第六話 柳川家の緊急家族会議
テーブルの上に置かれた一つのカップラーメン。それを中心に柳川家三兄妹がテーブルを取り囲む。
「これより緊急家族会議を始める」
大吾が真剣な顔つきで言い始める。
「今回は本日の昼食にする筈だったカップラーメンが一つしかなかったという不測の事態を解決することが目的だ。名案が浮かんだなら挙手を」
「はい」
「奈々香」
「ここは仲良く三人で分け合うのが一番だと思います」
「この、バッカヤロー!」
「きゃううっ!」
奈々香の挙げた案を聞くや否や、大吾は中央に置かれたカップ麺を手に取って奈々香に投げつける。
「大の男が三等分された麺とスープで腹を満たせる訳あるか!」
「酷い兄さん! 何も食べ物を投げなくても!」
大切なものを命がけで守るかのように、奈々香は投げつけられたカップ麺を発育した胸で抱きかかえる。
「不愉快ではあるが、僕も大吾に同意だ。そんな微量で満足できる胃袋も良心も僕は持ち合わせていない。もっとマシな案をだせ。この低能が」
「そのセリフ私にも言うの!?」
「とにかくだ」
と、小吾は奈々香から強引にカップ麺を奪い取り、話を続ける。
「空腹を満たすには、こいつをまるごとたいらげるしかない。とはいえ、これ一つの為に争うというのも非常に馬鹿馬鹿しい」
ポンポンと、片手でカップ麺を軽く上にほうりながら小吾が言う。
「となれば、選択肢は一つしかねえわな」
「うう……、やっぱりそうなるんですか?」
「諦めろ奈々香。さて、じゃあ決めるとすっか。この吹雪の中――誰がカップ麺を買いに行くかをよ!」
ビュウウッ!
と、窓越しでも強烈だと判断できる悲鳴にも似た風音が、一気に三人中二人のやる気を削ぎ落とす。
「……何か、吹雪強くなってません?」
「………………」
不安を感じさせる奈々香の質問に大吾は答えない。ポカンと口が半開きになった状態で、吹雪き続ける外の様子をただ眺めている。
ここでテレビの電源を入れた小吾は、チャンネルを切り替えて気象情報を伝えている番組を見始める。それによると、このあたり一帯は記録的な猛吹雪に見舞われていて、夕刻まで止むことはないらしい。
その事実を知った寒がりの二人は。
「やっぱ三人で分けようか?」
「そうしましょう!」
早々に心が折れた。
「却下だ」
そんな二人の意見を一蹴する冷酷な眼鏡少女小吾。
「嫌! 私こんな中買い物に行きたくない!」
「同意だ! 途中で野垂れ死にしちまう!」
「我儘を言うな年上二人。近くのスーパーに行くだけだろうが」
「だったらお前が行けよ小吾! 寒いの平気なんだろ?」
「はあ? 何を馬鹿げたことを言っている。何故僕が僕の貴重な時間をそんなことで消費しなければならない」
「小吾! ここの大黒柱たる兄の言うことが聞けないのか!」
「途中で野垂れ死にするところに末っ子を放り出そうとする奴の言葉など誰が聞くか」
「ぐぬぬ……」
末っ子一人相手に劣勢に立たされる兄と姉。
このままでは話の流れ的に大吾か奈々香、寒がりな二人のどちらかが猛吹雪の真っただ中に放り出されることになる。何か打開策はないかと思考を巡らせる二人だが、ここで敵対者である小吾から一発逆転のチャンスを与えられる。
「ふん。そんなに僕をおつかいに行かせたいのなら、僕を打ち負かして見せろ。そうすれば、お望み通り買い物でも何でも行ってきてやる」
「ほう? いいのかそんなこと言っちゃって。大概そういうこと口にする奴は負けるもんだぜ?」
上からの余裕な物言いに負けじと強気な言葉を返す大吾。
「問題ない。僕が貴様如きに後れをとることなどありえないからな」
「言ってくれるねえ。かっかっか、上等だ。今日こそは兄の恐ろしさってのを思い知らせてやるよ」
「ふん。できるのならやってみせろ」
負けられない戦いを前に、心だけが燃え盛る大吾と小吾。
かたや寒さから遠ざかるが為に。かたやゲームプレイ時間の為に。
果たして、勝負の運命や如何に。
「ちょっ、勝手に話を進めないでくださいよ!」