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一通り取り乱してみてからしばらくの後、徐々に落ち着きを取り戻しました。
改めて状況を見直してみますが、
ディスプレイが映し出す現実は全く冷たいものでした。
愕然とするというのはこういう事なのでしょうか。
惨憺たる状況に只々打ちひしがれるのみで、その日は暮れていきました。
次の日も、その次も、何日たっても状況は変わらず、
後から投稿された動画の方が数字が伸びている始末。
更新ボタンを何度も何度も押してみました。
もちろん変化はありません。
何がいけないんだろう?どうしてだろう?どうしたらいいんだろう?
・・・いや「どうしよう」
今、改めて自分の動画を見てみると、
人前に晒すに値しないとまではいかないものの、
やはりその出来は、他の方の作品に比べてだいぶ劣るものだと分かります。
そう言えば「動画を荒らされたら一人前」なんて事をどこかで聞きましたが、
僕の動画は荒らすに値しないという事が残念ながら理解できます。
なるほど、視聴者のこの動画に対する扱いは当然といって良いでしょう。
頭では理解できますが、生まれて初めて曲を完成させ、
動画を付けて多くの人目に触れるところに投稿する、
そんな初めて尽くしで一種の興奮状態だった僕には、
そのあまりに薄い反応に大きなショックを受けたのです。
その頃はまだ、ボーカロイドをとりまく製作者側の状況は
バブルと言えるものでした。
とにかくある程度の曲のクオリティと、インパクトあるサムネイルであれば、
それなり再生数が伸びてファンがついてくれるようでした。
万人受けしそうな、J-pop的な曲は勿論のこと、聴く人を選ぶであろう、
所謂「アンダーグラウンド」に属するような難解な曲、
さらにはその時々で話題となったニュースをイジる
「ネタ曲」も人気がありました。
とにかく、ありとあらゆる個性が認められていました。
そんな状況の中で僕の曲は、普遍性も個性もない、
構うに値しない、単なる「駄曲」の判定が下されたのです。
それでも、「もしかしたら」という淡い期待をこめて自分の動画を開きます。
そして、伸びない再生数をよそに変化した数字がありました。
しかしそれは、有難くない全く余計な変化でした。
マイリストが減ったのです。
そう、自分以外に3人いたマイリスト登録者が2人減ったのです。
「もうこの曲は、この動画は必要ない」と宣告されたわけです。
いえ、そう判断してくれる「人」がいればまだマシかもしれません。
自動的にマイリストをするシステムは、
だいたい一週間くらいでそれを外します。
今日でちょうど一週間。
殆どのマイリストがシステムによるものだという事に
現実味ができていました。
こういう時、他の投稿者の方はどうしているのでしょうか。
どうしたらポジティブな精神状態に転換できるのでしょうか。
みっともない事ですが、その後自分の動画を開く度に
妙な恐怖感を、僅かながらも抱くようになってしまいました。
「3曲投稿してもヒットしなければ、その後もヒットすることは無い」
そんなことを聞きました。
根拠はわかりませんが、なにか妙に説得力がある話です。
強い焦りを覚えたのは当然と言えました。
そして、その後もめげずに何曲か投稿を続けましたが、
結果は変わらず冴えないものでした。
確かに万人受けするとは思いませんが、
せめて「個性」は認めてくれてもいいのではないか?
これだけ多くのユーザーがいるニコニコ動画において、
視聴者の好みが一様なわけはありません。
だったら自分の動画・曲にもある程度の評価があっても良いはずです。
なのにどうして・・・?
今思うと「たかがこんな事で」と情けなく思いますが、
その時の落ち込み様は今までに無い程で、
しばらくの間は軽い無気力状態に陥りました。
屈辱というか後悔というか、それとも怒りなのか、
そのどれともハッキリしない、
とにかくあまり良くない感情に支配されていました。