前編
町が生物兵器に汚染されたのは三時間前だ。使用されたのは生物兵器―ZONBIが使用され、瞬く間に感染者が増えて町は政府により封鎖される。
問題は感染していない生存者を救出すること。政府はただちに救出部隊を編成し、町へ送り込むのだった。そして二人の火消し部隊の隊員も送り込まれる。
二機の多用途用ヘリ、UH-1イロコイと一機のタンデムローター大型輸送用ヘリ、CH-47チヌークと呼ばれる三機のヘリが昼間の上空を飛行して町に進入していく。大型輸送用ヘリの後部ハッチが開き、二人の隊員と一個の小型コンテナが降下して行った。
パラシュートが開き、五階建てのビルの屋上に着地する人影。パラシュートを棄て無線機に告げた。
「こっちは予定通りのエリア8Fに降下した」
「エリア6Gに降下。あとバックアップ装備は予定ポイントから離れてエリア4D付近に」
「まずはエリア7Fで合流する」
作戦指揮を執るラガクは全身に装甲を身に纏い、強化された鉄兜を被り、顔もまた防弾性能を兼ね備えたガスマスクで覆われていて重装備だ。
「感染者を発見」
「早速遭遇か……」
ラガクはそう言いながら短機関銃と拳銃の安全装置を解除して戦闘準備を整える。
下に行く非常口を見つけて手早くドアノブ破壊して階段を降りて行く。
「……まるで廃ビルだな」
数時間前まで人々が仕事をしていたとは思えない有り様だ。オフィスの窓はところ所が割れて外の景色が見え隠れしている。机には書類が散乱していて廊下にまで散らばっていた。
「生存者はなし……」
ノロノロと歩く人影がある。動きからして生存者とは異なる動きだ。そして衣服は血に染まり、首筋からは出血している。
左腰から戦闘用の鉈を引き抜くと頭に斬撃を見舞う。感染者は倒れてピクリとも動かなくなる。頭、つまりは脳にダメージを受ければ感染者は死体へ還るのだ。人類が過去に何度か遭遇したゾンビの対処法である。
「ラガナ、こっちも感染者と遭遇。タイプはBZOだ」
「こっちもBZO」
BZO(bio-ZONBI-old)である。過去の遭遇から分析したゾンビのコードネームだ。ゾンビにはいくつかのバリエーションが発生してきている為コードネームで分類されている。
更にロビーへ降りて何体かのBZOと対峙しつつビルの外へ出た。
外は悲惨な光景が広がっている。車道には事故車両があり、建物からは煙が上がり、地面や建物の壁には血が付いていた。
「…………」
兵士と言えどもこういう光景は慣れてはいない。ガスマスクをしているお陰で臭いはしないがきっと酷い臭いだろう。
「ラガク、エリア7Hに向かう生存者を2名確認」
「状況は?」
「何から逃げて……BZDに追われてる!」
「エリア7Gで合流後、助けに向かう!」
状況は切迫している。なにしろBZDに追われているのだから、BZD(bio-ZONBI-dog)は犬が感染したものだ。人と違うところは足が早いのと、嗅覚と聴覚が優れていること。BZDから逃げるのは難しく、生存者が生き残る可能性は低い。
追われている二人の生存者は狭いビルの間に路地を見つけて、その中に逃げ込んだ。
「……!!」
狭い路地の向こう側は輸送車が突っ込み路地の出口を塞いでいる。二人の生存者は来た道を戻ろうと引き返そうとするが……。
「きゃ……犬が……!」
生存者には絶望的過ぎる状況。生存者の一人が近くにあった鉄パイプを拾い上げるとこう告げた。
「犬は惹き付けますから、あなただけでも逃げてください!」
「そんな、でも……あなたは……」
「大丈夫です。惹き付けたら上手く撒いて逃げますから!!」
鉄パイプをブラブラさせてゾンビ犬の気をこちらに向けさせる。するとゾンビ犬は反応する様に首をかしげた。そして狙いを定めたのか、一直線に走り出す。
「今だ、逃げて!!」
もう一人の生存者が走り出すと同時にゾンビ犬は鉄パイプを持った生存者に飛びかかる。避けようとしたが、ゾンビ犬の全体重をかける飛びかかりは想像以上の力があった。
そのまま押し倒されるとゾンビ犬は鋭い牙を見せて噛みつこうと襲ってくる。なんとか鉄パイプでそれを押さえて抵抗して、庇った生存者が走って路地を出るのを見届ける。
「くそッ! 放せ!!」
ゾンビ犬は鉄パイプにがっちり噛み付き、引き離そうと首を左右に振りまくる。生存者はゾンビ犬の腹に渾身の蹴りを見舞って弾き飛ばす。
「うわぁぁぁーーーー!!」
雄叫びを挙げてゾンビ犬の頭に鉄パイプを降り下ろす。頭蓋骨が砕け散って肉片が飛散した。
「……やった?」
荒く息をつくと力が抜けてへなへなと座り込む。ゾンビ犬を見るともうピクリともしない。
「え……?」
入って来た路地を見るとゾンビ犬がいた。生存者は立ち上がろうとするが立てない。
「そんなもう1匹くるなんて……」
走り出すゾンビ犬。そしてゾンビ犬の体が蜂の巣になった。一体何が起こったのかわからない。声が聞こえた。
「――――ろ、大丈夫か?」
エリア7Gでラガクとラガナは合流すると、二人の生存者を救出するためにエリア7Hへと向かう。その途中で何体かの人型ゾンビのBZOと交戦しながら進んで行く。
「前方にBZOを確認!」
「前進する道だけ、確保すればいい!」
三点射撃して確実に頭に攻撃を当てて無力化する。まだ動きが鈍い奴等は危険を最小限に抑えて無力化できるが動きのいい奴はこうはいかない。BZOの足下を上手くすり抜けてゾンビ犬――BZDが飛び掛かってきた。
「BZDだ!」
そう叫び、危険をラガナに伝える。短機関銃を保持していた左手を腰の戦闘用の鉈を掴み引き抜く。BZDは鋭い牙を立て襲ってきたが、抜かれた鉈は頭に鋭い斬撃を与えてゾンビ犬を二つの肉塊にする。
「ラガク、1名生存者を発見」
ラガナは逃げる生存者の後ろにいるBZOに狙いを定めて叫ぶ。
「伏せて!!」
逃げる生存者は慌ててしゃがみ込むと、間髪入れずに短機関銃の射撃音が聞こえてゾンビの頭に風穴を開けた。
「大丈夫ですか?」
「ああ、あの……助けて!!」
「もう大丈夫ですから落ち着いて下さい」
「違うの、もう1人が犬に襲われて!!」
「何処ですか!?」
二人は場所を聞くとラガナは生存者を保護し、ラガクは足早にもう一人の生存者がいる路地に突入した。
路地を見ると、BZDがしゃがみ込む生存者に襲いかかるところだった。
「間に合うか!?」
狙いを定めて連射射撃で攻撃を見舞う。ゾンビ犬の体全体に弾は命中し、蜂の巣されたがBZD転がる。
生存者は無事だが、ピクリとも動かない。
「しっかりしろ、大丈夫か?」
返事がない。肩を揺さぶり、もう一度確認するが返事はない。どうやら気絶しているようだ。やってきたラガナと生存者が訊ねてくる。
「生存者は無事?」
「その彼……大丈夫……何ですか?」
「心配するな、気絶しているだけだ」
問題は気絶していることだ。置いていく訳にはいかないし、ここで待機する訳にもいかない。どちらも危険すぎる。
「ラガナ、銃を頼む」
短機関銃をラガナに手渡すと、ラガクは生存者の体を横にして背負う。この背負い方を行うのは比較的走り安い為だ。
「よし、問題ない。ラガナ先導してくれ」
「了解」
ラガクにラガナと生存者二人は一時的にエリア6Hにある雑貨ビルに避難していた。
「しばらくは安全だな……」
「店内の安全は確保」
「生存者の二人は?」
「奥の食糧品店に」
「そうか……」
ガスマスク越しにも伝わる戸惑い。ラガナは疑問に思ったことを聞いてくる。
「生存者の二人をどうするか……?」
「まあ、そうだな」
ラガクは短機関銃の弾庫を抜き取り残弾を確認しながら答えた。
ラガナはヘルメットとガスマスクを取り、一つに束ねたロングの髪をほどきつつ聞き流す。
「残弾がマガジン1つに残りが18発か……戦闘継続は微妙だな。まずはバックアップを回収するのが先決だが……」
「生存者が生き残れるとでも……?」
「生存者を置いてなら行けるんだがな」
「見棄てる気? 面白くないジョークよ」
向けられた眼差しには『貴方はそんなことする人ではない』と語っている。エリアマップを広げてラガクは顎に手を当てて考え込む。
「エリア4Iに交番があるな。弾薬が補給できて、生存者を預けられるかもしれないな」
「……弾薬はともかく、預けるのはこの状況下では期待しない方が無難よ?」
奥の食品店では二人の生存者が店内を見回しながら歩いている。
「ああ、気絶してたなんて……迷惑かけたなぁ……」
溜め息混じりに男性は呟いた。それを見たもう一人の生存者の女性が励ます。
「そんなことないですよ。彼等は助けるのが仕事ですし、仕方ありませんよ」
「そうかなぁ……? しかも聞いた話だと……カッコ良すぎだよ……」
「そうですね。もう手慣れた感じで戦ってましたね♪」
女性は嬉しそうに答えた。男性は悔しそうに嘆く。
「……でも……貴方もカッコ良かったです」
「……えっ?」
「何でもないですっ!」
顔を赤らめ照れる女性。男性は聞き逃した言葉を聞こうとするが別の話にすり替えられる。
「名前……聞いてないですね?」
「えっ、ああ、そうだった。ブランシャ……ブランシャ・トミロヤ」
「私はリーネット・ロトです」
「お互い、変わった名前ですね♪」
「リーネットさんは……普通じゃないかな?」
「さんはいらないですよ。リーネットで」
「なら……こっちもトミロヤで……」
「分かりましたっ」
ラガナはガスマスクを腰のポーチに入れ、ヘルメットと短機関銃を持った。
「じゃあ、私が説明してきますよ」
「ああ、頼む」
広げたマップを片付けて、ラガクも立ち上がり、ラガナの後に続く。雑貨ビル内は決して広くはなく、店舗数は一階で八店舗だけだ。生存者の女性がこちら見つけてお辞儀をする。
「あの、兵隊さん。さっきは助けてくれてありがとう」
「気にしないで、兵隊が国民を助けるのは当たり前だから。でも嬉しいわっ」
優しく微笑んでグローブを取り、全指先と肘より上以外は包帯が巻かれた手を差し出した。
「私はラガナ。あっちにいるのがラガクよ」
「えと、リーネット・ロトです。リーネットって呼んで下さい」
リーネットは差し出された手を両手でがっしり握り返す。
「リーネットね。貴方の名前は?」
「……ブランシャ・トミロヤです」
熱があるのか手が震えている。ラガナは手をトミロヤのおでこに当てて確認する様に聞く。
「……寒い?」
「えぁ、うあっ……そんなことないですっ!?」
挙動不審だが熱は無いようなので手をおでこから離した。顔も赤くなっているのでもう一度聞いたが無いと言っているので追求はやめて本題に入る。
「……交番まではどのくらいなんですか?」
リーネットが手を動かして不安そうに尋ねた。
「歩いて10分くらいだけど、多分もっとかかるかな」
先ほどまで聴いているばかりだったトミロヤが呟く。
「それは奴等がいるから……?」
ラガナは頷き、握りこぶしを胸に当てて力強く言う。
「貴方達は私達の命に懸けても守り通すから、安心して」
二人は決心した表情で頷くと、ラガナは笑みのある表情に変える。
「さて、そろそろ移動するか。ラガナ先頭は任せる、後ろは任せてくれ」
「了解、ラガク」
交番へ向かう為、エリア6Hにある雑貨ビルから抜け出す四人。
「時間がないから手短に話すがよく聴いてくれ。まずはZONBIだがあいつらは音に敏感だ。寄ってきても悲鳴や叫ぶのは止めとけ、もっとZONBI 共を呼ぶことになるからな」
「ZONBIには幾つかの種類が有るんだけど、まずノロノロ歩いてるZONBIはすぐに黙って走れば逃げれるけど……あとトミロヤ君が1匹倒した犬なんかもいるの。見つけたらすぐに伝えて」
「他にも怪しいものや生存者がいたら伝えてくれ。何か質問は?」
雑貨ビルから二○○メートルくらい歩いて来たが、ZONBIは一体も見当たらない。周りには血の跡や車がある。車のガラスには血の手跡が残されていて見るだけでも感染しそうだ。
「あの……質問があるんですけど、そのゾンビって映画のゾンビなんですか?」
ラガナはリーネットを見ると怯えた表情が見られ、足下もおぼつかない。
「私達はそっちのゾンビとは呼んで無いけど意味は同じね。ローマ字でZONBIって呼んでるだけでZONBIはゾンビよ」
「映画によって異なるだろうが最近のゾンビ映画とは少し違うが、殆ど同じものと思っても問題無い。噛まれたら遅かれ早かれZONBIにはなる。だが助けれない訳じゃない」
ラガクはそう言って腰のポーチから注射器を取り出した。普通の注射器とは違い、針にはクリアカバーが付いていたが、それでも太く長いと感じる針が付いている。
「これを打てばZONBIにはならない。もしも噛まれた時の手段の1つだ」
「でも私もラガクも1本ずつしか持って無いから噛まれない用にね。それに数体ならまだいいけど、群れに襲われたりしたら助けれられないから」
「群れにってどんな状況ですか?」
希望の眼差しが恐怖に変わったトミロヤが聞き、リーネットも同じくラガナを見た。
「それは……」
「つまりは何だ……あるだろ。よくゾンビ映画で大勢のゾンビに引き込まれて喰われるシーンが。あれみたいになると無理ってことだな」
リーネットはかなり精神的にダメージを食らったようだ。トミロヤは意外に対したダメージではないらしい。ラガナに睨まれラガクは精神的に痛むのか、それとも良心が痛むのかは分からないが付け加える。
「だが、心配するな。ラガナがさっきも言った様にトミロヤやリーネットは命を懸けても守る……」
そう言ってラガクは他の方に首を向けると、その先には奇妙な物体があった。それは生き物の様だが形はこの世の生物とは似つかない形であり、色は斑尾なような迷彩で透過している。
感覚と経験が伝えてくる嫌な予感。
「ラガナ、交番までは後どのくらいだ?」
「あと800メートルくらいだけど?」
「全員……走る準備をした方が良さそうだな」
エリア5Iまで来たところで予期せぬ遭遇だった。気が付いたのは偶然だが、これが幸いして心と走る準備が出来たからだ。
「800メートルくらい走れるだろ?」
「ちょっと厳しいかも……」
「……微妙です」
「二人とも死ぬ気で走りなさい」
ラガナは二人にそう告げて走り出す、二人も慌てて走って追いかける。ラガクは三人が行くと同時に奇妙な物体を確認しつつ、警戒した。
「頼むから動くなよ……」
神にでも祈る様に呟き、短機関銃の引き金に力が入る。奇妙な物体はモゾモゾと動き出して脱皮するかの如く何かが現れた。
「……クソッ!!」
何かに照準すると弾倉にあるだけの弾を撃ち込む。弾倉を抜き取り再装填を行う。何かはもろに銃弾の雨を浴びて暫くは動かないでいたが、立ち上がると触手の様なもので攻撃してきた。
「!!」
即応体勢でいたラガクは軽く攻撃を避けて、さらに何かの本体に銃弾を撃ち込む。
「……弾が切れだ!」
短機関銃を背中に下げると右腰から拳銃を抜き照準する。何かの本体から霧状の液体が飛び散った。
「!?」
何とか避けようとするが、液体が手や肩に付着する。更に三本の触手が現れて攻撃してくるが、戦闘用の鉈を引き抜き攻撃してきた一本の触手を切断する。
(液体には何も効果が無いのか?)
警戒していた付着した液体には何も効果が見られず、むしろ囮の役割のようだ。右手に触手が絡み付き拘束しようとしてくる。
「クッ!」
戦闘用の鉈で拘束を試みた触手を切断して本体に銃弾を撃ち込む。だが先ほどの液体の様なものが吹き出して更に幾つかの触手が現れる。
触手は同時にラガクの体を拘束しようと襲ってくるが、近くにある車を遮蔽物にして回避した。
「ラガナ、交番には着いたか?」
「もうすぐそこよ! そっちは大丈夫!?」
「ああ、全然問題ない!」
周りを見て驚愕した。先ほどまでBZOがいなかったのにちらほらと歩いてくる。
「騒ぎ過ぎたか……そろそろ逃げるか」
一番近くにいたBZOの足を一発撃ち込み、怯んだところに戦闘用の鉈を口から刺し込んで首ごと捻りながらBZOの後ろに回り込む。そしてそれを盾にして触手から身を守る。
触手は拘束したBZOを引き寄せようと手足や胴体に絡み付いてきた。ラガクはそこで戦闘用の鉈を口から引き抜きBZOから離れる。そのまま引き寄せられたBZOを確認しようとしたがそれは他のBZOが許さなかった。
ZONBIは更に現れて群れになりつつある。群れに襲われればただではすまないだろう。ラガクの近くにいたBZOが襲いかかってくる。
「どきやがれ!!」
戦闘用の鉈で斬撃を見舞いBZOを撃退するが、次からつぎえと噛み付こうと襲いかかってきた。更に拳銃と組み合わせて使って頭に銃弾を撃ち込み、戦闘用の鉈で斬撃や刺突を食らわせて抵抗する。何とか切り抜けてBZOから逃げ出すことができた。
エリア4Iの交番に付き驚いた。そこは要塞の様にバリゲートが作られて上には狙撃手がいて、二階の窓からは何人かの警官が武器を構えている。周囲にはZONBIの死体が転がっていた。
「あんた達こっちだ!」
一人の警官が二階から手を差しのべて合図している。合図に従い正面入口から裏手に行くと消防車から梯子が伸びて二階の窓に架けてあった。
「そこから昇ってきてくれ」
「分かったわ!」
生存者の二人は息を切らせながら梯子を登ろうとするが、リーネットが叫んだ。
「きゃ! 上は見ないで下さい!!」
「え……!」
反応して上を見上げてしまい。スカートの中がバッチリ見えた。そして次に見えたのは靴の裏だった。
「ぶふっ!!」
顔面に猛烈にヒットし、気絶しかけるが何とか持ち直すして耐える。
「何も見てないからっ!!」
「絶対に見えたでしょ!!」
「何色なんて僕は興味ないから!!」
「やっぱり見たのね!!」
(早く昇って!!)
ラガナが心で叫び、少しして我に返ったリーネットは梯子を昇りきり、トミロヤも鼻血を出しながら昇り続けた。
「ラガナ、交番には着いたか?」
「ラガク、生存者も無事だし交番には警官もいる」
「了解だ。今そっちに向かってるが何人かお客さんがいる」
背中に下げていた短機関銃を右手に持ち、近くにいた警官に告げる。
「戦闘準備して! 奴等がくる!!」
交番では警官達が慌ただしく動いていた。ラガナは近くにいた警官を捕まえて聞く。
「余りの武器はある?」
「その机の散弾銃が余ってますよ!」
「ありがとう、借りるわよ」
そう言うと机に置いてある散弾銃を取り、ともに置いてある弾薬に手を伸ばして装填していく。
「ゾンビだ!!」
警官達が叫ぶとラガナは正面から走ってくるラガクの後ろにゾンビがいることを認めると射撃を開始する。ラガナは短機関銃で狙いを定めて確実に仕止め、警官達も狙撃銃でZONBIの頭に風穴を開けていく。
「ラガナ、武器はあるか!?」
「受け取ってッ」
ラガナは散弾銃をラガクに投げて渡す、受け取ると間近に迫っていたBZOに食らわす。
「いい選択だ!」
「そう?」
ポンプアクション式の散弾銃なのでポンプ動作を行う度に薬莢が排出され、次弾が装填されて発射される。散弾は弾が12発程度に拡散する為、ある程度の照準を行えば標的に命中する。そして近接にいるZONBI共には頭を的確に狙う必要が緩和される為に有効だ。
「BZOを殲滅」
「これでしばらくはやって来ないだろう」
周りには薬莢とピクリとも動かない多数のZONBIの死体が転がっている。
エリア4Iにある交番は二階建てで中はコンビニ位あり、一階はバリゲートが作られてZONBIの浸入を防ぎ、二階から警官達がZONBIを仕止めると言う戦法で持ちこたえたらしい。
兵士二人に三人の警官達と四人民間人が二階の部屋でラガクの話を聴いていた。
「救助してもらうにはそのエリア9Aの避難場所に行く必要がある」
「ここにヘリとかは呼べないのか?」
一人の民間人の男性が尋ねた。警官達や民間人もラガクを見て『呼べないのか?』や『なんとかならいのか?』と懇願の眼差しで注目している。
「呼んでやりたいが出来ない。……まず我々は君達が思っている救助部隊じゃない。個人用無線機しか持ってないからヘリはおろか君達生存者がいることも知らせれない。だから避難場所に行かなくては助かる見込みはない」
「どいつこいつも……役に立たないんだなッ!!」
尋ねた男性は怒りを露にして側にあった机を蹴った。そして怒りの矛先を警官にもぶつける。
「あんたら警察もだ! 助けて欲しい時は役に立たない!! 俺は……家族を全員……奴等に……ゾンビに喰われたんぞッ!! なのに……お前らは何にも出来ないのかよッ!!」
回りは静まり返り、警官達はすまないと表情を浮かべて謝罪する。
「謝っても、遅いんだよッ! 家族を還してくれよ!! どうなんだよッ!!」
警官の襟首を掴むと男性は睨み付け、涙を流して怒った。ラガナが立ち上がり、男性は振り返ると頬に平手打ちを食らう。
「貴方の家族には申し訳ないことをした……。でも、貴方だけが家族を失ったと思ってるの!? ここにいる皆にも家族や友人がいるし、ゾンビになってしまった人達にもいたのよッ!! なのに貴方は自分だけが辛いと思ってるのッ!?」
静止させようとラガクが立ち上がるとラガナは睨んでそれを拒否した。
「……」
「家族を思えるなら……分かる筈よ?」
「……悪かった」
男性は涙を吹きながらもとの椅子に座る。ラガナも壁際に持たれてラガクを見た。他の六人も何も言わずに黙り込む。
「君の家族には心から我々部隊から謝罪する。彼女が言ったように我々にも家族や友人がいるが、我々は君達を全力で避難場所に連れて行く。たとえ己を犠牲にしてもだ」
トミロヤが立ち上がってラガクに質問する。
「生き残るにはそれしかないんですよね?」
「ああ、避難場所に行くしかない」
「なら……そこまで行く。ゾンビ達の仲間入りはしたくないから」
さらにリーネットが立ち上がりトミロヤに加勢する。
「わ、私も……友達に会いたいし、こんな所で死ぬのは嫌だからトミロヤに賛成っ!」
「そこに行くしかないなら行くまでだ。お前ら何してやがる? 警官が民間人を守らなくてどうするんだ?」
年配の警官ローランドに言われ、二人の警官も立ち上がると賛成をした。もう二人の生存者の女性が立ち上がり、更に後押しする。最後になった男性も立ち上がってばつが悪そうに呟く。
「わかったよ、行けばいいんだろう……」