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-あこがれのゆくすえ-

僕が曲を、動画を作る理由はなんだったのでしょう。

有名になりたいという動機があったのは確かです。

だけどほかに、もっと大切な理由があったはずです。

曲を通して、心のうちを表現したい。

聞いてもらいたいことがあるから、曲をつくる。

そういったような、もっともらしいけど純粋で大切な理由が。


僕は、ミクを、ボカロを愛しているはずです。

でも、実際はどうだったのでしょうか・・・。

いまはもう、自信がありません。


人に自分のことを知ってもらいたい。

その欲求は誰にでもある自然なものだと思いますが、

でも、何事もそうですが、過分になれば歪みも生むようです。


欲求を満たそうと、その手段を選ばなくなったとき、

そして、それを自覚できなくなったとき、

人は人でなくなるのかもしれません。


僕はミクを、ボーカロイドを、そしてそれらを愛する人々を利用しました。

自分自身では深く純粋に愛するわけでもなく、

「これなら手っ取り早くいくかも」という、

「ちやほや」されたいという欲求を、

いかに楽に満たせるかだけが重要でした。

そして、それはミクへの憧れを歪な形で育て上げ、

あろうことか、みんなに広く愛されているミク自身に嫉妬し憎みました。

そのミクを越えようと、ミクを利用するという妙な構図が出来上がったのです。


ミクは今もネット上で・・・いえ、現実でも存在感を増し続けています。

一般の人々への認知度も高まり、その価値を無視できなくなっています。

これからも多くの人たちの元に迎えられ、受け入れられて、

その度に新しい才能を掘り起こしていくでしょう。

もう、どうしようもないことなのです。

だれか一人がコントロールできる事じゃない。

だれか一人の「もの」でもない。

ネット上でのコミュニケーションが作り上げた人物であることを忘れていました。

みんなの、一人ひとりの想い。

それは小さなものだけれども、

確実にミクを構成している要素です。

そしてその中には、不愉快に思われるとしても、

僕の残してきた楽曲・動画もあるはずです。

どうしよもない、初めて投稿したあの酷い曲だって

ミクはいやな顔ひとつせずに歌ってくれました。

最初から肯定してくれていたのでしょう。

それは分かっていたはずなのに・・・。



本当の僕の作品は、最初の数曲。

あの初めての大ヒットといえた曲の、それに至る以前の曲達だと気が付きました。

あの曲達は、僕の本当の情念から産み落とされたものです。

完全に反映されているとは言いません。

でも、少なくともそれの含まれる度合いが高いといえる曲です。

数少ないコメントやマイリスト。

僕はその数字のあまりの少なさに落胆し、恥じました。

でもそれは、全く本質を理解できていなかったという他ありません。

もっとその意味を大切にすべきだったのです・・・。



振り返ってみれば、随分とあわただしい毎日でした。

さすがに少し疲れてしまいました。

だけど、休んでいる暇はありません。

僕にはもう、あまり時間がないようですから。

計画などと称して、自分の欲望のコントロールを放棄した結果の、

その始末をつけなくてはならないようです。

人を 一人(もしかしたらもっと多く)、

その人生を不幸な方向へと狂わせてしまいましたから。



まずは、初音ミクを利用したこと、ちゃんと謝らなくてはなりませんね。


一度アップロードされた曲や動画は、

たぶん色々な形でいつまでもネットに漂い続けるでしょう。

すべてを無かったことにするのは不可能です。

だけど、それでも僕は、僕の動画を削除しなくてはなりません。

最初の理由から動機が不純だったのは、認めざるを得ません。

「ちやほやされたい」

こんな理由で音楽をミクを利用してしまった。

だけど、大ヒットして僕のボカロPとしての転機となった

あの曲よりも前の作品は、まだマトモだったように思っています。

すくなくとも、自分の思いを完全に押し封じて殺すようなことはありませんでした。

微かながらも僕の本当の気持ちを込められていたはずです。

だからそれだけは残すことにしました。

これが僕の、示すことができる誠意の一つだと考えます。

都合のいいことを言っているのは理解しています。

そう受け取ってもらえるとは思えませんが、

このみっともない曲を晒し続けることで、

どうしようもない、しかし僕の本質がそこに居たという証になれば。

そして、そんなものでもミクの一部でありたいと願ったことを、

そんなみっともない人間がいたことを証明し晒し続けてくれると思います。

単純な考えですが、恥を晒し続けることで少しでも詫びようと思うところです。


そういえば、あの「こんな風になって残念です」というコメント。

今になって意味がようやく理解できたと思います。

ちょっと遅すぎたかな?

でも最後に理解できたような気がして良かったです。



さて、もう一人のミクにも謝罪しなくてはなりません。

僕が生み出した最大の犠牲者ですからね。

ちょっと遠い場所にいってしまったので、

ちゃんと会えるかどうかはわかりませんが、出かける準備をします。



僕がこんなことする資格はないと理解はしています。

でもあえて一応最後に。

ミクが、ボーカロイドが、これからも多くの人に愛されますように。

素敵な音楽が紡がれていきますように。






西日が差し込む、パソコン以外には、家具と呼べる物がほとんど無い、

そのためか妙に広く感じる四畳半の部屋に一人の男が横たわっていた。

痩せこけた体に、伸び放題の髪の毛、

土気色の顔がその男の生活と健康状態をよく表しているが、

表情だけはとても満ち足りたものにみえた。

カサついてひび割れた唇をモゴモゴと不器用に動かして何かを囁いている。



澄んだ空気は遠くを走るバイクの騒音を素直に伝えて、

もうすぐあの憂鬱な冬がやってくるという事を知らせていた。

窓のすぐそばには金木犀が立っていて、その香りで自身の存在感を示している。

焦点の定まらない、不確かな目でそれをチラリと見遣って、

寒いのは嫌だなと他人事のように呟き、

深く息を吐いてから静かに目を閉じた。

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