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意外と恋は落ちている  作者: 京 みやこ
転がり込んできた恋の行方
5/7

(5)放課後、図書室で:1

 先輩にドーナツを三個奢ってもらった翌日、今日も生徒会室で会議が行われる。

 昨日の様に簡単な打ち合わせではなく、秋に行われる文化祭や十月の生徒会役員選挙についての話し合いだとか。

 生徒会顧問の先生も参加するようで、会議は長くかかるらしい。

 その事を今朝、メールで教えてもらった。


「分かりました。今日は一人で帰りますね」


 身支度を整えて家を出る前にそう返信すれば、すぐさま着信音が鳴る。

 ビクッと大げさなほどに片を跳ね上げた私は、何とか取り落とすことなく慌ててスマホを耳に押し当てた。

「も、も、もしもし?」

 ビックリして声が見事に裏返ってしまった。

 そういう経験、みんなもないかなぁ。手に持っていたスマホがいきなり鳴ったら、ものすごく驚くよね?

 まぁ、そのことは今、置いておいて。

 掛けてきたのは、ほんの数秒前に返信メールを送った佐川先輩だった。

『おはよう、真理ちゃん』

 電話を通しても、先輩の声はいい声だ。

 だけど、なんとなく不機嫌そう。具合が悪いのだろうか。それとも疲れているのだろうか。

「おはようございます。あの、どうしたんですか?」

 様子を気遣って声を掛ければ、明らかに不機嫌な声が返ってくる。 

『どうしたもこうしたもないよ。真理ちゃん。さっきのメール、どういうこと?』

「え?」

 どういうこととは、どういうことだろう。そんなにおかしな文章は送っていないはずなのに。

 なんと答えればいいものかと首を捻っていれば、電話の向こうで先輩がため息を吐いた。

『なんで、一人で帰ろうとするの?』

「はい?」

 それがそんなにおかしなことだっただろうか。

 これが先輩以外の男子と帰るとなれば、彼が不機嫌な理由は分かる。

 でも、私はたった一人で帰るつもりなのだ。それの何が彼の機嫌を損ねたのだろう。

 私は更に首を捻る。

「だって、先輩は生徒会の会議で忙しいってメールをくれたじゃないですか。私が待っているとなったら、気を遣うでしょうし。だから、一人で帰るだけですよ」

 淡々と答えると、先輩のため息がまた聞こえた。

『拗ねてそう言ってるわけじゃないんだよなぁ、真理ちゃんは。もっと俺に甘えてくれたり、焼きもち焼いてくれたらいいのに』

 先輩はため息まじりに小さな声でボソボソと喋っているので、その内容がちょっと聞き取りにくい。

 甘いお餅を焼くとは、何だろう。新しい和菓子の話だろうか。

 私はドーナツなどの洋菓子も好きだが、あんこやきな粉がたっぷり乗った和菓子も大好きだ。

 ぜひとも教えてもらおうと口を開く前に、先輩が話しかけてきた。

『放課後に用事があるの?』

「あ、の、ええと……」

 まだ少し硬い先輩の声に、ニュータイプの大福的なものについて切り出せない。


――まぁ、いいか。時間があるときに教えてもらおう。


 そう思った私は、先輩の問いかけに答える。

「予定は何もないです」

 私の言葉に、先輩の声がやっと柔らかくなった。

『会議が終ったらメールするから、そうしたら昇降口に来てくれるかな?』

 いつもの優しい声が耳に届いてきたので、ホッと胸を撫で下ろす。

「いいですよ。それまでは図書室で本を読んでいますから」

『分かった。じゃ、学校でね』

 いつものように爽やかな口調の先輩に、私も

「はい、学校で」

 と明るく返した。

 そして、通話を終りにしようとした瞬間。


『真理ちゃん、大好きだよ』


 甘く囁く声が流れてきた。

「え?!」

 硬直した私は、携帯電話を持ったまま立ち尽くす。耳には『ツーツー』という機械音が。

 先輩はズルい。あんなセリフを言い逃げするなんて。

 いや、言い続けられても困るのだが。

「もう、先輩のバカ……」

 私は空いている片手でパタパタと扇ぎ、赤くなった顔に風を送ったのだった。


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