十話
二週間後の土曜日、花見の日。
俺は場所取りに必要な物を車に積めて、朝早くから将と結城とで場所取りに来ていた。 ちらほらと、桜の木の下にブルーシートを広げて場所を確保している人たちもいた。 その人たちは、いいところが取れてホッとしながら朝ご飯を食べ始めた。
俺たちも早く場所を確保しなければ、いいところがなくなってしまう。 今もぞくぞくと人が集まってきているのだから。
「会社に車置いてくるので、その間場所取りお願いします。 将も頼むぞ」
後部座席に座ってる結城さんにブルーシートを渡して、急いで車を置きにいった。 この公園の近くにパーキングエリアがないということで乗せてきたはいいが、朝も早いことと場所取りの手伝いをさせてしまったことに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 それに結城さんにも自分の荷物があるのに、ブルーシートまで押し付けてさらに申し訳ない。
車を会社に置き走って公園に戻ると、人でごった返していた。
みんな同じこと考えてるにしても、こうも日程合うか? それよりも結城さんたちを探さないと。
乱れた息もそのままに小走り気味で探していくと、公園の奥の方にブルーシートが飛ばされないように踏ん張っている結城さんと将がいた。 急いで車から持ってきたカゴやリュックでブルーシートを抑えると、やっと一息つくことができた。
「入口付近だと人が多いと思って、こんな奥の方になりましたけどよかったですか?」
「はい、大丈夫です! この桜も立派ですし」
後ろの桜は満開に近い状態で、青空に美しく栄えていた。
「セイさん、あさごはん」
ブルーシートの上で横になっていた将がゴロゴロと転がって俺にぶつかるとお腹を鳴らしながら言った。
場所取りのため朝食の時間を割いてまで来たという建前で、本音は誰よりも早く桜の下でごはんを食べたいがためにわざわざ朝食は食べてこなかった。
俺はカゴの中から、ぎゅうぎゅうにおにぎりが詰められたタッパーと紙皿、お手拭きを出し結城さんと将に渡した。
「朝ご飯まだですよね? 形は悪いですけど、よかったらどうぞ」
「みぎがウメボシで、まんなかがオカカ、ひだりにカラアゲがはいってるぞ」
おにぎりの具を教えながら、将はから揚げ入りのおにぎりをじーっと見て結城が取るのを待っている。 子供のくせに他人様を立てることを忘れず、じっと我慢している。
これもたぶん会社で育児をしたせいなのか?
「じゃ、じゃあから揚げを……」
少し恥ずかしそうではあったが、「肉」という絶対的な魅惑に勝てず一つ手に取ってうれしそうにかぶりついた。 から揚げが一つ減って、口を中途半端に開けて呆けている将の皿にから揚げを乗せてやり、俺はおかかを食べた。
おにぎりを食べながら社員に場所をメールで教え、これで本当に一息できる。
「フェイふぁん、ふぉちゃ」 セイさん、お茶。
「詰め込みすぎだ!」
手についたご飯粒を口で取りながら、片方の手は新しいおにぎりを掴もうとしていた。 さっとタッパーを取り上げ、代わりに空の紙コップを差し出した。 「ふぁ……」と口をモゴモゴさせながら情けない声を漏らして未練たらしくタッパーに手を伸ばすが、諦めてコップを受け取った。
とりあえず手に持ってるおにぎりを口に放り込んで、カゴから水筒を取り出しコップにお茶を注いでやる。 すぐさまコップに口を付けて、お茶と一緒におにぎりを流し込むと「おにぎり」とタッパーを指差して催促する。
「ほれ」と意地悪で梅干を渡すと、将は頭を横に振った。
「ウメボシじゃない。 カラアゲ」
「別に食べれるだろ?」
「たべれるけど、タネがあるから……」
そっぽを向く将。 「すっぱいから嫌い」と素直に言えばいいものの。
「タネなしだぞ。 ほれ」
ずいっと将の目の前に差し出すと、身体ごと引いて「もういらない!」と拗ねてしまった。
やりすぎたと後悔しながら手に取ったうめぼしを食べていると、結城さんのカゴから竹で作られたサンドイッチケースが出てきて将に差し出した。
「じゃあこっち食べる?」
蓋を取って将に中身を見せると、「……たべる」と拗ねながらサンドイッチに手をつけた。
「意地悪しちゃだめですよ。 それとどうです?」
ケースを俺に差し出しながら、軽く叱られた。 ここぞとばかりに将も「だめだぞー」と嫌味たらっしく便乗する。 少しムっとしたが、ここは大人として我慢した。
「どれにします?」
結城さんに催促されて改めてサンドイッチを見るとハムサンドに卵サンド、カツサンドとどれも魅力的で迷ってしまった。 さんざん迷った結局、絶対的な魅力を放つカツサンドに手を伸ばした。




