ずるい人。
「だからね、今後のことをはなしたいんだ」
デートとは。
異性と日時や場所を決めて会うこと。
辞書に基づけば、私は今日、目の前にいる人と、初デートをしたのだといえる。
「今後のこと……とは?」
「わかっているでしょう?」
「……え?何がですか?」
「次、いつ会う?」
「んー……ちょっとこれから忙しくなってしまうので……はっきり言えません」
「そうやって、逃げるの?」
「何から逃げるんですか?」
「またそうやって、
なんか。
慣れてそうだね」
言いたい放題。
こういう時は、
「そっか、わかった。時間できたら連絡してね」
くらいがスマートでよろしい。
そういう風に言えないのは、非常に残念に思う。
目の前のこの人は、そう言えない上に、私を悪く言うんだもの。
「ずるいなあ……
なんか。
残念だね」
そう呟かれた瞬間、もう、無理だと思った。
“なんか”って、何回言うの?
私の方が、残念に思っているわ。
きっと、あなた以上に。
口には出さなかった。
気づけない人、というか。
察せない人は嫌だから。
そして、
――ああ、またうまくいかない。
そう思った。
押しにとても弱い私は、なかなか上手な恋愛ができない。
ここで簡単に次の約束をしてしまったら、また何かが起きてしまうような……そんな気がして、必要以上に警戒をする。
じゃないと、いつか騙されて。
お高い壺を買わされたり。
結婚詐欺にあったり。
そんな類いのものに引っ掛かるんじゃないか。
なんて思うのです。
「私はずるくないよ、頭も悪いし。
世の中、ずるくて賢くて。
そんな人いっぱいいるじゃないですか」
「でも、気づいているわけでしょう?」
「何に気づくの?」
「……そう、言われると思ったよ」
「だって、何に?」
「……」
ほら、やっぱり言わないじゃない。
根本にかえれば、
何で次会いたいの?
何で次の約束をしたいの?
今後の話って?
それを言わないなんて、
あなたのほうが、ずるいじゃない。
私は何も言わないその人に、何も言わずにその場を立ち去る。
けれども、
追いかけてくる気配すらない。
所詮、そんなもの。
そう、ずるいのは……
私じゃないわ。