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Operation-ZONBI  作者: 山優
2/3

中編

 交番の一階にある武器倉庫から警官達が戻り、鞄に入れた拳銃ハンドガンといくつかの散弾銃ショットガンを机に置き年配の警官ローランドが告げる。

「さあ、どれでもいいから武器を持っていけ」

 生存者達は戸惑いながらも各々と武器を持った。トミロヤは拳銃と散弾銃を持ち、リーネットは拳銃を取る。

「良し、今から拳銃の撃ち方を教えるぞ。まず弾込めからだ」

 残った二人の警官が横に付いたりして教えていく。トミロヤは慣れた感じで装填している。ローランドやラガクとラガナはそれを逃さずに見ていた。

安全装置セーフティーを解除して、全員窓の側に来い!」

 生存者の全員が二階の窓際に立つと下からはうめき声が聴こえてくる。下を見ると何体かのゾンビが交番の近くにウロウロとしていた。

「下にゾンビがいるだろう。そいつらを撃ってみろ!」

 生存者の男性を除き、リーネットともう一人の女性は撃てなかった。

「やっぱり、出来ませんっ!」

「撃たなかったら、次になるのは貴方達よ……?」

 ラガナが冷静に告げるとラガナはホルスターから拳銃を抜くと的確にZONBIの頭に撃ち込んだ。

「女性だからといって……奴等は構わずに襲ってくるのよ。生きたいなら撃ちなさい!」

 女性達は目をつむりながらも拳銃を発砲する。男達はそれを見ながら心を痛めながら誓う。『彼女達を守れるのは俺達しかいない!』

「トミロヤ。話がある……来てくれ」


 二階と一階の階段でラガクとトミロヤが何かを話している。

「銃の経験じゃなく、不確定異常事態の経験者か……」

「不確定異常事態……?」

「ゾンビハザード等の化学、生物。それに不確定な異常現象のことだ」

「……不確定って、何故です? ウィルスとか寄生虫とかじゃないんですか?」

「だから不確定なんだ……この状況からして異常事態はあってるがな」

 つまりは何故こうなったかは分からないということだ。ラガクはガスマスク越しに溜め息をつきながら呟く。

「ゾンビとは言ったが正直のところ……感染するのかどうかも分からん。何でああなったのかも分からない……。分かるのはZONBI共に襲われることだ」

「…………」

「一度経験してるなら生存率は上がってる。それにな……奴等は倒せるし、今のところは大丈夫だ」


 こうして兵士二人と警官三人に民間人が四人。生存者合計九人は交番に駐車場で集まっていた。ラガクとローランド警官が警察車のトランクをあけて武器弾薬を積んでいく。

「分譲はあまり良くないが、2台に分かれるしか無さそうだな」

「大人5人で限界だからな……」

「ローランド。運転は任せる」

「あいよ、軍人さんはどうする?」

 ラガクの着けている無線機からラガナの声が聞こえきた。

「ラガク。エリア2I方面、400メートルから多数のBZR!!」

「ラガナ。生存者達を搭乗させろ!」

 BZRとは(bio-ZONBI-running)である。BZOと違いはノロノロと歩くのではなく、俊敏に全速力で走ってくるのだ。

「早く乗るんだ! 走る奴等がくる!!」

 生存者達は警察車に乗り込むと慌てて発進する。すぐ後ろにはBZRが迫っていた。

「で、どうやって避難場所まで行くんだ?」

「自動車道を通って行くルートがもっとも早い」

「了解、3番自動車道でいいんだな?」

「ああ、そのルートだ」

 ローランドは車内無線機を取り後ろに追走する警察車に連絡を入れる。

「3番自動車道に向かう」

「こちら314号車。了解です」




 エリア2Aである一人の男が兵士と揉めていた。

「ほら許可証があるだろ」

「許可証があってもここは立ち入り禁止区域です」

「お前達の上層部に確認を取れ!」

 若い兵士は近くに置いて有る無線機を使って何やら話始める。

「貴方名前は?」

「トロリーだ!!」

「しっ、失礼しました。どうぞ!」

 トロリーはジープに乗り込むとアクセルをふかして大袈裟に発進させる。


 ジープをしばらく走らせると橋を渡り、更に検問が有ったがそこにいる兵士達はガスマスクに防護服を着込み独自の威圧感があった。トロリーは車をバリケード付近で停車して近くの兵士に許可証を見せる。

「……許可証は要りません。橋は爆発しますのでエリア9Aから脱出してください」

 二回目の検問はあっさりと突破することが出来た。行く先の道路封鎖していた装甲車が移動して道路をあける。




 前を走る警察車には警官のローランドが運転して隣にはラガクが乗り、後部座席には生存者のトミロヤとリーネットが乗っていた。

「ちッ、道が塞がってる。どうする?」

「右か左にどっちでもいいから行くしかない」

 右へ曲がると一人の人影がある。ローランドとラガクは顔見合わせた。そしてトミロヤとリーネットもその人影を見る。

「ゾンビか?」

「奴等なら、もう襲って来てるだろう」

「私……違うと思いますっ」

「ゾンビではないと思います」

 ローランドが出ようとしてラガクが止めた。散弾銃ショットガンを取り、ローランドに告げる。

「異常があっても構わずに行け……」

「……分かった」

 全員が不安感を抱き、心配の眼差しで見た。ラガクは警察車から出て告げる。

「まるで、死に行くみたいに見るなよ。己を犠牲にしてもと言ったろう」

 近づいて行くうちに人影は震えているのが分かった。幼い顔つきの少女だ。

「もう大丈夫だ……?」

 少女は首を横に振り、眼を見開いている。少女の眼の先を追う。

「……あれは!?」

 それは見覚えがある触手だ。そして触手には人らしき肉塊が絡まれている。更に上を見上げれば゛何か″はいた。


 後ろを追走する314号警察車には警官二人が前の席に乗り、後部座席にはラガナと生存者の男性と女性が乗っている。

「ローランド先輩、何かあったんですか?」

 運転席の警官が無線機を取り尋ねた。

「1人生存者がいた」

「ラガナさん。何処に行くんですか?」

「援護よ。危険を感じたらそのまま行って」

 前の警察車からラガクが降りるの見てラガナも警察車から降りる。狙撃銃スナイパーライフルを肩に下げて前にいるラガクを眼で追う。

「……!?」

 生存者に近づくラガクの背後に゛何か″が降りて、鋭利な爪をもった腕を振り上げている。

「避けてッ!!」


 無線機からラガナの声が聞こえると、ラガクは我にかえって背後の気配に気が付き前の少女を抱き込む。

 左肩に強い衝撃と金属が擦れる音が聴こえて吹き飛ばされて地面に叩きつけられる。反撃しようとしたが少女を抱いたままでは出来ない。

「ラガク! 今のうちに逃げて!!」

 狙撃銃で゛何か″の頭部に攻撃を加える。゛何か″はラガナに気づき襲いかかって行く。ラガクはその間に落とした散弾銃を広いあげてローランド達がいる警察車に向かう。

「こっちよ、化物!!」

 ゛何か″は雄叫びを上げて鋭利な爪で凪ぎ払う様に攻撃してきたが、ラガナは上手く横へと避けて至近距離で狙撃銃の弾丸を食らわせた。だが怯むことなく゛何か″はもう一方の手でラガナの右腕を掴む。

「あッ!!」


 警察車までくるとラガクは焦りながら告げる。

「この子を頼む……」

「一体どうするつもりだ!?」

 ローランドが引き止めてきたがラガクはポーチから注射器を取り出して渡す。

「もし、ZONBIに噛まれた時に使え。さあ、行け!!」

 警察車のドア閉めてラガクは散弾銃を片手にラガナの助けに向かう。

「クソッ!」

 無線機を取ると手早く後ろの警察車に伝えた。リーネットは少女を抱き抱えて慰める。トミロヤが降りようとするが、ローランドが叫ぶ。

「行くな! お前が行っても何にもならない」

 警察車を発進させると後ろの警察車も後に続く。生存者達は二人の兵士を見届けて急ぎ足にその場を離れた。


 ラガナは左手で戦闘用の鉈でさらに拘束を試みる触手を切断する。その間にラガクは側面に回り込むと散弾銃を近接で食らわせた。゛何か″は唸り声を上げてラガクに向かってラガナを放り投げられる。

「えっ!?」

「クッ!!」

 ラガクは受け止めようとしたが支えきれずにそのまま二人とも地面に叩きつけられた。

「ラガナ、大丈夫か?」

「何とか……どうする?」

「一旦、体勢を立て直す」

「了解」

 ラガナとラガクは路地へと走り込みその場から離れる。ラガクは途中でガスボンベを見つけると引き倒し、追ってくる゛何か″が近くにきた時にラガナは振り返りると狙撃銃でガスボンベを爆発させて゛何か″を巻き込んだ。




 ジープから降りて荷台から鉄製の大型ケースから散弾銃ショットガンを取り出して弾を込めていく。ケースには散弾銃以外にも手榴弾グレネードや弾薬が入っている。それらを防弾防刃ベストのパウチに入れて戦闘準備を整えた。

「まずはスウシン製薬会社から調べるか……」

 トロリーの知る限りではこのバイオハザードには容疑者がおり、そいつを捕まえることが目的なのだ。容疑者の一人がスウシン製薬会社の研究員のウォルター博士。主な研究は生物ウィルスであり、生物ワクチンの研究も行っている博士だ。博士が犯人かは定かではないが何かしらを知っているに違いない。


 スウシン製薬会社の建物内に入ると感染者がノロノロと歩いている。格好からしてどうやらここの社員だ。拳銃ハンドガンのレーザーサイトの光線を手早く頭に狙いをつけて一撃で仕留める。その音を聞いてかは知らないが更に感染者が現れた。

「どうやらここも汚染された後らしい」

 現れた感染者を一体ずつ確実に仕留めるとトロリーはエレベーターに向かうが電源が落ちているようでスイッチを押しても反応がない。

「やっぱり楽は出来ないか」

 トロリーは落胆しながらカウンターに向かい散乱したコピー用紙をどけて電源の入ったコンピューターのモニターを確認した。

「何か使えるデータはないのか……」

 コンピューターのファイルを物色するがあまり使えるデータはなく、この建物の地図を携帯端末機にダウンロードする。

「二階建ての会社かと思ったがやっぱり地下がある」

 なんと言うか、ありきたり過ぎるがこういう建物には地下があるのだ。理由はいくつかあるだろうが研究がしやすいからだろう。

「まずは探索でもするか」

 一階の各部屋を回って行くが生存者ではなく感染者ばかりだ。いくつか部屋にはドアロックがかかっており、立ち入ることが出来ない。

「カギがかかってるな、カードキーは……!」

 トロリーは素早く振り返ると近くまで迫っていた感染者に日本刀を抜き、斬撃を見舞うと更に脚をかけて転倒させて止めを指す。その感染者は警備員らしく拳銃や警棒を所持していた。

「やっぱりな」

 警備員のポーチからカードキーや拳銃の弾薬を抜き取り、立ち入れない部屋のドアロックを解除して中の探索を始める。

「武器や弾薬があるところからして武器庫か……」

 部屋の中央には机があり、コンピューターが一台置いてある。電源はついていていかにも見てくださいってアピールしていた。

「ありきたりだが……見るか……」

 画面を見ると『緊急警備命令』と出ている。いかにも怪しい。

 『全警備員に告ぐ、現在地下研究施設でサンプルの実験が行われている。非常時に備えて研究施設の出入口を警備せよ』

 察するにサンプルと言うのがこの現状の原因だろう。内部の誰かが暗躍したか、何らかの事故によって起きたか……。

「サンプルとはなんだ……?」




 ラガクとラガナは息を切らしながら、バックアップウェポンがあるエリア4Dに到着していた。

「やっと着きましたね……」

「ああ、装甲服を着てのマラソンは流石に疲れるな……」

 ラガナはヘルメットとガスマスクを取りながらラガクの方を見る。相変わらずガスマスクやヘルメットを取っていない。

「予定通り、装備を整えたらスウシン製薬会社に向かってウォルター博士とチェン社長を捜索する」

「了解」

 二人は大型の木箱を開けて、中に入っている武器を取り出して点検を始めた。

「見た目の割には軽いですね」

「本体は軽くなってるが、バックパックが相変わらず重量があるがな」

 ラガナが点検しているのは回転式機関銃ガトリングガンである。ラガクが背負った二千発の弾薬とバッテリーが一緒になったバックパックを組み合わせることにより個人運用が可能であるが、軽量化が図られたものの重量は軽くはない。

「はい、レーザーサイトも取り付け済みよ」

 ラガナは回転式機関銃をラガクに手渡す、ラガクは受け取り回転式機関銃のレーザーサイトとヘルメットに付けられた光学照準器とリンクさせて点検を行う。そしてスウシン製薬会社に向かうのだった。


 ラガクやラガナが引き付けた為、無事に゛何か″から逃れ危機を脱したかに思えたが新たな問題に直面していた。

「クソッ、やっぱり駄目だ!」

「他の道を行くしか……」

 三番自動車道の道路を塞ぐ様にバリゲートが造られている。まるで脱出を拒むように。

「でもなんでこんな物が造られているんですかね?」

 リーネットが疑問を呟き、トミロヤ達も思案に頭を巡らせた。

「……ゾンビを出さない為にか……」

「あるいは何かを入れたくないとか……」

 三人で考えるが対した答えは浮かばない。それよりどうこのバリゲートを越えるかだ。バリゲートはコンクリートブロックと鉄筋や鉄板を組み合わせてできていて壊せるものでは無いし、簡単に作れるものでも無い。

「車を捨てて、このバリゲートをよじ登って越えるか、迂回して別の道を探すか……」

 警察車輌の無線機からもう一人の警官から連絡が入る。

「……どうした? 奴等か?」

「奴等です。 ですが奇妙な形をしていてこちらにゆっくり近づいて来てます」

「……奇妙な形? 数は?」

「五体だけです」

「分かった、とりあえずそっちへ行く」

 ローランドは散弾銃ショットガンを持ち、もう一台の警察車輌に向かう。トミロヤとリーネットはローランドの背中を見ながら周囲を警戒するのだった。




 スウシン製薬会社の二階へ行く階段を上りきり通路に出た途端に感染者に掴み掛かられる。

「くッ!!」

 もの凄い力で両肩を掴まれたが、感染者の頭を両手で掴み一気に有らぬ方へ捻った。

「危なかった……」

 ピクピクと痙攣している感染者に念のために日本刀で止めをさす。振り返ると更に感染者がウロウロと歩いていた。

「……」

 躊躇いなく手榴弾グレネードの安全装置を引き抜き投げつける。そして壁際に隠れてやり過ごすと、爆発が起こり廊下にいた感染者を吹き飛ばす。

「さて、社長室を探すか」

 廊下を歩いて探索しながら怪しい物は無いかを探して行く。ドアロックがかかった部屋を見つけてカードキーを使い立ち入る。

「なんだ……この部屋?」

 部屋内はいくつかのレントゲン写真や書類とファイルが置かれていた。机に置かれたクリップボードを取り上げて内容を確認する。

 『生物ウイルス・レポート 研究の結果、発見された生物ウイルスは感染力が極めて高く危険度ははかり知れない。ウイルスを投与したモルモットは個体さにより差はあるものの、凶暴化又は死に至り蘇生する。この蘇生とはゾンビに近い。ヒトに近いサルにも実験を行い試した結果も同じである。つまりはヒトにも感染する可能性は否定出きない。早急にワクチン開発を行うか、対策を立てる必要が不可欠である。 ウォルター博士』

 他にもレポートがあるところを見ると危険性や対策がかかれていた。近くにあったアルミケースにレポートやファイルを入れて行くと、部屋の外からドアが開く音が聞こえる。

「……なんだ?」

 感染者ではドアは開けられないだろうから感染していない人間だと言うことだ。




 散弾銃ショットガンを構えてローランドは不気味な五体の感染者を見据えた。

「かろうじて人型を留めているが……」

 不気味、その感染者は上半身は風船の様に膨らんでいて顔も埋没している。動きもゆっくりで危険性は低い様に見えた。

「どうします?」

「危険性は低いだろうが対処した方が良いだろう」

 ローランドは警察車輌のドアを盾にしながら、散弾銃で不気味な感染者に狙いをつけて射撃する。もろに被弾した感染者は風船が破裂するように爆発した。

「くそっ! 爆発しやがるのかッ!?」

 肉片が飛び散り一面は赤く染まる。二体の不気味な感染者が爆発に捲き込まれて同じく飛び散るがもう二体がこちらにゆっくりと近づいてきた。

「ヤバい、近づいて来てます!」

「分かってる、撃つなよ!」

「撃つなって、どうすれば良いんですか!?」

 ローランドは不気味な感染者を見て考えて閃く。

「……脚を撃て」

 拳銃ハンドガンを抜き感染者の脚に狙いを定めて撃つ。感染者の脚に命中するが爆発はしなかった。更にもう二発食らわせると感染者は野毛反ると倒れる。

「やりましたね」

「お陰で戻れなくなったがな」

 戻れないとは引き返そうにも引き返せなくなった言うことだ。何故なら爆発する感染者が道端に転がっていては車は戻れない。

「バリゲートを越えるしかないな」

「本気ですか……」




 トロリーは廊下を出ると一つの部屋のドアが空いていた。散弾銃を構えて警戒しながら進むと床には血痕が続いている。

「……まだ、新しいな……」

 部屋内を確認するために顔だけそっと出し室内を見回すと、血が付いた白衣を身に着けた人物がいた。

「何をしている……!?」

 トロリーは素早く散弾銃を向けると、白衣の人物は驚き手を挙げて懇願する。

「待て、待ってくれ、撃たないでくれっ!」

「何者だ?」

「生物研究者のウォルターだ。頼むから撃たないでくれ」

「ウォルター博士か?」

「ああ、そうだ。助けてくれないか……?」

「その前に聞きたいことがあるんだが……」

「……なんだ?」

「何故こうなった?」

「なんのことだ? 町のことか?」

「ああ」

「私は何も知らない……」

 ウォルター博士はそう言ったが明らかに何か隠していた。原因解明の為にも答えてもらわなくてはならない。

「隠すな、答えろ」

「…………」

「隠しても証拠はあるんだ」

 トロリーは抱えていたアルミケースの中身を見せる。ウォルター博士は少し動揺したが返答しかえす。

「それがなんになる? この町の状況と……」

「……答えろ……!?」

 四つある窓が急に割れた途端何かが投げ込まれる。

「グレネードか!?」

 ドアを盾にして凌ぐと、グレネードが炸裂すると、室内が光と爆音に包まれた。次に眼を開けると、四名の特殊部隊員達が室内に突入してくる。

「くそっ! 閃光弾か!」

 おぼろげな眼で特殊部隊員に狙いをつけて散弾銃で反撃を試みるが、それより早く特殊部隊員達が攻撃を行う。

「逃すな。殺せ」

 反撃を諦め、素早く廊下に出て、逃走を謀るが二人の特殊部隊員が執拗に攻撃しながら追ってきた。

「ちっ! これでも食らえ!」

 手榴弾グレネードを特殊部隊員に投げつける。二人の特殊部隊員は廊下の物陰に身を隠してやり過ごす。その間にトロリーは階段を降りて一階へと逃げる。


 下へ降りるとそこには新たに不気味に上半身が膨張した感染者達だ。

「見たことの無い感染者だ……」

 トロリーは少し悩んだが攻撃せずに強行突破を行う。普通のゾンビと違い、動きは鈍足で避けやすい。何体かすれ違い挙動不審な感染者達に接触する。

「……なんだ?」

 不気味な感染者達は身体を震わせ更に膨張してきていた。咄嗟に(とっさ)に危険を感じたトロリーは近くにあるカウンターで身を隠す。すると膨張した感染者達は上半身から自爆し始める。

「自爆する感染者か、気をつけないと巻き込まれるな……」

 階段から二人の特殊部隊員が降りてきて感染者を爆発した場所を警戒しながら捜索しているようだ。

「どうやら探してるらしいな……」

 散弾銃の弾を再装填しながら考えるがあまり名案が思い浮かばない。残り一発の手榴弾を使おうにも二人の特殊部隊員は距離をおきながら捜索していて一人は倒せても、もう一人に反撃を食らうことを覚悟しなければならないだろう。出口まではまだ距離があり、逃げ切るのは難しい。

「くそ……どうする……?」




 バリゲートを越えたトミロヤ達は辺りを見渡すが人影もなく越える前と同じような光景が広がっている。

「どうやら防げなかった見たいだな」

 ローランドは地面に転がる薬莢の一つを拾いあげて、まじまじと確認する。

「どうしたんですか?」

「ん、いや……普段この町では見慣れない弾の薬莢だと思ってな」

 トミロヤは首を傾げて何が言いたいのか判らないと言ったところだ。

「例えばトミロヤと俺が持っているモスバーグM500ショットガンは12ゲージの弾で赤い薬莢だ。拳銃はベレッタM92は9㎜パラべラム弾でこの薬莢とは形が違う。この薬莢はライフル弾……にしても知らない薬莢だ」

「ライフルってラガナさんが使っていたものもライフルですよね?」

「確かにライフルだがレミントンM700ハンティングライフルで.308弾でそれとも違うタイプだな」

「ならラガクさんとかが使っていた銃じゃ?」

「あれも見ない銃だったが9㎜弾の薬莢だったから違うな。言いたいのは軍や警察以外にも武装した連中がいるかも知れないってことだ」

 ローランドの考えは的を射ていた。何故なら次の瞬間、銃声が聴こえて民間人の男が撃たれて地面に倒れる。

「うぐぅ……」

「えっ?」

「ッ!」

「物影に隠れろ!」

 唖然としていたリーネットを庇って一人の警官がまた倒れこむ。トミロヤは背負う少女を抱き抱えると路地の角に身を隠す。ローランドは走り出しリーネットの手を引きトミロヤとは別の路地へと逃げ込んだ。残りの二人も別の路地へと逃げ込もうとするが、銃声が聴こえ警官が吹き飛ばされる。

「そんな……」

「クソッ! なんてことを……」

「なんでなの? 何故……私達を撃つの……?」

 二人が逃げ込もうとした路地から一人の人影が現れた。格好は軍人だが黒いコートを身に纏い内側にはタクティカルベストを着ている。手には散弾銃ショットガンを持ち、顔はテロリストのような覆面で覆っていて顔は判らない。




 バリゲートを越える八名の民間人が見えて特殊部隊員は無線機で連絡を入れた。

「こちら、ジェリコ。民間人が8名がバリゲートを越えた」

「民間人? 感染していないのか?」

「バリゲートは感染者は越えられない。それに武装してる」

「ハハハッ、そりゃいい。どのみち武装してようがしてまいが関係ないけどな」

 特殊部隊員のジェリコは狙撃銃スナイパーライフルのスコープに写った男に狙いをつけて引き金を引く。

 路地の角で待ち伏せていた特殊部隊員の前に警官と女が走って来るのが見える。

「クク……あっちから来てくれたぜ……」

 路地の角から散弾銃で攻撃して警官を吹き飛ばすと身を乗り出して女の前に姿をさらす。

「きゃあ!!」

「ハハハッ! いいね、最高だ! ゾンビ共は泣き叫ばないからな……」

 走ってきた女も散弾銃で吹き飛ばすと、地面に倒れる警官がもぞもぞと動いて反撃を試みようとしたが、それより早く右手を踏みつけて散弾銃を警官の頭に向けた。

「おっと、悪いな。足下が見えなくてね……」

「ッ!」

 警官の頭を吹き飛ばして黙らすと別の路地から叫ぶ声が聞こえる。

「オイ! お前!! 武器を捨てろ!!」

「はあ? お前こそ武器捨てろってんだよ! 楽に殺してやるよ!!」

 トミロヤは拳銃ハンドガンを向けて脅すが全く動じない。それもそうか、所詮は拳銃を持ってる民間人に過ぎないから。

 ローランドとリーネットは路地の角から一部始終を見ながらどうするかを考えるが、状況が切迫していて余裕がない。

「クソッ! あのバカ何考えてやがる!? アイツじゃ無理だ」

「ローランドさん、何とかしてください!!」

「今、考えてる!」


 特殊部隊員は民間人の脅しに乗ることにした。民間人に何ができるのか楽しみだったこと、町のゾンビ共を駆逐するのに飽きたからだ。

「クク……、ジェリコ。そっちは任せる」

「……」




 受付のカウンターに隠れながら様子を確認するとトロリーは一人の特殊部隊員に手榴弾グレネードを投げつける。

「ヤバイ! グレネードだ!」

 特殊部隊員は避けようと逃げるがそのまま爆発に巻き込まれた。

「クソッ! 殺りあがったな!! これでも食らえ!!」

 もう一人の特殊部隊員がトロリーがいた受付カウンターに手榴弾を投げ込む。

 カウンターが吹き飛び書類等の紙くずと爆煙が巻き起こる。

「……殺ったか?」

 突撃銃アサルトライフルを構えて警戒しながら近付く。銃を構える音がして受付カウンター足下付近から特殊部隊員の脚に散弾がめり込んだ。

「グハッ!!」

 倒れ込む特殊部隊員に容赦なく拳銃ハンドガンを頭に向けて脅す。

「ガハッ……クソッ! グレネードで死ななかったのか……」

「お前達は誰だ……?」

「ハッ! お前に名乗る必要なんてないな……ッ!!」

 トロリーは拳銃の引き金を引き特殊部隊員を射殺する。射殺したのは、特殊部隊員がホルスターに手を掛けたからだ。

 トロリーは受付カウンターに座ると、救急セットを取りだし負傷した箇所に消毒スプレーを吹き掛ける。

「生きてるが負傷はしてる……」

 生き残れたのは、受付カウンターの引き出しを抜き取って盾にしたからだ。所詮、引き出しでは身体全体を隠すのは無理で、手や脚に破片が刺さっている。

「ああ、くそっ! グレネードなんか投げ込みやがって……」

 処置を終えて立ち上がろうとした時、出入口から人影が見えた。

「敵なら一貫の終わりだな……」




 建物の影でトミロヤは少女をローランドに預けると告げた。

「僕が囮になりますから今の内に逃げてください!」

「それなら俺がやる」

「リーネットとその子を連れて行ってください! 僕はあまりこの町を知りませんから脱出場所までは連れて行けませんし、それに……」

 トミロヤは腕の引っ掻き傷を見せる。既に傷は化膿を始めてきていて少し前の傷だと分かった。

「ゾンビに……?」

「ええ。ローランドさん達に会う前に……ゾンビの犬に引っ掛かれました」

「そんな……あの時に……」

 リーネットが声を漏らしたが続ける。

「一度経験しているから分かるんです。どうなるかは……」

「待て、だったらラガクに渡されたこれがある」

 ローランドが取り出したのはラガクから渡された注射器だ。

「たしか……ゾンビに噛まれた時に使えと言っていたはずだ」

「トミロヤさん、それならもっと早く言えばラガクさん達から貰えたのに……」

「ごめん。心配かけたくなかったし、数があるわけじゃないと言っていたからさ」

 トミロヤは腕をまくると注射器を打とうとしたが、どうしたらいいか判らないという行動をする。

「あ、私が打ちましょうか? これでも、お父さんがお医者さんなんですよ」

 手慣れた感じで注射器をもちトミロヤに打つ。

「ッ……ありがとう」

「どう致しまして……」

「その実は……リーネットさん。生きて帰れたら……その……」

「なんですか……?」

「いや、なんでもないです。もう行きます」

 トミロヤは言おうと思ったがやめて走り出した。




 特殊部隊員はトミロヤに散弾銃ショットガン向けながら確認して叫ぶ。

「そんなところにいたか! せっかく逃げる時間を与えてやったのになぁ!!」

 逃げる時間――つまり特殊部隊員は余裕で待っていたのだ。なぜなら戦ってもすぐにケリがついてしまう。それでは面白くないし、どのみち逃げられてもジェリコか他の特殊部隊員に見つかれば殺られる。

「あまり油断するなよ」

「うるせぇ、ジェリコ。お前は手をだすな」

「残りの3人は?」

「ほっとけ、どうせ逃げられても同じさ」

 特殊部隊員のジェリコは無線機に『了解』と告げて送信ボタンから手を離して受信に切り替えると狙撃銃スナイパーライフルのスコープを覗く。捉えたのはゾンビ共の群れだ。

「ふん、まあいい。一人減れば報酬は増えるからな」




 特殊部隊員の隊長らしき男が覆面を取り、ウォルター博士に近づき尋ねる。

「ウォルター博士。地下の研究施設に行くには?」

「君達は何者だ?」

「私達は見ての通りものです。まあ、実際は少し違うかも知れませんが……」

 ウォルター博士は少し考えるが目の前の特殊部隊員達が何者かは検討がつかない。先程のロングコートを着た刑事のような男とはまた違う。

「研究施設に行ってどうするつもりだ?」

「無論、研究サンプルと各種データの回収と破棄を行います」

「君達はこの現状を理解しているのか……?」

「町にいる感染者や得体の知れないものこと以外ですか?」

「何故そこまで知っていてサンプルを欲しがる?」

「利用価値があるからでしょう。ウォルター博士、時間がないのです。研究施設に行くキーカードを渡して下さい。協力してくれればここから無事に連れ出します」

「キーカードは渡そう。だが、私はあそこには戻りたくないのだ」

「……まあ、いいでしょう。2人の部下を護衛につけます」

 ウォルター博士は特殊部隊長にカードキーを渡す。隊長はカードキーを受け取ると他の特殊部隊員に渡し、近くにいる二人の特殊部隊員に護衛するよう指事する。

「隊長、報告します。下の2名から連絡がありません。それと2人の軍人らしき者が、こちらに向かっています」

「……軍人だと? 特徴は?」

「身体に装甲を身に付けた兵士で、ミニガン等で武装しています」

「軍人か……厄介だな。部屋に爆薬を仕掛けろ」

「了解」

 隊長らしき男は顔をしかめながら無線機を取りだし連絡を入れた。

「全バリゲートを爆破しろ」

「感染者が侵入しますが……」

「構わん。残らずバリゲートを爆破して感染者を入れろ」

「了解しました」

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