に昼間っから酒を飲みましょう! かんぱーい!」
俺の雑で品のない音頭でみんな紙コップをポコポコ当て乾杯してから口に含んだ。 夜に飲む酒もいいが、昼に飲む酒もまた別段いい味がすると思う。
くそ、車で来たのは失敗だった。 酒が飲めない……。
まぁ、今回は会社総出でサプライズというかお節介なイベントを用意してあるから、ある意味良かったかもしれない。 変に酔って失敗したら元も子もない。
題して、藤井と結城さんの仲を他人以上友達未満にするイベントもとい作戦。
つまるところのきっかけづくりを我々が手伝おうというものだ。
当の本人たちには内緒にしてあるが、他の社員は手順通りに事を運んでいる。 まず花見を始める前に男女別々のグループにわかれ、女性は端で男性は中央で大きく固まる。 このとき男女の連絡係として、入社歴が一番長い女性社員と真面目しか取り柄がなさそうな新人を起用することにした。 新人の方は緊張のあまり箸がまったく動いていないのが心配だが、あの新人ならやってくれる。 俺は期待しているぞ。
それに連絡といっても、このイベントを円滑に進めるためのトリガーみたいなものである。
今は結城さんの緊張感を取り除くところから始めよう。
社員花見なのにただ一人だけ関係ない人がいることで、場違い感を味わっていることだろう。 この気持ちを払拭することができなければ、このイベントは不発に終わる。
しかし酒もあったこともあって、すぐに結城さんの緊張は溶けていった。 「はやく結婚したい」との話題で盛り上がっている。 特にもう三十になるであろう女性社員たちはかなり熱の入った話をしては、酒を次々に飲んでいく。
そして頃合いを見て、連絡係の女性が新人の背中をひじで二回叩いた。 新人は身体をビクっとさせながらもトリガーサインを読み取り、男性社員たちにゴーサインを出す。
男性社員たちは酒を片手に立ち上がり、女性グループに割って入る。 もちろん、目当ては結城さんということで、男性社員たちは結城さんに質問攻めしてもらう。
こうすれば、男慣れしてない結城さんは狼狽してそこを藤井が助けて、「ありがとうございます、えっと……」と自然な流れで結城さんから名前を聞いてもらえる。
若干ベタなだが、ベタというものは二次元だから萎えるのであって、リアルでやるとけっこういい感じになると俺は思っている。
ということで出番だ、藤井! と隣に座っている藤井をバっと見るが、暢気に将とどっちが肉を多く食べれるか競い合っていた。
ダメだ、こいつ。 俺たちの心遣いに気づいてないどころか、肉にしか目がいってない!
「な、中村さーん」
男の群れからなんとか逃げ出してきた結城さんが俺に助けを求めてきた。
こっちもダメだ!
さっきまで結城さんがいたところでは、社員全員が同時に首を振り腕を交差させて×印を作ると、花見を楽しみ始めた。
作戦失敗。




